勇者と突然死

勇者はあっけなく死んだ。


死因は流行病はやりやまい


驚異的な再生能力を誇る

勇者であったにも関わらず、

その再生能力は解除されており

使われることはなく、

フロリア達によるヒーリングも

一切受けることもなく、

それはまるで自ら死を選ぶかのような

自殺でもするかのような最期であった。


もちろん勇者が今まで

己が犯して来て罪を悔い嘆き

死を選んだという訳ではない。


残念ながらこの勇者は

そんな殊勝なことは全く考えず

一切改心することも無く

この先も生き続けて行く。


もう既に死んでいるので

生き続けると言うのも

おかしな話ではあるが。


勇者にはまだ

やらねばならぬことがあったのだ。



勇者が死んだ後、

この世界の生活を支えるのに

重要な役割を担っている

勇者のクローン達は

一体どうなるのかが懸念されるが。


ワイヤレスインフラ・ライフラインの

生体ユニットとして

人々に電気・水道・可燃性ガスを供給し、

転移魂魄を使う専任の神父、

その他転移強奪能力など、

地味ではあるがある意味

勇者以上にこの世界を支えているのが

勇者のクローン達であり、

この世界の人間にはまだ

勇者クローンの力が必要であった。


さすがに勇者にも

それは分かっていたので

クローンのリーダーとして

クローン部隊を使役出来る、

人格も能力も完全にコピーした

もう一人の自分を作り上げ残して逝く。


勇者が死んだことを

知らない人が見れば

完全にオリジナルの勇者だと思うだろう、

感情もあれば表情もある

オリジナルの勇者と瓜二つ。


勇者の複製能力は

人の魂すら複製することに

成功していたのだ。


そうなるともう

どちらがオリジナルなのかわからない、

もしこのままずっと

リーダーである勇者が二人いたら

この先喧嘩でも起こっていたかもしれない、

そう考えると勇者の急逝は

いいタイミングであったし

幸いだったとも言える、

とんでもなく不謹慎ではあるが。


とにかくこうして勇者は

心残りなくこの世界を去って行った。


もう一つの心残りを

解消するために。


-


「どもども、お疲れ様〜」


転移の間、

気弱であった筈の転移の女神は

すっかり豹変してこの上なく明るい。


「上から早く処理しろって言われてて、

すっかり参ってたんだよね〜

もう胃が痛くなって

仕方なかったのよ〜」


転移の女神はすっかり悩みが解決して

浮かれている様子だ。


「あなたのお陰で

本当に助かっちゃったわぁ〜

まさかあの魔王を倒してくれた上に

魔族をみんな

処分までしといてくれるなんて

思ってなかったもの」


「上はあなたの功績を讃えて、

問題がある異世界を流浪して

トラブルを解決して回る

勇者請負人にしたい

なんて言ってるけど、どうする?

思い切ってやってみちゃう?」


浮かれて饒舌になっている女神が

気に食わない勇者。


あの世界の元人間に

同情する気は全くないが、

自分に何も教えず

利用したことは気に入らない、

勇者のその気持ちに変わりはなかった。






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