勇者とクローン

今現在、敵の情勢はと言えば

案の定、魔王がいない間に

四魔将の派閥争い、内紛が激化し、

本格的に武力衝突がはじまっている。


向こうが勝手に戦力を

減らしていってくれている今の内に

戦力を増強しておきたいところでもある。


しかしそうは言っても物がない、

それよりも以前にまず人がいない。


こちらも結局は

人の問題に辿り着く。


勇者にも考えがない訳ではなかったが、

それをやるにはいささか根性が要った。


-


まず勇者は

自分の再生能力を見直し再調整を行う。


腕一本斬られても

すぐ再生するぐらいの能力でなくては、

自分が痛くてかなわない。



勇者は以前考えたことがあったのだ。


例えば、すごい再生能力を

持った者がいたとして、

そいつが体を真っ二つに斬られた場合、

そのすごい再生能力があれば

斬られた両側が共に再生して

二人になったりはしないのかと。


今勇者が試そうとしているのは、

そういう類のことであった。


たださすがに体を真っ二つにされて

失敗しましたでは済まないので、

まずはせいぜい指ぐらいで

試してみたいところだ。


ダークナイトの剣を手にする勇者だが、

自分で自分の指を切るというのは

さすがに気が進まない。


かと言って

集落の子供達にやらせる訳にもいかず、

ましてや手が震えているような

年寄りなどにやらせた日には、

誤って首を切り落とされかねない。


やはりここは自分でやるしかないのだ。


『自分で指詰めるとか、

今どき極道でもやらねえだろ、

昔の極道じゃねえんだからよ』



勇者は観念して、

剣で自らの小指を切り落とす。


「クソっ、痛てぇっ……」


指からは血が溢れ、流れ出て行く。


焼け着くような

激しい痛みに襲われたが、

それもすぐに治まる。


再生能力を調整していた甲斐があって

すぐに小指は再生された。


こちらは成功したと言っていいだろう。


問題は切られた小指の側であり、

ピクピクン動きながら

次第に形が変わりはじめていく。


その見た目だけでも充分にグロい。



それから数時間後、

切られた小指は

勇者とほぼ同じサイズ、

同じ姿の複製にまで変貌していた。


全く動かずに倒れている

人形のようではあったが、

とりあえず勇者の試み通り

自分の分身を生み出すことには成功した訳だ。


動かないのは、

おそらくこの肉体には

魂がないからだろうと推測されたが、

勇者の能力で操り人形のように

動かすことは出来たので

とりあえずはよしとすることに。



後はこの勇者の複製をバラバラにして

各パーツごとに再生させていけば

鼠算式に勇者の複製が

大量に誕生することになる。


結局、勇者は

人間世界でクローンを

つくり出そうとするのと同じことを

能力でやろうとしているのだ。



剣を手に、自分の分身である

複製勇者の前に立つ勇者。


当然なのだが、

自分を鏡で見ているようで、

今からこれをバラバラにする

ということに怖気づく。


『こいつバラバラ死体にするとか、

絶対無理だわ』


『すげえ、グロじゃん、どう考えても』







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