空飛ぶ蜘蛛

空から何かの群れが飛んで来る。


敵軍も最初は

虫か鳥の群れだと思っていたが、

近づくに連れ、

それが見たこともない

奇妙なものだと気づく。


細長い胴体に

足のようなものが四本、

その上では何かが

終始回転して空を飛んでいる、

まるで空飛ぶ蜘蛛のようにも見える。


数は数百ぐらいあろうか、

みな一様に何かをぶら下げている。


これを撃ち落そうと

弓矢を放ち、魔法を使うと、

ぶら下がっている袋が破け、

中から液体が飛び散り、

その液体が気体となって

周囲に広がった。


するとその付近にいた者達がみな

何やら苦しみはじめる。


-


勇者は今回の作戦に

ドローンの編隊を用意し、

それにあるものをぶら下げさせた。


ぶら下がっている袋の中にある

揮発性の液体が外気に触れると

通常温度で気体となり

神経ガスとなって

周辺にまき散らされる。


人間世界ではそれを

化学兵器と呼ぶ。


人間世界の戦争では

条約で禁止されているような代物だが、

生憎あいにく人間と魔王軍の戦いに条約などはない。


敵が人間を皆殺しにすると言うのならば、

こちらも敵を皆殺しにする覚悟で望むまでだ。


そう考えると、

戦争は殺し合いでありながら

非人道的な兵器の使用を禁止し

捕虜の扱いや宣戦布告など

条約という名のルールがあり、

むしろそちらの方が

不思議なことのように思える。


-


これもやはり少年少女魔道士団に

持続性がある毒性アップの魔法を掛けさせ、

今回は袋詰めとドローンにぶら下げるまで、

すべての準備を勇者はやらせていた。


「お前ら、気をつけろよ、

それ触れたら神経やられるからな」


勇者の言葉に

リーダーのテトは

またも目を見開いて驚いていた。


「えぇっ!

そんな危ないもの

子供の僕らが扱って

大丈夫なんですか!?」


全然大丈夫じゃない。


子供に化学兵器を扱わせるとは

まさに外道勇者。


「お前らには

ヒーリングがあるから、

大丈夫だろ、平気、平気」


-


「まぁ、こいつらにヒーリングないのは

本当に助かるんだわ、こっちとしては」


化学兵器の神経ガスに苦しむ

魔族、魔物を見て

勇者はしみじみ思う。


今回の敵軍に

回復担当と思われる者は

誰も見当たらない。


そもそも回復魔法を使う魔族が

存在しないのだろうか。


回復魔法は神聖なイメージだから

使えないのはわかるが、

とは言え回復手段がないのは

どうだろうかと勇者は思う。


勇者は好きに能力を

つくれるようになった時、

まず真っ先に再生能力をつけた、

それぐらいに重視している。


魔王軍の場合は

個々の再生能力なり

根性なりで頑張ってくれよ

ということなのか。


-


とは言え

この世界の生き物に

化学兵器がどこまで効くかは

全くの未知数で、

勇者もそれ程余裕しゃくしゃく

という訳でもない。


セスナ機を空に飛ばし

農薬をはじめとする

ありとあらゆる劇薬、

毒物を散布させる。


以前も行ったように

PM2.5や花粉までも

転移強奪で撒き散らす。


魔王軍はこの世界にはない筈の

化学薬品まみれになっていた。





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