勇者と独立国家

超豪華客船の亡命者

魔王軍内部、

四魔将の派閥争いを原因とする

武力衝突は未だ続いていたが、

民主主義を標榜する

フィーア将軍の戦局は思わしくなく、

魔王の復活を待たずして

既に敗戦は濃厚。


民主主義の旗印の下、

他種族の支持を得てはいたが

逆に魔族内からの反発が想像以上に強く

苦戦を強いられる結果となった。


フィーア将軍は

東側大陸への亡命を希望、

まだ国家が無いのに亡命と言うのも

おかしな話ではあるが、

勇者が大陸を分断し要塞化したため

陸続きで入って来ることがまず不可能で、

エルフのおさ

勇者の成りすましたダークナイトに

協力を要請したのだ。


フィーア派の群勢は

未だ数万の兵力を残しており、

その家族や一族、そうした非戦闘員も考えると

十万を越すことになるかもしれない。


その数で陸地伝いに

あの要害を越えて来るのは

やはり無理と言うものだ。


遠回りではあるが、

海洋から南側ルートを回り

こちら側の大陸に渡って来るしかない。


それ以外は

空から入るしかないのだが、

大人数を一度に運べる

空の移動手段はまだ

この世界には存在しない。


飛空挺であったとしても

何千何万単位を

一度に乗せることは

さすがにまだ出来なかった。


-


勇者としては

見捨ててもよかったのだが、

こちら側に数万の兵力が増えるということは

悪い話ではなかったし、

魔王軍の民主主義派は

魔族以外の他種族が大多数で

彼等は利用出来ると判断し、

助けることに決めた。


東側に、もうあれ程の

現代日本から人間が入って来ていれば、

これから建国される国は

間違いなく民主主義国家となる、

この状況で今更

王政の国になることはない。


その際に

西側の民主主義派の彼等が

東側に居る他種族に

民主主義を布教してくれる筈、

勇者にはそういう思惑があった。


-


西大陸の南岸に秘かに集結する

フィーア派を護衛しつつ

用意した船に乗せ

東大陸の南岸部まで運ぶ、

それが今回のミッション。


護衛役にはダークエルフ達、

魔法担当としてイヴァン本体、

アンデッド対策に複製フロリア、

そして船舶に関する知識は斎藤さん

という布陣。


クローン部隊は

まだ敵に見せたくないと勇者は考え

今回は敢えてダークエルフ達を選んだ。



西大陸に着き

勇者がまずしなくてはならないのは

転移強奪で船舶を数隻用意すること。


最初に勇者が用意した船を見て

船舶に詳しい斎藤さんは

ツッコミを入れる。


「あの、これ、

ちょっと豪華過ぎないですかね」


確かに岸に停泊しているのは

亡命者が乗るとは思えない

派手な超豪華客船、

これではまるで何処かに

豪遊しに行くように見える、

コッソリ亡命しようと言うのに。


「大金持ちが

世界一周旅行とかする時に乗る

超豪華客船ですよね」



せっかく出したので

それはそれで使うとして、

勇者は二隻目の船を出すことに。


あまりボロ過ぎても

船は沈んでしまうし、

どれぐらいが良いのだろうかと

勇者は迷いながら転移強奪を使う。


「あの、これ、

タイタニック号じゃないですかね」


船が沈むとか考えていたせいであろうか、

まさか沈没船を召喚してしまうとは。


しかし沈没する前の状態ではあったので、

これもこれで使うことに。


この時点で人間世界での

タイタニック号の悲劇に関する

歴史的事実は消えることになった。



じゃあもうこの際、

ボロくてもデカくてキャパがあれば

何でもいいだろうと思い、

勇者は船を召喚したが

やはり斎藤さんに

ツッコまれることになった。


「あの、これ、

ノアの方舟じゃないですかね」


確かに木の舟で

何故かは知らないが

中には人間世界の動物が

種類豊富に多数乗っている。


最近は転移強奪の暴走が凄過ぎて

勇者自身もちょっとビビり気味。


もしノアの方舟が実在していたのなら、

それが無くなったということは

もう大変を通り越したレベルで

過去改変が起きていたも全く不思議ではない。


『やべえ、

あっちの人類滅んだかも』






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