4 Gadget Cheat!!
ステラは動画を閉じる。
彼はそのグラウンド以外で活動することは絶対にない。
毎晩のように固定カメラに写っているのがその証拠だ。
隣にいるジルダは確信を持った表情で、何度もうなずいた。
「これならいけそうね。
彼に対する兵器、今月中には完成しそうよ」
「ありがとうございます。
これで彼の殺戮を止められます」
ステラは頭を下げた。
処刑屋が現れてから、ひと月が経った。
退魔師たちは未だに対策を立てられないでいた。
彼の魔法を『スキル』と呼び分けているのも、退魔師たちの魔法と区別するためらしい。あくまでも、別物であることをアピールしたいようだ。
この事態に、武器商人たちも黙っていなかった。
退魔師たちがどうにもできない状況を打破するべく、新たな兵器を研究していた。
「あら、この前以来ね。こんにちは」
「アタシはモモ。
前回、名乗りそびれちゃったから、ちゃんと覚えてよね」
前に飛びつかれたのを警戒してか、彼女は恐る恐る扉を開けていた。
「モモ……じゃあ、あなたが例の共闘作戦の立役者なのね?
この前はごめんなさいね、名前だけしか知らなかったの」
「何も知らなくても、急に飛びつかないでよ」
「こんな可愛い子があんな作戦考えるなんて、狩人って本当にすごいわね。
狩人同盟と封印の騎士団との架け橋になったって、私たちの間じゃ有名なのよ?」
「いや、アレは成り行きっていうか、ほとんど事故みたいなもんだし」
封印の騎士団のメンバーが勘違いして、モモが追っていた犯人を倒してしまったのがきっかけだった。
確かに事故と言えば事故だし、それがなければその作戦も生まれなかった。
もしかしたら、作戦の結果も変わっていたかもしれない。
「事故を起こした相手を逃がさないのも、実力のうちよ?
もっと誇っていいと思うんだけど」
「いや、アイツの場合は逃がさないっていうか、逃げなかったっていうか……」
むしろ、ついてきたといった方が正しい気がする。
逃げるという発想自体ががなかったように思う。
「ていうか、コイツって退魔師じゃないの?
裏切者なのかとばかり思ってたんだけど」
モモもパソコンの画面に映っている処刑屋を見る。
抽象絵画に対する評価のように、意見も様々に分かれている。
とてもじゃないが、一言では語りきれない。
「彼について、考えられる点はいくつかある。
一つ目はモモの言う通り退魔師であること。
二つ目は第三者が彼に人体改造を施したこと。
三つ目は退魔師になる前に、魔法使いとして覚醒してしまったこと」
指折り数えながら、ステラは推測を立てる。
「まず、彼が退魔師である場合。これは簡単だな。退魔師として活動していたが、何らかのきっかけで、処刑屋なるものを始めたパターンだ」
自分の持つ力に溺れ、犯罪に手を染めたということだろうか。
そんな裏切り者は、これまで何人も見てきたし、捕らえてきた。
どんな連中かと思っていたら、メンタルの弱い奴らばかりで拍子抜けしてしまった。
「しかし、彼に関する記録はなかった。
彼は退魔師ですらなかったんだよ。だから、この一つ目の線はない」
「同業者でもないのに、あんな魔法が使えるの?」
ジルダの表情は険しいものになる。
退魔師のライセンスを持たずして、魔法は使えるものなのだろうか。
その疑問は誰もが抱いてもおかしくはない。退魔師であれば、なおさらだ。
「二つ目、第三者が彼を改造した。まあ、これも簡単な話だな。
この前の、ナキリの里の被害者みたいなもんだ。
彼らみたいに、犯罪者集団に拉致され、改造されたパターン」
「となると、何か目的があるの?」
シオケムリにいたナキリたちは、孤立していた弱者ばかりを狙っていた。
その里にいた彼らを捕縛したのは、ついこの間のことだった。
それが封印の騎士団との共闘作戦である。
彼らの協力により、シオケムリで発生した誘拐事件を解決できた。
「それは何とも言えない。
けど、彼の場合は、あの時のような共通点が見当たらないんだ」
被害者リストを見る限り、老若男女、人種を問わず殺害している。
依頼された人物を順番に殺しているように思えた。
裏で誰かが手を引いているかもしれないが、可能性は限りなく低い。
だから、二つ目の点も消える。
「残された三つ目、退魔師になる前に魔法使いとして覚醒してしまったパターン。
こいつが非常に厄介なんだよなあ……」
ステラは頭をかいた。個人に差はあっても、方法さえ学べば魔法は誰でも使える。
基本的な技術書なども市場に出回っており、簡単に手に入れられる。
決して難しい話ではない。
「退魔師の免許は誰でも取得できるってわけじゃない。
年齢制限ってもんがある」
「退魔師になる前にって、そういうこと?
子供のころに魔法使いとして、覚醒してしまったってことかしらね。
けど、それなら専門機関が黙っていないと思うけど」
「その機関が関知する前に、犯罪者集団に拉致されてしまったら?」
ステラのその一言に、二人は固まった。
表情を一切変えることなく、淡々と話す。
「そこで教育を受け、戦士として育て上げられたとしたら?
時間はかかるかもしれないけど、俺たち並の実力を持っているクルイは生み出せると思う」
「マジで言ってるの?」
「長期的な目で見たら、決して悪い話じゃないと思うよ。
学校という名前さえつけちゃえば、子供は自然と集まってくるんだし」
ステラはため息をついた。
学校は外部との接触が難しい箱庭でもある。
やり方によっては、外部から完全隔離された施設と化してしまう。
そのような施設で、彼は魔法を学び、退魔師と戦う術を身に着けた。
これは推測に過ぎないが、決して外れていないと思う。
「その施設を捜索するのは、彼を捕まえてからかな。
情報が少なすぎて、今のままじゃどうにもできん」
彼は頭を横に振る。他の団体はそこまで推測が立っているのだろうか。
果たして、この情報を共有していいものかどうか。
思考をめぐらせていると、ジルダが口火を切った。
「ねえ、最新兵器を最初に使ってほしいんだけど、どうかしら?」
二人は怪訝そうに彼女を見る。
「推測であっても、こんな話は初めて聞いたし、何より信頼できると思ったから。
もちろん、品質は保証するし、当日は私も立ち会うし……どうかしら?」
それは同時に、あの処刑屋を捕縛してくれと言っている様なものだ。
最新の兵器を試せるのはありがたい話ではある。
「けど、本当にウチでいいの? 後悔しない?」
「後悔なんてしないし、させないわよ」
「なら、アタシが試す」
「モモちゃんもこう言ってることだし、ね?」
「君はそういう話に食いつかないの。
どんな物なのかも分からないのに……」
「それなら心配いらないわ。
誰でも扱えるようにしてあるから」
ジルダはにっこりと笑顔を浮かべた。
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