第123話 思い出の写真とうっかり

 栗ようかんが美味い。

 毬萌の家で出されるオヤツは基本的に美味い。

 我が家のオヤツ事情を鑑みると、雲泥の差である。


 なに? 今日の桐島家のオヤツ?

 名前知らねぇけど、なんかゼリーみたいなグミみたいな四角いヤツだよ!

 感想? さては炎上狙いか、こんにゃろう。良いぜ、言ってやる。

 不味かったよ!! 少なくとも、栗ようかんの方が美味いよ、ヘイ、ゴッド!!



「ねぇねぇ、コウちゃん、コウちゃん!」

「なんだよ。……言っとくけど、栗ようかんはやらないぞ」

「ちーがーうーっ! なんでまず自分の栗ようかんを守るのっ!?」

「だって、お前、人のオヤツ奪うじゃん」

 小学生の頃からずっと。何百回被害に遭っていると思うんだ。


「もうっ! いつまでもわたしの事を子供扱いしないでよぉー」

「おーおー。悪かったよ」

「そうだよぉ! こんな大人なレディを捕まえて、ひどいよコウちゃんっ!」

「そうかー。最後の一切れ、毬萌にやろうと思ったのになぁ。レディならいらねぇか。そんじゃ、こいつぁ俺が美味しくいただくとしよう。あーん」

「みゃっ!? た、食べるっ! くれるなら食べるーっ!!」

 ふん。レディが聞いて呆れる。


「で、何を言いかけたんだ? まさか、まだ修理が必要なものがあんのか?」

「違うよーっ。えっほへえっとねほのはいはこのあいだひゃひんしゃしんを」

「……ようかん食ってからで良いぞ。……リスみてぇだな」

 誰も取りゃしねぇから、ゆっくり味わってくれ。

 のどに詰まらせなければ良いが。


「むはーっ! 美味しかったぁーっ! ぬふふっ、ごちそうさまーっ!」

「それがレディのすることか」

 口の周りに食べかすがついてるんだよ。


「むーっ! じ、自分でやるから、いいよーっ!」

「あーあー、動くな! ……ほれ、取れた。どうしたらようかんの食べかすを口の端に残せるんだ」

「い、いいもんっ! コウちゃんしか見てないしっ!」

 今日も快調にスキだらけだなぁ。生徒会長だけに。


「で、レディについて論争をするんだったか?」

 俺は、自分のイマイチなギャグをかき消すべく、本題へと回帰を試みる。

「いじわる言わないでよぉーっ! 写真だよ、写真っ!」

「……ははあ。合宿の時のヤツな」

「そだよーっ! せっかくコウちゃんがいるんだし、プリントアウトしよっかなって!」

「そう言えば、帰って来てから一週間経つけど、みんなに配ってなかったな」

「でしょーっ! ちょっとプリンター探すから、コウちゃんは準備しててー」

「へいへい」


 俺は毬萌の勉強机に置かれているノートパソコンを起動。

 パスワードである毬萌の誕生日を叩きこんで、写真フォルダを召喚。

「あれーっ? どこやったんだっけー?」

「お前、よくあんな高いもん失くせるな。考えられん」

「だってぇー。お父さんがいらないってくれたヤツなんだもんっ」

 毬萌の父親は発明好きで、知的好奇心を刺激される物はすぐに買う。

 ちなみに天才ではないので、大概は使いこなせずに娘の物となる模様。


「あーっ、あった! コウちゃん、それ取ってー!」

「……お前。ケツ突き出して押し入れ探してて、挙句机の上にあるとか……」

「ちょっとぉ! 女の子のお尻をケツとか言わないでよぉーっ」

「あー、悪かった。お尻様。とってもキュートなお尻様だよ」

「コウちゃんはデリカシーが足りないよねっ。まったくもうっ」

 俺はフォトプリンタも起動。

 今のところ、俺しか作業をしていない。


「じゃあ、良い写真をどんどん印刷していこーっ!」

「おーう」



 毬萌の検閲を通過した写真たちが次々にプリントアウトされていく。

「あーっ! またエッチな写真があるーっ!!」

「またってなんだ!? さっきのは、連写した時に偶然写ったヤツだろ!?」

 氷野さんがターザンロープで死にそうになっている写真である。

 確かに、上着が少し捲れているが。

 別に目くじら立てる程のものでもあるまい。

 前に写っている心菜ちゃんに比べて凹凸だってそんなにねぇし。健全だよ。


「じゃあ、お風呂上りのわたしと花梨ちゃんの写真はどう言い訳するのーっ?」

「いや、百歩譲って花梨の恰好はオフショットで微妙にアレかもしれんが! お前に関しちゃ、ただの体操服じゃねぇか! 体育の時に見慣れてるわい!!」


 その後も、何かといちゃもんをつけられながらも、作業は進む。


「あれっ? こんな写真、いつ撮ったのー!?」

「ゔぁあっ!? しまった!」

 それは、毬萌と蛍を見た時に、スマホのカメラで撮ったものだった。

 まさか、デジカメのデータと混同していたとは!

 あれは俺のスマホにだけ保存しておくつもりだったのに!!

 なんてうっかり屋さん! 俺のバカ!


「わぁーっ、よく撮れてるねぇーっ!」

「そだネ。でも、ワタシ、知らないネ」

「……にひひっ、コウちゃん、わたしの写真、こっそり撮ってたんだーっ!」

「……知らないネ」

「うむうむっ! 照れなくても良いのにぃー。はい、これコウちゃんの分!」

 微笑ましいものを見るような目をヤメろ!

 俺ぁ知らねぇって言ってんだろ!

 じゃあ受け取るな? ばっか、お前、貰えるものは貰うのが俺の主義なんだよ!

 あっちでようかん食ってろよ、ヘイ、ゴッド!!



「結構いっぱいあるねーっ!」

「……そうだな」

 見られたくない物を一番見られたくないヤツに見られたよ。

 大失態だ。


「じゃあ、明日みんなに配ろうねー」

「まだ小雨降ってるから置いて帰るけど、明日忘れんなよ?」

「へーきだよぉー。心配性だなぁー」

「違う。経験則だ。……もう鞄の中に入れとこう」

 我ながらファインプレーである。



 そして家に帰って晩飯を食って、部屋に戻ったら上着から毬萌の写真がヒラリ。

 俺はベッドに倒れ込んで、手足を30分程バタつかせる事になった。

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