22

私はこれでもかというくらい咳払いをして喉の調子を整えてから、静かに電話に出る。


「もしもし?」


「結衣?電話、遅くなってごめん。今大丈夫?」


「うん。」


大丈夫もなにも、今か今かと待機をしていたのでいつでも準備万端だ。

電話越しに聞こえる瞬くんの声は落ち着いていて心地良い。同時に、自分ばかりがドキドキしているみたいで少し恥ずかしくなってしまう。


「この前の写真ができたから渡したいんだけど。」


「わあ、嬉しい。でも今日保育園で渡してくれてもよかったのに。」


いや、と瞬くんは一呼吸置いてから言った。


「仕事抜きにして結衣に会いたいから。」


「っっっ!」


声にならない悲鳴を上げて、私は一瞬時が止まった。ドキドキと高鳴りつつある胸を右手でぎゅっとおさえる。


「今日、仕事中の結衣を見れて嬉しかったな。すごく様になってた。ああ、本当に保育士なんだって。」


そんな見たのなんてほんの少しだけだと思うけれど、そう言ってもらえることが嬉しい。


「瞬くんもカメラマン、その、かっこよかったよ。」


顔が見えない電話越しだから言えた気がした。

それでも私は自分で発言した言葉に顔が真っ赤になる。


「ははっ、ありがとう。」


私たちはその後もとりとめのない話をして、次に会う約束を決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る