超民主主義国家

「ちょっと待ってくれ、

俺の可愛いエイミーちゃんに参政権がないって、

一体どういうこだよ?」


普段温厚な斎藤さんが珍しく怒っている。


エイミーちゃんとは

斎藤さんが現在交際中のタヌキ種の亜人のことで、

どうやら斎藤さんは丸顔の娘がお好きらしい。



新たにこの世界の住民となった人々により

着々と新しい国造りの準備は進められていた。


現在はその会議の真っ最中、

約二十人の人間メンバーが集まっており、

勇者もまたここに参加している。


以前より居る人間は

年寄りと子供ばかりであり、

彼等も国が無い状態を嘆いていたため、

建国にはむしろ大賛成、

そことの間にトラブルらしきものは一切なかった。


ここで問題になったのは

人間以外の他種族を国民とするか否か。


人間の国にするのか、

もっと多様性のある国とするのか、

争点はそこにあった。


「そもそも種族が違うのだから、

人種差別にはならないだろう」


他種族の参加に

否定的な人達もいる一方、

斎藤さんのような積極派もいる。


「国民台帳に登録されていれば、

やはりそれは国民であろう、

登録するしないは各人の

自由意志でよいのではないか」


他にも様々な意見が

参加者から出された。


「仮に人型全般が

国民登録出来ると仮定して、

人型ではない知的生命体はどうなる?


何でもここには人語を話す

ドラゴンも居たそうじゃないか、

そういう生命体も

国民になろうと思えばなれるのか?」


「いや最低限登録用紙に

本人が記入出来なければ、

認められないだろう」


「それは一理ある」


しかしそれだと

手が不自由な人間は

どうなってしまうのか?


議論は尽きることがない。


-


長い議論の間、勇者は一言も

意見を発することはなかったが、

最後に一言だけ見解を述べた。


「他の種族を

国民としなかった場合、

いずれ他種族との覇権争い、

闘争が生まれるでしょう。


それよりも種族を問わず

同じ国民として一致団結する

共生を目指した方が

いいのではないのですかね?


闘争は選挙の時だけで済みますよ?」


勇者がそう言って笑うと

その場のみなもつられて笑った。


現代日本から来た人間であれば、

戦争は最も忌み嫌う筈、というのも

勇者には織り込み済みだ。


「みなさん、仮にも民主主義国家を

建国しようとしている訳ですから、

ここはやはり民主的に

多数決がいいのではないですかね?」


勇者が発した

最後の一言が後押しとなり、

多数決の結果、

国民登録の意志が認めらる者は

種族に関係なく、すべてみな等しく

国民になれることになった。



勇者は政治や権力、イデオロギーなどには

全く興味がなかったが、

ただ既成概念や固定概念というものが大嫌いで、

そうしたものを見ると

ぶち壊したくなる性格をしている。


なのでドラゴンや魔獣が国民の

そんな民主主義国家があったら面白い、

ただそう思っただけのこと、

ただそれだけに過ぎなかった。






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