動く山々

この戦闘も

もう既に何時間が経過しているのか

それすら定かではない。


もしかしたら実は数日が

経過しているのかもしれないし、

まだ数十分しか経っていないのかもしれない。


体感密度が濃すぎて

時間の感覚がよくわからなくなっている。



現時点でこちらの被害は

それ程大したことはなかった。


敵ももちろん魔法などで

攻撃をして来ているのだが、

勇者軍は基本的に

遠く離れた所から全体攻撃魔法を

ひたすら繰り返し放っているか、

転移強奪による兵器攻撃しかして来ないため、

魔王軍は一方的にサンドバックのように

打たれ続けることの方が多かった。


もちろん、敵の攻撃に被弾して

負傷したクローンも多くいたが、

勇者並みの再生能力を持っているため

すぐにほぼ無傷の状態に戻る。


クローン勇者以外の兵力に関しては

クローンフロリアが治して回っていた。


結果として戦局は

根気比べの様相となっている、


-


この全体攻撃魔法の

雨あられの中を搔い潜って来る幸運な敵兵も、

数は少ないがいない訳ではなかった。


この場合、その先にある

地雷地帯で地雷を踏んで爆死する。


そこも運良く通り抜けると

砂漠の地中に潜んでいる

サンドウォーム達の餌食に。


そこも抜けた場合は

山側面にあるビル群から

ミサイルや砲弾の集中砲火を浴びせられ、

その先にある溝、水域エリアには機雷、

そこをさらに抜けて山に辿り着いても、

最終的には山に住み着いている

魔獣達に喰われる。


今のところ山まで

辿り着いた敵兵はいない。


この敵の大軍勢から考えると

相当数に山付近まで近寄られた時点で

圧倒的にこちらが不利になる。


最後の頼みの綱、

残り一度の核兵器を使うにしても

山付近では人間エリアに近過ぎる、

そこで使用すればこの先

核放射能の危険に晒されながら

人間が暮らしていかなくてはならなくなる。


何としてでも敵が山に近づくことは

阻止しなくてはならない。


この山を越え

中に入られること、

それはほぼ敗北に等しい。


-


戦局が膠着してしばらくすると、

西側方面の地平、

その遥か彼方に

山々が見えはじめる。


当然そんなものは

さっきまで存在しなかった。


『転移か?』


勇者は魔王が転移で

何かを出現させたのかと警戒するが、

大気が淀み濁り切っていて

ハッキリと分からない。


だかどうやらそうではないようだ。


明らかに山々は

先程から少しずつ大きくなって来る。


動いてこちらに向かって来ているのだ。


もう少しすると

山々だと思われていた影が、

人の形をしているということに気づく。


『ゴーレム、なのか?』


それは人の形をした巨大なゴーレム。


しかも百メートルを優に超える

超巨大なゴーレムであり、

それが連なりこちらへと

向かって来ているのだった。


その数もまたすざましい。


それはどう見ても

山々が動いているようにしか見えなかった。






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