直江津港

「兄上、春日山城下の商人からの陳情も来ております。こればかりは兄上が対応した方がよろしいと思いますが」


 三成が去ったと思ったら次は信宗が別の仕事を持ち込んできた。対応を間違えるとせっかく繁栄していた春日山城下町とすぐ近くにある直江津港を衰退させてしまう。逆に繁栄させても新潟港の商人の利益を奪ってしまうことになる。どちらにせよ新潟港にも影響が出ることなので俺が対応した方がよさそうだ。


 もちろんある程度の競争は必要だろうが、新潟の商人は元々春日山に比べて小規模だった者たちに新発田家から投資して大きくしたという事情がある。上杉家の本拠地ということもあって繁栄していた春日山の商人と対等な条件で競争したら勝てる訳がない。


 元々春日山の商人は長岡付近でとれる青苧を売って他国で武器や矢玉を仕入れて上杉家に売っていた。それが去年の暮に俺が与板城を落として以降青苧も新潟港から輸出するようになったために打撃を受け、さらに上杉家が滅びたために得意先も失ったということである。


 新発田家も春日山で武器や兵糧を買わない訳ではないが、現状は新潟港の商人から春日山で買うことが多かったため、こちらの商人はさらに打撃を受けていた訳である。それでも俺が信濃に出陣していた際は多少はこちらの商人からも物資を買っていたが、今回和睦が成立してしまったので戦争物資の需要も減ってはいくだろう。

 逆に言えば軍需の代わりを用意すれば後はある程度放っておいてもうまくやってくれるだろう。


 翌日、俺は城に商人の代表を数人集めた。このところ大きな取引も減っており、暇だったようなのですぐに集めることが出来た。

「信宗の方に届いていた陳情を聞いた。色々あって対応が遅くなったことは申し訳ない」

「いえ、我々も戦があればどうにか食いつなげるのですが、このごろは織田軍もほぼ京の方へ行ってしまいまして」

「そこでだが、とりあえずは春日山城に滞在する新発田兵の物資はこちらから調達しようと思う」


 上杉旧臣の領地問題は信宗に任せているが、二千ほどは兵力を常駐させておかなければ領地のもつれで乱が起きる可能性もある。また、隙を見せれば長尾家も北条家が強力であるためこちらに牙を剥く可能性は常にある。

 そのため、春日山城にはある程度信頼出来る地元の兵力を置かなければならず、その兵糧の調達でしばらくは需要を確保できるはずだ。


「ありがとうございます。しかしそれだけではこれまでのような上納金を維持することは難しいでしょう」


 こちらの商人はある程度安定していたため、これまで定額の上納金を課し、上杉家が大規模な軍事行動を起こすときなどに臨時で課税していたらしい。新潟港のように発展途上の場合は取引量に応じて課税した方がいいのだろうが、こちらは今のところこれまでのやり方を踏襲していた。

 要するにこれまで通りの金を納めて欲しければ何か支援なり取引をして欲しいということを言ってきているということである。


「そこで代わりに、こちらの金物師や金物屋に農具の製作を依頼するので、材料となる鉄などを周辺から調達してきて欲しい。ちょうど織田領でも戦がなくなって鉄は余り出すはずだ」

 とはいえ、もう少しすれば織田家内で戦が起こるかもしれないが。

 俺の言葉を聞いた商人たちは怪訝そうな顔をする。

「なるほど、しかし農民が増えた訳でもないのになぜ農具が必要になるのですか」

「領内で造らせていた新しい農具をこちらでも造らせようと思う」

「なるほど。確かにそちらの領内では新しい農具を使われているという噂は聞いておりました」


 商人たちもそれを聞いて納得したようだ。

「では今後ともよろしくお願いいたします」

 こうして商人の問題は一応片付いたが、今度は周辺の鍛冶師や金物師に農具を作るよう依頼したり、それを一度買い取って農民に配る手はずを整えたりの段取りを進めなければならなくなる。ちょうど戦がなくなって武器や鎧がいらなくなったのでそちらは順調に進んだ。


「重家様、今度は佐渡で鉱脈が見つかったとのことです」

 そしてそれが片付いたと思ったら次は佐渡からの報告が入った。

 とはいえ、ちょうど新潟の商人たちも戦争物資の取引が減って、多少手が空いているだろうからタイミングはいい。俺は春日山周辺で困窮している者や金を稼ぎたい者たちを集めて船で新潟港に戻ると、今度は佐渡に向かう準備をするのだった。


 ただ、この間にも京では秀吉が信雄を喪主として信長の葬儀を上げ、勝家と信孝が抗議するなど雲行きが怪しくなっていたので気が気ではなかった。

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