第46話 合宿へ行こう!
「ええー!? そんなステキなイベントがあるんですか!?」
「良いのでしょうか、僕のような者が!」
一年生コンビが驚いている。
無理もない。
この、生徒会と言う組織を酷使しまくる花祭学園。
生徒会を何でも屋かなにかと学園長が勘違いしているのではないかと常々疑問に思わざるを得ない日々を過ごしている身からすると、にわかには信用できない話である。
俺だって、去年の話を毬萌に聞いていても半信半疑だ。
学園長の仕掛けたドッキリだと判断して、いつクラッカー鳴らして看板持ったえびす顔のおっさんが現れやしないかと身構える。
それほどまでに、俺は学園に置ける生徒会の不遇とすら言い換えられる扱い、立ち位置を、毎日毎時毎秒、地球の自転と一緒に感じているのだ。
「そだよーっ! 創立記念日の連休に、わたし達生徒会は、合宿へ行きますっ!!」
どうせ野球部のマネージャーの代わりに千羽鶴折らされるとかだろ、とか、二人は思わないのだろうか。
「しかも、学園長が所有してるキャンプ場のコテージはタダ! 何をしても良いし、何もしなくても良いのだよっ! 滞在時間の全てが自由時間だよーっ!」
嘘だ。
絶対そんな甘い話には裏があって、本当は学園から出す封書のあて名書きとかを逃げ場のないキャンプ場で強いられるのだ、とか、二人は思わないのだろうか。
「さらにーっ! 掛かったお金はぜーんぶ、学園長がポケットマネーから出してくれるんだよっ!」
絶対騙されない。
その後怖い黒服のおじさん達に囲まれて、「コングラチュレーション」とか拍手された挙句、学園長と聴力賭けたカードゲームさせられるんだ、とか、二人は思わないのだろうか。
「毬萌」
誰も言わないなら、俺が言おう。
副会長の役目。
戦場では常にクールであれとマトリフ師匠も言っていた。
「……オヤツも、タダなのか?」
「ほえ? うんっ。当たり前じゃん!」
「……ポッキー。ただのポッキーじゃなくて、アーモンドクラッシュポッキーも?」
「にははっ、コウちゃんあれ好きだもんねーっ。もちろん、予算で払うよーっ」
——いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!
おい、聞いたかよ、ヘイ、ゴッド!
世の中そんな美味い話はねぇだろうと警戒していたけども!
あるんだってよ、世の中には案外、美味い話が!
二泊三日のキャンプで、遊び放題、食い放題、休み放題!
そうか、そうだよな!
俺たち、四月からもう二ヶ月も、必死こいて生徒会やって来たもんな!
たまには報われても良いんだな!
この世にゃ、神も仏もいるんじゃねぇか!
ああ、分かってる、お前も入れてやるって、ヘイ、ゴッド!
「キャンプ場ってどんなところなんですか!?」
花梨。素晴らしい質問だ。
「そうだ、そうだ! もったいつけてねぇで教えろ、こいつー!!」
「んっとね、
秋刀魚山は、俺たちの住む県に古くからあるキャンプスポットの一つであり、ここからは電車に揺られて二時間くらいのロケーション。
「コテージは作られてから何年くらいのものですか?」
鬼瓦くん。素晴らしい質問だ。
「そうだ、そうだ! 大事なことだぞ、ちゃんと教えろ!! こんにゃろー!!」
「一昨年新しいコテージをいくつか作ったんだってー。去年はそこに泊まれたから、今年もそうじゃないかな? ベッドもフカフカだったし、天井が透明でねっ! 夜は星が見られるんだよーっ」
「おいおい、マジか。……最高じゃねぇか!」
いや、待て。
ここで安心すると足元をすくわれる。
油断大敵である。
「鬼瓦くん。すまんが、今年の梅雨入りについて調べてくれ。心配だ」
「分かりました。お待ちを」
創立記念日は六月の第二週。
年によっては早々に雨の季節が訪れることだって、無いとは言い切れない。
モニターを見つめる鬼瓦くんの表情にも、鬼気迫るものを感じる。
鬼神降臨。
「出ました。今のところ、今年は梅雨入りが遅いうえに、雨が少ない予報です!」
「っしゃあ! やったな、おい!!」
鬼瓦くんとハイタッチ。
「毬萌先輩、近くには何かあるんですか? 例えば、その、雰囲気の良い場所とか」
「近くの川が奇麗だったよー。魚釣りとかもできるみたい! あとは、やっぱり景色だよねっ! 高台に行けば、一面が星の海だったなぁーっ」
「わぁー! ステキです! 公平先輩、一緒に見ましょうね!!」
「おう、そうだな! なんなら星を捕まえちまうか、はははっ!」
花梨にウインク。
「おい、飯は!? 飯はどうする!? キャンプと言えば、あれか!? なあ!!」
「去年はバーベキューしたよっ! それから、カレーも作ったかな。とつても美味しかったよー」
はい、欲張りセット、来たー!!
バーベキューだけでもカズダンス確定なのに、そこにカレーまで乗っけていいのか!? そんな、盆と正月一緒にしたみてぇな事して、バチ当たったりしねぇのか!?
しかも予算は青天井なんだろう?
おいおい、じゃあ噂でしか聞いたことないA5ランクとか言う和牛だったり、見たことあるけど食ったことはねぇ俺的ランキング1位に君臨する、伊勢海老とかを買ってしまっても構わんのか?
学園長、今まで
なんだ、あんた話せる人じゃないか。
いつもいつも生徒会にばかり仕事持って来やがって、このチョビ髭が、来世は深海魚に生まれ変わってしまえ! とか思って、本当に申し訳ない。
俺ぁ心を入れ替えた。
あんた人徳者だよ、学園長。
今年は俺、暑中見舞いも出しちゃう。
年賀状には手書きの干支のイラストも付けちゃう。
「はぁー! 楽しみですね! あー、でも、ちょっと残念です。奇麗な川があるなら、水遊びしたかったのに、さすがにまだちょっと寒いですよね」
「そうだねぇー。じゃあ、今年の夏はみんなで海に行こっか!」
ばっか、お前、この天才が!
これだけごちそう並べたてといて、えっ、今年海に行くの!?
もうこれは盆と正月どころじゃねぇぞ。
ドリームジャンボだよ、ドリームジャンボ!
「あー、良いですね! じゃあ、今度新しい水着買いに行きましょうよ、毬萌先輩!」
「にははっ、いいよーっ! 実は去年のヤツがちょっと小さくなっててさー」
「あっ、そうなんですか!? えへへ、実はあたしもなんです」
今日家に帰ったら、仏壇に手を合わせて、神棚を掃除しよう。
ご先祖様、俺をこの世に誕生させてくれてありがとう。
神様、混迷する世界情勢は分かるが、どうか世の中が平和でありますように。
楽しみな事ばかりが増える放課後であった。
いつも渋い顔して仕事しているのが嘘のようである。
雷でも落ちなければ良いが。
「あーっ! そだそだ、ひとつ言い忘れちゃってた事があったんだーっ!」
「おいおい、まだなんかあるのか!? これ以上は、お前、俺ぁ幸せで倒れそ」
「中間テストで学年10位以内に入れなかった人は、参加できない決まりなんだよねー。学園長が去年言ってたんだ。まあ、大丈夫だよね、みんな!」
「はい! バッチリ勉強しちゃいます!」
「ゔぁあああっ! 僕は、僕は……っ!!」
「大丈夫ですよ、鬼瓦くん! 実力テストの時みたいに、あたしが面倒見てあげます!」
「ゔあああっ! 冴木さん、ありがどゔ、ありがとう!!」
「あれ? コウちゃーん? どうしたの? なんか顔が青ざめてるけど?」
ああ、俺?
なんつーかさ、アレだよ。
学園長、雷に打たれねぇかなってさ。
この世にゃ、神も仏もねぇわ。
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