魔女の遺伝子

人間の集落へ、

魔王軍の最高魔導士である

イヴァンを拉致、攫って、

連れ去った勇者。


横たわり眠っているイヴァンは確かに

この世のものとは思えない美しさ、

『麗しき魔女』と

呼ばれるだけのことはある。


しかし、勇者とて

イヴァンの美しさに惚れ、

情欲に駆られ連れ去った訳ではない、

もちろんそれなりの

理由があってのことだ。



この先迎えるであろう魔王との決戦、

それにはどうしても

魔法に造詣が深い者が

必要不可欠であった。


生き残っている人間達の中には

まともな魔道士すらおらず、

子供達が独学で習得した

魔法がせいぜいと言ったところだ。


今までは敵兵力の数を減らすための

言ってしまえば

雑魚刈り程度であったため、

勇者もそれ程気にしてはいなかったが

これから魔王が復活し

決戦を迎えることになれば

おそらくそうはいなかいだろう。


もちろんまだ勇者は

暗殺を諦めてはいなかったが、

少なくとも一度は

総力戦があるだろうとも推測していた。



その際、勇者が最も恐れるのは

初見で相手がどんな術や技、能力を

使って来るのかすらわからずに

一方的にボコられること。


よく対戦ゲームなどでありがちな

敵が何をしているのか

全く理解出来ないまま

気づくと死んでいて

ゲームオーバーになっていたという事態、

それだけは何としても避けたかった。


それには魔法の術や技に

造詣が深い人材が

どうしても必要なのだ。


言ってしまえば、

魔法の術や技の解説者役、

もしくは敵のステータスを

調べるための攻略サイト役、

そう言った存在。


それで勇者が白羽の矢を立てたのが

魔道士イヴァンという訳だ。


-


当然イヴァンの魔法による

攻撃力・防御力も

戦力として期待出来る。


イヴァンを複製して

催眠洗脳を使って味方にすれば

この上ない戦力となるだろう。


眠っているイヴァンを

複製しようとした時、

図らずも彼女の遺伝子情報を

感覚的に理解した勇者。


『なんだこれ?』


『こいつほとんど、

人間と一緒じゃあないのか?』


魔族の因子だと思われるものが

数個点在していたが、

それ以外はほぼ自分が

遺伝子操作する時に見る

人間の遺伝子情報と全く一緒。


彼女はもしかして

人間と魔族のハーフなのか?

勇者は疑問に思わずにはいられない。


-


幸いなことに

眠りから目覚めたイヴァンは

まだ勇者の催眠洗脳に掛かっており、

自分を勇者に仕える者だと

思い込んでいた。


イヴァンの中では

魔王と勇者が入れ替わっただけに

過ぎないのかもしれない。


彼女の魔法の力がどれぐらいなのか

事前に見ておきたかった勇者は、

イヴァンに大陸を分かつ溝を

さらに広く深くするために

真っ二つにするように命じた。


「しかし、この大陸を

切り裂くだけの魔力となりますと、

その後二十四時間は魔法が

使えなくなりますが、

よろしいですか?勇者様」


「複製もいるから、平気、平気」


勇者は軽く考えていたが、

イヴァンが宙に浮かんで

放った極太の光線は

危うく大陸を地盤から真っ二つにし、

地殻変動を起こしかねない威力であった。


勇者とクローン部隊が

そこそこ手間と労力を掛け

そこそこ大変だったのだが、

それがまさしく一瞬の内に。


勇者が当初イメージしていた

スパーッと大陸を真っ二つに

切り裂くすごいビーム、まさにそのもの。


『やべぇ、なんだコイツ』


『はじめから、

コイツ捕まえてくればよかったな』






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