【恋愛】うさぎリンゴと品野先生
お題「戦争」「リンゴ」「ゆがんだかけら」
ジャンル 学園モノ
恋愛ものテイストになりました。かなり甘いそうです。
―――――――
生物教師の品野先生は、今日も女子生徒に大人気だ。
ルックスの良さもさることながら、生徒を強く叱らない性格につけこまれ、お昼休みともなれば複数の女子が生物準備室へと押しかける。
「先生、私のうさぎあげるね」
「私のも食べて。美味しいよ」
頼んでもいないのに、弁当箱のふたの裏にはうさぎ型にカットされたリンゴが集まる。先生は、そのひとつひとつを笑顔で受け取る。
今日、品野先生はいったい何羽のうさぎを口に入れるのだろう。そのうち彼がうさぎになってしまえばいいのに、なんて思う。
大人気の品野先生を手に入れようとみんな必死だ。
誘惑。牽制。抜け駆け。水面下でのやり取り。わざと嘘の情報を流す生徒までいる。先日のバレンタインデーなど、「品野先生は甘いものが苦手」という偽情報が飛び交った。まるで戦争だ。
黙ってその様子を眺めている私も、大概なのかもしれない。
🐰 🍎 🐰 🍎 🐰
ただいま、という声とともに、千秋がひょっこりと台所へ顔を出した。
あっと思ったが、もう遅い。
まな板の上には私が量産した不格好なうさぎリンゴが並んでいる。耳が千切れたり下半身がもげたり、これはもはやうさぎというより、ただのゆがんだかけらだ。
指を切らなかっただけでも褒めて欲しい。
「いきなり来るのやめてよ」
そう口をとがらせると、彼は人懐こく笑った。
「え? いつも連絡なしで来てるじゃん。今日の晩飯は何?」
「今から作る!」
慌ててリンゴを片付けようとしたら、千秋が横からひょいとつまみ上げて口に放り込んだ。
「愛佳のが一番うまいよ」
少し照れくさそうに言うその顔は、生物学室で見た品野先生ではなく、5歳年上の幼馴染の顔に戻っている。
こんな表情を見ることができるのは私だけの特権。でも、優越感に浸れるほど現実は甘くない。学校には可愛い女子がいっぱいいるのだから。
「どれも同じリンゴでしょ」
拗ねたふりをしてプイと顔をそむける。やっぱり彼なんて、うさぎになってしまえばいい。そうしたら、私が大切にお世話するのに。
誰にも手が届かない場所で、ずっと、ずっと。
何年も伝えられないままでいる彼への想いを、今日も私はそっと隠す。
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