アンデッドの詰め合わせ

ドーム内は

この世界のありとあらゆる霊体系アンデッドで

満ち溢れていた。


観客席やグランドだけどころではなく、

ベンチ、ブルペン、通路、

ドーム内の天井付近まで

びっしりと埋まっている。


おそらくその動員数は

数十万にも達するのではないだろうか。


そんなアンデッドで

満杯になっているドーム内のど真ん中で

結界を張って耐えている

少年少女魔道士団の五人。


「もうダメっ、

このままでは

結界が破られてしまう」


張っている結界もそろそろ限界、

というよりも子供達の魔力自体が

もうすぐ尽きようとしている。


ここに居る霊体系アンデッドは

みな子供達の、人間の肉体に

魅かれてやって来ており、

子供達は撒き餌にも等しい。



人間社会であれば、

幼児虐待の事案になること間違いなしだが、

それをやらせている勇者本人は遠くの高台から

タイミングを見計らっていた。


魔族の癖に、時間厳守な

規律正しい魔王軍であるから、

もうみな集まっている筈ではあるのだが、

今回に関しては

後から遅れてやって来ました

という者達がいるのは非常にマズい。


作戦は二段階あるが

どちらも一発勝負、

一度しか使えない作戦でもある。


したがって勇者も

多少は慎重にならざるを得ない。


とりあえずは

自分が魔王に成りすまして

偽の命令を伝えたリッチや

ネクロマンサーと言った者達が

全員この場にいるかを確認してみる。


多少の討ち漏らしは

絶対出るであろうし、仕方ないにしても

ここで一体でも多くのアンデッドを

一網打尽にしておきたいところだ。


-


「じゃ、まぁ、

そろそろはじめますか」


勇者はそう言うと、

左手をドームに向かって前に伸ばす。


「転移、強奪」


ドーム内で囮にされていた

少年少女魔道士団の五人達は

勇者の元へと転移され

やっとようやくあの地獄から

抜け出すことが出来たのだった。


子供達はお互いに

人数を数えて確認し合う、

そういうことを

気にしてはくれない勇者だということは

もう既に充分承知済みだ。


もし何かあったとしても、

おそらく尊い犠牲として

済まされることだろう。


「大丈夫、全員いる」


子供達がそう言うのが

聞こえているのかいないのか、

勇者は次の能力を発動させる。



「転移、消滅」


再び勇者が左手をドームに向けると、

異空間に繋がるゲートが出現し

ドームを呑み込んで行く。


中のアンデッドごとドームを

何処かの異世界に転送させた勇者。


しかし、こんなものの

詰め合わせを送り込まれた

他世界からすれば

甚だしく迷惑な話しでしかない。


もし仮に

人間世界に送り込まれていたら、

ドームが戻って来たはいいが

数十万の怨霊が中から

飛び出して来るという

阿鼻叫喚しか思い浮かばないことになる。


もはや新手の侵略兵器か

幽霊テロでしかないだろう。


-


後は残った

肉体を持ったアンデッド達を

処分するだけではあるが、

周囲に人はいない方がいい。


新しくつくった

他人を指定の場所に転移させる能力

『転移送信』で

勇者はテト達子供五人を

人間エリアまで転移させる。


先程の警備員もこの能力で

既に人間エリアに送り込み済みだ。


「さすがに今回のはヤバいからな、

しばらくはあそこで大人しくしてろ」


勇者がそう言うのと同時に

子供達はその場から姿を消した。





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