第84話 ベトナムの生活はクーラーなし! プライベートな時間や空間もない

 日本人男性の私は、デパートに行くと両親の手を振りほどき、おもちゃ売り場に突進してしまう子供であった。おもちゃ売り場のどこかに消えた私を両親は探すのが大変だったと語っている。


 子供は本能に忠実なのかもしれない。ベトナム人女性のトゥイの実家のベンチェで生活をしているのだけれど、私がパソコンで作業をしていると4歳のタムちゃんが「遊ぼう、遊ぼう」と言ってくる。

※後でトゥイがタムちゃんがベトナム語で「あなたと遊びたい」と言ってたと教えてくれた。


 パソコン作業中は集中しているので周りの声が聞こえない時もある。タムちゃんがベトナム語で何か私に言っても分からない。引き続きパソコンをいじっているとタムちゃんは強引に私の手をひっぱり遊ぼうとジェスチャーしてくるのであった。


 ということでベンチェでの生活は、私のプライベートな時間や空間はないのである。当初、トゥイの話ではおばぁさんの家に私が寝泊まりできる部屋があると聞いていたが、それだと何かあった時、不便なのでトゥイの母親とタムちゃんとトゥイがいる部屋に私も生活することにした。


 それにしても小さな子供を持つ親の大変さが身に染みて分かったような気がする。子供は大人の事情なんてあまり考えたりしないのだ。私がパソコン作業をしていようとおかまいなしなのである。「パソコンをやめろ」とタムちゃんはジェスチャーしてくるのだ。


 私は日本からタンソンニャット国際空港に到着後、次の日にはベンチェに向かったのでホーチミンのことは知らない。ただ、ホーチミン市内の道路はこれでもかと言うぐらい車やバイクが行き来していた印象があるだけだ。


 トゥイにしてもベンチェからホーチミンへ上京し、4ヶ月ぐらい働いていただけ。しかもホーチミンのアパートには仕事が終わって寝に帰るだけの日々だったので、トゥイもまたホーチミンのことは何も知らないのである。ちなみにトゥイはホーチミンのイオンにも一度も行ったことがないらしい。


 一方、ベンチェに関してはトゥイの生まれ育った地元ということもあり、トゥイにとっては庭のようなものである。美味しいお店や綺麗なところを知り尽くしている。すぐそこには親や親戚たちもいる。だからなのかな、ベンチェでのトゥイはいきいきとしていた。


 ベトナムではクーラーなしの生活をしている(ホーチミンのアパートにもベンチェのトゥイの実家にもクーラーはない)。それでも扇風機の風が身体にあたると涼しく感じる。ベトナムは暑い国だからクーラーがないと汗がでて大変かもしれないと覚悟していた。


 でも、クーラーが例えなくても何とかなっている。人間の適応能力って本当に凄いと思う。そう言えば私は19歳ぐらいまで部屋にクーラーがない生活をしていた。だからなのだろうか。クーラーがなくても生活に支障がでるわけではない。


 また、夜になるとトゥイから「バイクで散歩しよ」と誘われ、ベンチェ周辺をバイク散歩するのだけれど夜風が最高に涼しく心地いいのだ。


 まるでクーラー全体の中にバイクが突っ込んでいる気がする。贅沢なバイク散歩である。公園にはたくさんのカップルがバイクを停車させてラブラブ状態のようだ。ベトナムのデート事情は夜にバイク散歩し、近くの公園で休むのが定番のようである。


 私とトゥイもどこにでもいるベトナムのカップルのように公園で休んだ。そして、トゥイはこんなことを私に言うのだった。


トゥイ:いつか私たちがおじいさん、おばぁさんになったら、もう一度、私たちのYouTubeを一緒に見よう!


私:うん、その時、また一緒に見ようね!


 私が老人になった時、YouTubeがあるかどうか分からないけれど、自分たちの想い出のYouTubeを観るのも悪くはないなと思った。だってYouTubeには自分たちをよく見せようとしていない。ありのままの自分たちの姿があるのだから。

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