第3話 メイガスって何?

ピラミッドのそっくりの建物の中から現れた少女エクレール、見た目は11、12歳くらいだろうか?


スッキリとした顔立ちの美少女で、あと5年もしたらとんでもない逸材に成長するのはまちがえないだろう。


とはいえ口調といい、その醸し出す雰囲気といい見た目通りの年齢ではないようだ。


「えっと、なに?メイガスの・・・」


「メイガス(魔術師)の大書庫でございます。タケル様。」


「大書庫・・・って、どうして俺の名前を?」


「失礼ながら、先ほど扉の前でスキャンさせていただきました。」


スキャン、先ほど入り口で浴びせられた赤い光のことだろうか?


「この施設に入れるのは選ばれた方々のみ、資格の無い者の為に扉を開くことはありません。」


「選ばれた人?どうして俺が?」


転移者だからかと続けようとして言葉を止めた。


まだここがどんな場所かわからないのだから、うかつに自分の事を話すべきではないだろう。


「そうですね。その事についても説明させていただきます。どうぞこちらへ。」



エクリールに案内されて俺は、応接室らしき部屋に通された。


「まずはお飲み物でも」


エクレールがパチンと指を鳴らすと、俺の半分くらいの背丈しかない真っ白なロボット?のような物体がスーッとやって来ると、抱えていたトレイから静かにコップを置いていった。


「オートマタ(自動人形)ですわ。単純な作業はすべて彼らに任せています。」


俺が目を丸くして見つめていたので、エクレールが微笑みながら説明してくれた。


「さて、先ほどのお話の続きですが、このメイガスの大書庫に入れるのは特別に選ばれた方のみです。

それはメイガスを職業としている者、もしくは書庫が特別に許可を出した者だけです。」


エクレールが話の続きを始める。


メイガス・・・職業の一種なのだろうが、聞いたことのあるようなないような。


「スキャンしたステータスを拝見してもよろしいでしょうか?」


どうやら先ほどの赤い光線でステータスも読み取ったようだ。


俺が頷くと、テーブルの上に小さなモニターのような物が現れた。


エクレールは、真剣な様子でしばらくそれをじっと眺めていたが。


「す、素晴らしい!素晴らしいのですよ!!」


先ほどまでの冷静な口調から一変、目をキラキラと輝かせてこちらを見つめてくる。


まるであこがれのアイドルに出会った女の子のような反応だ。


「へッ?」


お茶をすすっていた俺は訳が分からず、驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。


「全ての数値がINTに一点振りされています。このような理想的なステータスは見たことがありません。」


(あーー、そのことですか・・・)


「一体どのような人生を歩めばこのようなステータスを手に入れることができるのか、想像もつきません」


それはそうだ異世界から転移してきた上に、ステータス調整に大失敗したとは誰も思いつかないだろう。


「ハハハ・・・、でもSTRやVITの方が重要だって言われたんだけど・・・」


俺がごまかすように言葉を濁すと


「何を言っているのですか、メイガスにとって重要なのはINTのみ他の要素などは何の価値もありません。

いえ、それどころか貴重なステータス値を消費する寄生虫。ゴミ屑以下の存在です。」


エクレールは可愛らしい顔に似合わない過激な言葉で、他のステータスをこき下ろした。


どうやらこの少女はINTに、並々ならぬ関心を持っているらしい。


「貴方はINT以外の数値は全てが最低限。このような事はたとえ意図したとしてもできることではありません。」


それはそうだろう。


普通にこの世界で生まれ育ったのならどうしたって走ったり、重い物を持ち上げたりと生活の中でINT以外の要素を使う場面があるはずだ。


その活動がステータスに反映されるのだから、何か一つの要素に特化した人間というのはありえない。


生まれてからずっと一つの行動をしてきた、なんてことは不可能なのだから。


しかしながら俺は、転移者特典を間違った方向に使ってしまい、すべての数値をINTに極振りしてしまった。


これは、本来ありえないことなのだ。


そんなこととは知らないエクレールは興奮に頬を赤らめて続ける。


「タケル様のような逸材であれば、書庫が特別に入館を許可した理由も納得できるのです。

では早速、メイガスとしての登録の手続きを始めましょう。」


エクレールは俺の右手を取ると、あやしげな呪文とともに指先を使って手の甲の上でなにやら文様のような形をなぞり始めた。


「ちょッ、ちょっと待ってくれ!何をするんだ。」


俺は慌てて手を引っ込める。


「もちろんタケル様をメイガスとして認定し、この書庫に登録を行うのですよ。」


さも当然というように、彼女は再び俺の手を取ろうとする。


「お、俺はメイガスになるなんて一度も言ってないぞ。」


「バカな事をおっしゃいます。タケル様はメイガスになる為に生まれてきたお方。それ以外に何の選択肢があるというのです。」


「で、でも、他の職業だって試してみなければ分からないじゃないか?」


「それこそ時間の無駄というものです。そもそもこのようなステータスで他にどのような職業に就くというのです。

木こりですか?大工ですか?

まさか戦士などということはありませんよね。

このステータスで戦いに臨んだら森の猪の一撃でも絶命してしまいますよ。」


ジト目で俺を見つめながら、図らずもかどこかの女神と同じようなことを言う。



「そ、そもそも俺はメイガスについて何も知らないんだ。」


そうよくファンタジーRPGとかで、ウィザードとかメイジといった名称には聞き覚えがあるが、メイガスは初耳だ。


「メイガスについてご存じない・・・。

そうですね、今の方々であればそれも仕方のない事かもしれません。

分かりました、まずはメイガスについてご説明いたしましょう。」


エクレールは神妙な様子で少し考えていたが、おもむろにメイガスについての説明を始めた。

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