キティの恩返し





 なんだか城全体が慌ただしい。

 もうすぐなにかのお祝いがあるから、みんなその準備で忙しいようだ。


 ちなみにジークはなにもしてない。最高権力者は当日参加するだけでいいんだと。お得だね。

 でもお祝いが近いはずなのにジークの機嫌はなんだか落ち込み気味?な気がする。普段からテンションは低めだからいつも通りな気もするけど。


 ジークは膝に寝転がっている私を優雅に撫でている。長い指が髪の毛を滑っていくのが心地良い。思わすウトウトしてしまう。


「キティ、また寝るのか?」

「ん~……」


 ジークの低い声がさらに眠気を誘ってくる。


 ん~、お祝い、お祝いか~。なんのお祝いだろ。私もなんかしたいなぁ。

 そういえば、ジークとなにかお祝いしたことってないかも。でも特にお祝いすることってないしなぁ。


 ……そうだ、日ごろの感謝としてジークになにか贈ろう。母の日でも父の日でもなく飼い主の日だ。

 でも何を贈ればいいんだろ。


 ジークの膝の上でむくりと起き上がる。


「どうした?」


 珍しく眠らなかった私の顔をジークが不思議そうに覗き込む。

 くしくし、と目をこすってから私はジークの膝から下りた。そしてぴっとジークに向けて手を上げる。


「それじゃあキティは準備してきます」

「? ああ……?」


 それだけ伝えると、私は颯爽とジークの執務室を後にした。


 パタンと部屋の扉が閉まる。


「……なんの準備だ?」


 ポツリと、ジークハルトの呟きがキティのいなくなった部屋に落ちた。






***






「と、いうことで、ジークに何をあげればいいかなぁ先生」

「俺に聞かないでください」

「え~、わざわざ先生の部屋まで来たのに」

「にゃんこになってくれたら考えてあげないこともないですよ」

「そしたら喋れなくなっちゃうにゃん」


 なんだかんだ言いつつもお茶とお菓子を出してくれる先生。つんでれさん。

 ふー、ふーっとお茶を冷まして口に含む。


「あちっ」

「猫舌ですか」


 先生が小さい氷を一つカップに入れてくれた。優しい。


「キティの人形とかどうかな」

「発想はアレだけど確実に喜ぶでしょうね。でも人形ばかり構われたらペットちゃん拗ねませんか?」

「……すねるかも」


 素直にそう言うと先生に頭を撫でられた。仔猫の幻影が見えたのだろうか。


「ペットちゃんが選んだものならなんでも喜ぶと思いますよ」

「ん~」

「……どうせなら常に身に付けられる物とかはどうですか?」

「そうしよっかな」


 ムグムグとクッキーを口に詰め込んでいると先生に呆れた眼差しを向けられた。


「そんなに急いで食べなくても誰も取りませんよ」








「ケプッ」


 お腹がぽっこりした所で、テコテコとまた次の場所へと向かう。



「たいちょ~さーん」

「お、キティちゃん。今日は魔王様は一緒じゃないのか」

「久々に自分で歩いてきた。ほめて」

「お~よしよし。がんばったな~」


 隊長さんにちょっと荒めに頭を撫でられる。ジークとは違うけどこれも悪くない。

 そのまま流れるように持ち上げられソファに座らされた。そして安心毛布を膝に掛けられる。


「たいちょーさんは育児もばっちりだね。あとは相手を探すだけ」

「褒められてんのか?」

「最大級の賛辞」

「そりゃどーも」


 満更でもなさそうだ。


「それで? 今日は一人でなにしにきたんだ?」

「ジークに日頃の感謝としてなんかプレゼントしようと思って」

「……なんて健気なペットなんだ」

「でしょ」


 隊長さんも感動の名ペットっぷり。本にできるな。


「で? なんでここに来たんだ?」

「キティに手作りで何かを作るのは無理なので注文してください。お金は払うから」

「……そういう自分を分かってるとこ好きだぞ」

「キティも好き。奇遇だね」

「……」


 キティは自分を全肯定。……そんな目で見ないで。


「なるべく早く届くのがいい」

「それなら頼まなくても俺がささっと買ってきてやるよ」

「おお! たいちょーさんイケメン!」

「そうだろうそうだろう」


 気分よく頷く隊長さん。ちょろちょろ。


「考えてることが顔に出てんぞ」

「おっと」


 ポーカーフェイス。


「それで、何にすんだ?」

「うーんとね……」









「キティ」

「にゅん?」


 いつの間にか来ていたジークに後ろから抱きかかえられた。片腕にすぽんと納まる。


「帰るぞ」

「はーい。隊長さんばいばい」

「おー」










 お部屋に戻ってきた。


「んで? キティはなんの準備をしてたんだ?」

「……んー」

「聞こえてないな」


 私は今必死なのだ。細かい作業は苦手。

 ジークの膝に向かい合うように座って指を一生懸命に動かす。その間ガン見されているからもうサプライズもクソもない。

 おかしいな、もっとすまーとにいくはずだったんだけど。

 ジークは無言で待ってくれている。優男。



「……よし」


 私がジークの胸元に取り付けたはなんかビヨーンとしたチェーンみたいなのが付いた青い石のブローチ。なかなかオシャレだと思う。キティのセンスに拍手喝采。


「キティ、これは……?」

「日頃の感謝にキティからのぷれぜんと。ちゃんと石にはキティが癒しの魔力を込めたの」


 にこり。下手くそに笑う。


「―――!」


 そう伝えるとジークは片手で自分の顔を覆って天を仰ぐ。


「ジークどうしたの?」

「……娘を嫁に出したくない父親の気持ちが分かった……」

「なんで?」


 不思議に思っていると顔をジーっと見つめられる。なんだ?今日はお昼寝してないから涎はついてないはず。

 そんなことを考えていたら急にギュウウっと抱きしめられた。


「はぁぁーーー。キティは可愛いな」

「うへへ」

「ウチの子は最高だな。世界一かわいい」


 キティのやわらかほっぺをムニムニと撫でくりまわされ、おでこにちゅっちゅされる。

 どうしようジークの飼い主バカが天井知らず。さすがのキティも照れちゃうぜ。


「ジーク嬉しい?」

「……ああ」

「!!」


 ジークが笑った! 鉄仮面崩れ去る!

 誰かとこの感動を分かち合おうとしたけど誰もいなかった。



 その後もいつもの1.5倍の力でよしよしされる。今のジークは誰が見ても上機嫌だ。

 今ならどんな高価なものを頼んでも買ってくれそう。

 そんなことを考えたのが悪かったのだろうか……。



 後日、頼んでないけど人間サイズのキャットタワーをプレゼントされた。


 ジークが遊んで欲しそうにこちらを見つめる。

 私は巨大キャットタワーを見上げた。



「……これ、ひとりじゃ登れないんだけど………」





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