魔王の最期

「君が、いや貴様が、

この美しかった世界を、

こんな変わり果てた姿に

してしまったのだ……」


「貴様だけは、

やはり許せんっ!」


猛毒に侵されている魔王、

最期の気力を振り絞って

自らを鼓舞し立ち上がって

勇者に襲い掛かろうとする。


「それ、『お前だけは許せん』ての、

いろんな人によく言われるよ」


勇者もこのまま

魔王が大人しく

死んでくれるとは

思ってはいなかった。


鬼気迫るオーラの魔王、

しかしその体は強力な何かに

後ろに引っ張られて

前に進むことが出来ない。


魔王の背後には

小型のゲートのような

黒い空間が出現しており、

そこからの強い力で

引っ張られているのだ。


「馬鹿な、ここでは

転移のゲートは開かない筈」


「まぁ確かに

よく似ているんだがね、性質も」


「ご存知かどうかは知らないが、

それは小型のブラックホールと言うものでね、

どんなものでも吸い込む」


「なんとっ」


「俺のクリエイト能力でつくったんだが、


さすがにこれをつくるには

時間が掛かるからね、


爺さんが話をしてる間に

つくらせてもらったよ」


「クッ、時間稼ぎであったか」


「まぁ、ちゃんと

話も聞いてはいたよ」


「でも年寄りの自分語りなんて

若者には全く興味がないんだぜ、

年寄りの悪い癖だな」


自分から話をさせておいて

この言い草。


前に進もうと精一杯

最期の抵抗を見せる魔王。


これが長い間この世界に

あってはいけないものだということは

さすがに勇者にも分かっている、

早くしないと自分も呑み込まれる。


「まぁ、安心しなよ、

あんたが逝ったら

この俺がタイムリープで

あんた達が人間だった頃に時間を戻して、

魔族化する運命をやり直させてやるよ」


その言葉を聞いた魔王、

体の力が一瞬緩む。


「あんたもさっきの俺の

時間を巻き戻す能力を見ただろ?」


魔王は俯き、考えている。



「嘘だよっ」


勇者はそう言うと

魔王の腹を右足で蹴り飛ばした。


ヨロヨロとフラついて

そのまま小型ブラックホールへと

吸い込まれて行く魔王。


魔王いや老人は

絶望的な顔をしたまま

深い闇の彼方へと消えて行った。


危うく自分も

吸い込まれそうになる勇者は

慌てて小型ブラックホールを

消滅させる。



魔王にタイムリープの嘘をついた勇者、

そもそもこの件に関しては

おそらくタイムリープが出来ない、

最初からそう思っていた。


それが出来るなら

神が盛大にやらかした時点で

時を巻き戻すなりして

この世界を元に戻していた筈。


やらなかったということは

出来ない理由があったか、

出来なかったということ。


そしてもう一つ、

これもおそらくだが、勇者の能力で

勇者がこの世界に来る前の時間に

タイムリープすることも出来ない。


もし過去を変え、

未来が変わった場合、

勇者が来る必要はなくなり、

そこで矛盾が生じて

分岐のパラレルワールドに

なるぐらいのものであろう。



とりあえずは何とか

魔王を倒すことが出来た勇者。


イレギュラーな倒し方をすると

経験値が貰えないため、

LVは最大が99であるにも関わらず

ここまででわずかLV16しかなく、

結局ゲームのプレイヤーとしては

弱いままで終わった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る