第3話 体育祭の準備②
翌日の五、六限目。
今日から本格的な体育祭の準備期間に入った。
学内の生徒たちはみんな半袖半ズボンのジャージに着替えている。
この後の日程としては、昨日決めた各競技の説明会らしきものが行われるのだが、その説明会は競技ごとに場所が指定されており、俺たち三人が選んだムカデ競争は体育館になっている。
「なんか……やたらと男子が多いね」
体育館に入るなり、結花がぽつんと呟く。
「そうだな。ガチ勢が多いんだろ……」
集まっている連中をよくよく見ると、俺とは別世界に住んでいる奴ら……すなわちリア充らしき者がほとんどだ。
他の競技はどうなのかはわからないが、見た感じリア充率が大きい。ムカデ競争って、リア充に人気なの? そう思いたくなるほどだ。
周りを見渡している中で俺は、見覚えのある人物に目が止まる。
——あの後ろ姿って……。
その子は俺の存在に気がつくと、小走りで近づいてきた。
「ぐ、偶然ね。りょーすけもムカデ競争だったなんて」
「偶然ねぇ……」
俺は舞をじーっと見つめる。
「な、何よ? その顔……? 本当に偶然なんだから……」
そう言いつつ、舞は片手で前髪をいじっている。
——コイツ嘘ついてるな……。
長年幼なじみをしてきた俺を舐めないでもらいたい。舞が前髪をいじる際は、ほとんどの場合が嘘をついている時である。
なぜ舞が俺と同じ競技に出たがるのか……まぁ、そこを考えても仕方がないか。どうせ、幼なじみの俺が出るからとかそういう考えなんだろう。
それよりも違うクラスである舞がどのようにして知ることができたのかが問題だ。
俺は結花の方に視線を移動させる。
目と目が合った瞬間に結花は誤魔化すような爽やかスマイルを発動。お前かよ!
俺は深々なため息を吐く。
「なんで結花が舞に協力みたいなことをしてるんだ?」
「協力? 一体何のことかな?」
どうやら意地でも口を割らないらしい。
時々思うのだが、結花が何を考えて行動をしているのかが、わからなくなる。
結花は一体何がしたいのか……今回のことだってそうだ。
結花にはなんのメリットもないはずなのに……。
そんなことを考えていると、舞の後ろから二人の女子が近づいてきた。
「あれぇ〜? りょーすけくん達じゃないですかぁ〜」
ほんわかとした口調だが、騙されてはいけない。これは猫の皮を被った時の鮫島さんだ。
そして、もう一人。
見覚えのない初めての子だ。
容姿は三つ編みのおさげにメガネをかけ、見た目のみならず、雰囲気的にも地味さがじわじわと伝わってくる。
身長は鮫島さんより少し低いくらいだろうか?
「あー、この子はうちのクラスにいる川口琴音。あたしの友だち」
舞が紹介をすると、川口さんは姿勢よくぺこりと軽く頭を下げる。
「初めまして。川口琴音です」
「え、ああ、どうも……神崎亮介です」
舞の友だちにこんなザ・真面目な子がいたなんて……少し意外だ。
川口さんは俺と結花を交互に何度か見ると、コホンと咳払いをする。
「ところでなんですが、二人はどのような関係なんですか?」
「え? ただの友だちなんだが……」
と、俺は結花の方に目線を向けると、コクンと同意する形で頷いてみせる。
川口さんが何を聞きたいのかよくわからない。
いきなり変な質問をしてきたというのもあって、俺たちの間はシーンと静まり返る。
そんな中で川口さんは先ほどとは違い、なぜか「はぁ……はぁ……」と息を上げていた。
――なんか……様子おかしくないか?
メガネ越しに見える瞳はキラキラとしていて、何やら妄想を膨らませていることがよくわかる。
「で、でも二人ともいつも仲がいいで……って、イテテテテテテテテ!」
その時、川口さんの隣にいた鮫島さんがとっさの判断で耳を摘まみ上げる。
顔はニコニコしているが、目が笑っていない。鮫島さんマジ怖いっス。
「ごめんねぇ〜? なんか琴音ちゃんったら少し体調が悪いみたいで〜」
「別に体調なんて悪く……痛いっ! って、どこ連れて行くんですか?!」
鮫島さんは、川口さんの耳をそのまま引っ張ると、他の人たちが集まっている体育館前方へと行ってしまった。
俺たちはその様子を唖然としながら見送る。
「ま、まぁ……琴音はいつもあんな感じだから」
舞はあはは……と苦笑い。
川口さんって、真面目そうに見えたけど、実際はあれだ。非常に残念だが、BLが大好きな腐女子に違いない。
一方で結花も舞と似たような表情を浮かべ、
「世の中にはいろんな人がいるからね」
「いろんな人でよく片付けられるな……」
思わず感心してしまった。
メンタル強いなぁ……。
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