インテリジェンス(INT)に一点振りしても地頭(ぢあたま)は良くなりませんよ?
江戸川 陸
第1話 ステータス崩壊?
「インテリジェンス(INT)に一点振りしても地頭は良くなりませんよ。」
「はっ?」
ガイダンス役を勤めている女神アーリンの言葉に、俺は思わず間抜けな声を上げてしまった。
「前に説明したじゃないですか。インテリジェンスはあくまで魔法を使う為の能力を向上させる数値、本人の頭の良し悪しとはなんの関係もありません。」
この女神は見目麗しく、まさに女神然としているのだが性格はかなりドライなようだ。
今も、さも当然という口調で、冷たい眼で俺を見つめてくる。
「で、でも・・・ それじゃあ、頭が良くなるにはどうしたら・・・?」
「さあ、それは普通に勉強したり、本を読んだりして努力するしかないのでは?」
何をバカな事を聞くのかというように、アーリンの眼がますます冷たくなっていく。
よくテレビなどで有名人が、あんまり勉強しなかったんだけどと言いながら東大卒だったり、自分が楽しいと思う事をやっただけなんだけど、と言いつつIT企業を創設していたり。
そう、俺は以前から憧れていたのだ。勉強でも仕事でも覚えが早く、どんどん新しいことを吸収して、他人より早く先に進んでいける人に。
俗に言う地頭が良いというやつに。
とあるきっかけで俺は、異世界に転移されることとなった。
そしてこの世界では、各人の能力はステータスで表されるという。
それを聞いて俺はひらめいた。
そう、ひらめいたのだ。
STRが腕力、AGIが敏捷性、VITが体力を示す数値ならば、INTは?
そう、知力である。
であるならばINTに一点振りすれば、労せずして頭が良くなるのは必然と考えて、配分可能なポイントをすべてINTへと振ってしまったのだ。
それどころか当初、均等に25ポイントづつ与えられていた他の数値(LUCは調整不可)も、最小値まで下げてそれまでもINTに加えてしまった。
それゆえ今現在の俺のステータスは
○タケル・オオミヤ
職業 未定
HP 10
MP 165
STR 10 (最小値)
VIT 10 (最小値)
INT 165
AGI 10 (最小値)
WIS 10 (最小値)
LUC 18 (調整不可)
とINTに極振りされている。
「そ、そんな・・・それじゃあ俺のしたことって・・・」
「だから、以前の説明で教えましたよね?
ステータスは満遍なく振るのが無難だと。
特にストレングス(STR)とバイタリティ(VIT)は非常に重要なので、どのような職業を目指すとしてもある程度は振り分けておくようにと。
聞いてなかったのですか?
まさか居眠りしていたわけじゃないでしょうね?」
自分の失敗を知り愕然とする俺に対して、女神の視線はさらにきつくなってくる。
確かにそんなようなことを聞いた覚えがある。
だけどあの時は、異世界転移に興奮、あれこれと妄想を膨らませていて良く聞いていなかったのだ。
「あーあ、こんな極端に一点振りしちゃって、転移者に与えられる特別加算のポイントも全部振ってしまったんですか?これはもう愚かを通り越して哀れみを感じるレベルですね。」
女神アーリンは、冷たさを通り越してゴミを見るような眼で俺を見つめてくる。
転移者には、途中から新しい世界で人生を始めるにあたって、特別にボーナスのステータスポイントがあたえられるのだ。
しかし俺は、それさえも全部INTに振ってしまった。
「加算ポイント80なんてかなり運の良い方ですよ。それなのに、あなたは・・・」
小さく首を振りながら、心底呆れたという表情を見せるアーリン。
「せめて一点振りするならば、STRかAGIあたりにしておけば、まだ見る目があったかもしれないのに・・・」
「ど、どうして?」
「それも説明しました。この世界は以前あなたが暮らしていた世界に比べて文明の発展はかなり遅れています。
ですから体を使う仕事、いわゆる肉体労働の需要はとても大きいのです。
STRは筋力に、AGIは手先の器用さに関連する要素。
これらの数値ならば高めておけば、この先どんな職業に就くとしても、色々と応用が利くのです。」
確かに筋力があれば、大抵の肉体労働はこなせるだろう。
手先の器用さは、職人系の仕事では役に立つ。
「新しい世界に慣れるまでは、そういった単純な仕事に就いて、この世界の慣習や制度に慣れてからでも、進む道を決めるのは遅くないと。そう説明したはずです。」
ああ、眼を見ればわかる、女神はもう完全に俺を見捨てている。
「そしてなにより、ミルガルドと呼ばれるこの世界は、あなた方の言うゲームの世界とよく似ているかもしれませんが、決定的に違う点が一つあります。
それは命は一つ、人生は一度限りということです。
ゲームのように何度でも生き返って、再挑戦などできないのです。
だからこそHPに直結するVITの数値は非常に重要だというのに・・・」
彼女の言う通りだ、ここはゲームの中ではない。
現実の世界なのだ。
死んだら終わりという世界で、HPが最も大きな意味を持つのは当然だろう。
「あの・・・、ポイントの振り直しとかは・・・できませんかね?」
「残念ですが、ステータスの再設定は転移者に与えられる大きな恩恵の一つ。
やり直しはできません一度限りです。」
おそるおそる尋ねるが、一蹴されてしまう。
「・・・」
終わった・・・。
異世界で研ぎ澄まされた知性(地頭)を駆使して、バリバリ仕事をこなして、どんな問題も簡単に解決、周囲からの羨望を集めつつ立身出世という、俺の夢はスタートする以前にあっけなく消え去ったのだ。
「・・・はあーー、仕方ありませんね。
本来ならばいけない事なのですが、私の持つ権限で一つだけ特典を与えることにしましょう。
これらのカードから一枚を選んでください。
転移者に与えられる特典の中でもレア以上の物が揃っています。
これで少しは貴方の失敗を修正できるでしょう。」
俺のあまりに落ち込んだ顔を見て、さすがに同情心が芽生えたのか、女神は大量のトランプのカードような物を空中に浮かべて見せる。
俺は言われるままに、それらの中から一枚のカードを選んだ。
INT+100 レア(A)
「・・・・」
「さて、それでは」
カードを見て固まった俺をスルーして、アーリンは何事もなかったかのように話を進める。
「これから貴方を新たな世界に転移します。
これは貴方に適した候補地からランダムに選択されますが、通常は大きな問題は起こりません。
ただ貴方の場合は、最低限のHPしかありませんので、転移先が野外、森の中だったりしたときは、猪の牙等で絶命するという可能性もあるので十分注意してください。」
さらりと恐ろしいことを言う彼女の言葉を聞いて、俺は震えあがった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、もう少し考える時間を・・・」
「それでは、貴方の新しい人生に幸多からん事を願っております。」
俺の言葉を無視して、ニコリと笑顔で転移者を送り出す女神だが、その笑顔は厄介者の相手を終えてヤレヤレ一安心という様に輝いていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます