対峙
サカトゥム攻囲
青薔薇の軍勢が逃げた女帝を追って帝国領に侵攻すると、人々は先を争うようにグレイスへの臣従を申し出てきた。
ブルーローズが劣勢を覆してゴールデンフリースに完勝したことも大きかったが、決定的だったのは、帝国の本隊がオウルモッフの戦いで不利になったとみるや我先に逃亡したことだろう。あれでマリアへの信頼は地に落ちた。
グレイスとしても帝国の拠点が抵抗らしい抵抗もせず軍門に降ってくれるのはありがたいのだが、一方でマリアが即位した際にはむしろ諸手を挙げて賛同していた者たちまでがブルーローズを解放軍と称え、マリアのことを狂乱の女帝と誹ることには内心うんざりしていた。
「仕方ありませんよ。ブルーローズとの戦いへの備えとしてここ二年ほど、黄金の羊毛国では課税や動員をかなり強化していたようですから」
ジュディスはそう言って慰めるが、そういうことではないだろうグレイスは心の中で呟く。安全を求めて強き者に媚びを売り、ひとたび強き者が落ちぶれれば石を投げて恥じることがない――民とはそういうものだ。
半月たらずで青薔薇の軍勢は帝都サカトゥムに達した。
全ての城門を閉ざし籠城の構えを見せるマリアに対し、グレイスは帝都を包囲した上で降伏勧告の使者を送ったが、返答は使者の首であった。
――となれば、戦うより他ない。
問題は、城下町まで一体的に城壁で囲いこんだ帝都は、堅城鉄壁と言ってよく、落とすのはそう簡単ではないということだった。
力攻めでは犠牲が大きく、兵糧攻めは時間がかかり過ぎる。グレイスは何日もの間思案をした後に――あるいはそのような態度を見せつけた後で――百合之峡谷騎士団に対して密かに帝都への潜入を命じた。
夜陰に紛れて城壁を上り、内部より城門を開けて味方を招き入れる――百合之峡谷騎士団に与えられた任務は極めて危険なものだったが、グレイスからの直々の命令に彼らは奮い立った。
ただ、蛮勇狂奔の百合之峡谷騎士団をして驚嘆せしめる出来事があった。
決行の夜、団長が点呼を命じると、最後に「五百一」と声を上げた者がいたのだ。
その声を聞き間違える者は、百合之峡谷騎士団には存在しない。
「「グレイス様――」」
呆然とする男たちに向かって、グレイスは言った。
「これでゴールデンフリースとの戦いに終止符を打ちます。であれば、わたしがいかないという選択肢はありません」
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