続・億万長者への道

昆布 海胆

前編 和井との出会い

「本当にこんな事でいいのか?」

「えぇ・・・これで準備は全て完了です・・・」


胡散臭い、その言葉がそのまま通りそうな目の前の男の指示に従って俺は書類を提出した。

同級生が経営している店に一矢報いたい、学生時代に俺の事を虐めに虐めたそいつが同業者になっていたのを知ったのは本当偶然であった。

卒業後に他府県に引っ越しをした事で疎遠になっていたのだが、俺はヤツにされた数々の嫌がらせを忘れた日は無かった。

だが、学生ではなく社会に出て復讐を行うのは非常にリスクが高い・・・

そんな俺の元に運命を引き寄せたかのように復讐の機会が巡ってきたのだ。


「あれ?お前、田辺じゃないか?」

「あっ・・・」

「へぇ、お前も喫茶店やってるんだ?桑原も洋食屋やってるんだぜ」


偶然店に訪れたのは学生時代の同級生、まさか地元に一度も帰らなかったのでこんな再会をするとは夢にも思ってなかった。

そして、桑原が同業者だと言う事を知ってはらわたが煮えくり返る気持ちになっていたのを笑みで誤魔化していた。


『料理が得意とか気持ち悪いんだよ』


そう言って居た桑原が飲食店を経営している・・・

ふざけるなよ!

俺はその日の夜、溢れんばかりの憤怒を発散するために夜の街へ出掛けていた。

そして、その男にたまたま入った居酒屋で出会ったのだ。


「あんた随分と荒れているみたいだけどどうしたんだ?」

「・・・」

「まっここで会ったのも何かの縁だ、俺でよければ話を聞くぜ」


不思議な奴だった。

見た目は20歳を超えているのか?と疑問に思うほど若く見える、だが落ち着いた態度に独特の口調・・・

俺は出された酒を飲みながら桑原の事を話していた・・・


「なるほどな・・・なぁ、もしその復讐に協力出来るって言ったらどうする?」


一体何を言っているんだ?そう疑惑の目を向けるが、不思議なその男の目に吸い込まれるように俺は頭を下げていた。

何故か恐ろしくなったのだ。

そして、その恐ろしさを持つ目の前の男であれば何かやってくれるかもしれないと感じ取ったのだ。


「分かった。俺の名前は和井、とりあえず今日は酔ってるだろうから後日店にお邪魔した時に話そう・・・」


そう言って和井と名乗った男は俺の店の場所を聞いて会計を済ませて帰って行った。

不思議な夜だった。

あんなに苛立っていた気持ちが何時の間にか期待に変わっていたのだ。

桑原に一矢報いる事が出来る、そう考えたからだろうか・・・

そうして俺は千鳥足で家に帰った・・・




翌日、和井は俺の店にやってきた。

そして、持ち込んできたノートパソコンを起動し何やら調べ物をしながら俺から様々な事を聞いていく・・・

地元の場所、復讐したい相手の名前、どの程度の復讐をしたいのか・・・

俺は和井の質問に分かる範囲で全て答えた。

返答後


「少し調べるから・・・」


と言って和井はパソコンを暫く操作していた・・・

20分くらい経った時に和井は立ち上がり笑みを浮かべて俺に言った・・・


「よし、これで行きましょう」


そこから行動は早かった。

まず行ったのが店名の変更であった。

和井に言われるがまま店の店名を変更した。

驚いたのが店の店名変更に関し開業時に税務署に屋号提出したので、手続きが必要だと思っていたら・・・


「あっそれに関しては何も手続きは必要ありません。店の看板を書き換えるのと、確定申告の時に変更後の屋号を記載して提出するだけで大丈夫です」


驚いたが後から調べてみるとその通りであった。

そして、次に俺が行ったのが・・・


「ではこのページで必要事項を入力して下さい」


そう言って和井がノートパソコンのページを見せてきた。

そこに表示されていたのは商標権の登録というページであった。

俺は言われるがまま、そこに必要事項を入力していった・・・

そして、和井は言った・・・


『えぇ・・・これで準備は全て完了です・・・』


そう言って和井は出されていたコーヒーを飲み、席を立ち俺に笑顔で告げる。


「商標登録費用を立て替えておくので成功報酬の時に相殺しましょう、登録完了まで約1年と実行まで1年半・・・その時にまた会いましょう」


そう言ってコーヒー代をテーブルに置いて和井は出て行った。

一体これで何の復讐になるのかと疑問に思いながら俺は気付く・・・


「消費税・・・足りないんだが・・・」


そして、俺は復讐のその日まで店を潰さないように働くのであった・・・

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