ノーベル平和賞

「俺、あっちの世界から

ノーベル平和賞貰っても

いいと思うんだよね」


森の奥深くにある敵拠点を

実験場に決めた勇者は、

転移強奪であちらの世界から

核廃棄物を転移させ

基地周辺にばら撒いていた。


もちろん被爆対策として、

これまた転移強奪した防護服を

勇者は着ている。


こちらの魔族に

放射能がどれだけ

影響を及ぼすのかはわからないが、

とりあえず一度試しておこうと思ったのだ。


B級ホラー映画のように

放射能の影響で、変な化物へと

変貌する可能性もあるので

今の内に実験しておく必要があった。


魔物はもともと人間から見れば

化物みたいに見えることが多いので、

その線引きは難しいところではあるが。


勇者からすれば

あちらの世界で処分に困っている

核廃棄物をこちらに持って来て

処分してやっているのだから、

ノーベル平和賞を貰っても

いいぐらいだということだろう。


果たしてこれを処分と呼べるのか、

ただの不法投棄ではないか、

ということは別にして。


そう言えば、地中に埋まっている

地雷の撤去もやってあげていた。


-


その他にも勇者は、近くを流れる

それはそれは美しく済んだ川に、

某国で排出されるピンク色の

工業排水を流し込んだ。


「いやぁ、

こんな綺麗な川、

ピンク色にするのは

さすがの俺も心が痛むわ」


あまり心が痛んでいないような

軽い口ぶりなのだが、

本当に心が痛んでいるのだろうか。


この工業排水も当然、

転移強奪であちらの世界から

こちらの川の中に出現させたものである。


-


こちらの世界、

文明レベルで言えば

中世ヨーロッパ程度であることは

一目瞭然。


そこは、

人間世界が物質至上主義なのに対し、

こちらは精神至上主義文明なので、

どちらが上とかそういうことではない。


ただあちらの世界で

近代化に伴って起こった

様々な問題というのが

こちらの世界には存在していない訳で、

そうしたあちらの世界の問題を

こちらで引き起こしてやればよい、

というのが勇者の考えであった。


こちらの世界の者からすれば

ただの環境テロでしかないのだが。


-


水の汚染、放射能汚染と来たので、

次は大気の汚染か、ということで

今度は光化学スモッグを

転移強奪しようとしたが、

これは現在発生していないらしく、

何も起こらなかった。


転移強奪はあくまで

人間世界に存在するものを

強奪して来るのであって、

存在していないものは強奪出来ない。


これが全くの無から

物質をつくりだす

クリエイト系の能力とは

大きく異なる点でもある。


仕方がないので、

排ガス、PM2.5、黄砂、花粉などなど

大気に関してあちらの世界で

問題になっていたものを

思いつく限り転移強奪して

大々的に勇者はばら撒いてみた。


とりあえず自分は防護服を

着ているので効果の程は定かではないのだが。


-


しばらくして

拠点近辺を見回っている敵兵、

おそらく魔物と思われる姿の、

二匹が話しているのが聞こえる。


「なんか、さっきから

目がショボショボして

鼻水が出て来るんだがな」


そう言うと見回りの魔物は

くしゃみをする。


勇者にとっては意外過ぎる発見。


『こいつらにも花粉て効くんだ』





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る