10.59.情報共有、作戦開始
「戻りました」
エリーとウォンマッド、そしてミュラが木幕たちが集まっているところに帰って来た。
無事に帰って来たことにまずは安心する。
全員傷もないし、疲れている様子もないようだ。
労いの言葉かけたあと、すぐに本題に入ることにした。
まずは見て来た敵の様子を教えてもらいたい。
「敵の様子ですが……小型と中型の魔物が徘徊していました。建物などで詳しい数は把握できませんでしたが、あの様子であれば二千か三千はいるかと思います」
「それとご飯食べてたよー。物資の入った馬車をひっくり返してたなぁ」
「大型の魔物はいなかったよ。東の雪原に待機しているんじゃないかなって思ってる。その理由は分からなかったけど」
三人の話を聞いて、木幕とバネップは顔を見合わせて頷いた。
やはり彼らには、人間から奪った食料がなければローデン要塞で活動することはできない。
リトルが魔物の特性を知っていたことが幸いした。
ここまで分かったのであれば、やることは一つだ。
だがそれは少し難しい作戦になってしまう。
二、三千いるかもしれない敵のど真ん中に潜入して、物資を燃やすか、使い物にならないようにしなければならないのだ。
それには相当な隠密センスと、実力を兼ね備えていなければならないだろう。
食糧を蓄えている倉庫などの把握も必要不可欠だ。
だがローデン要塞は人間が生活していた場所。
地の利は確実のこちらにいあるし、物資がある場所もすべて把握することができる。
「ドルディンが用意してくれた地図を」
バネップがそう言うと、使用人のリューナが少し慌てた様子で地図を持ってくる。
それを広げ、今回の主要メンバーである四人に見せる。
その四人だが……。
ウォンマッド斥候兵の隊長、ウォンマッド。
くノ一のエリーに、少しネジが外れているミュラ。
最後にローデン要塞の勇者になった、ティアーノだ。
「お前たちに作戦を教える。その前にこの地図を頭の中に叩き込め」
それに頷いた四人は、すぐに地図を見始める。
地図には物資がある場所なども記載されており、そこを燃やせばいいということも理解できた。
あとは放置されてある物資の入った馬車だ。
それだけは自分たちで探して燃やすか何かしなければならないだろう。
「っていうかバネップさん!? ミュラも作戦に入れるんですか!?」
エリーがミュラを指さして抗議する。
だがバネップは静かに頷いた。
「木幕から話は聞いた。実力は確かなのだろう?」
「え、いや、そうかもしれないですけど……」
「んー?」
「はははは、まぁエリーさん。この人なら大丈夫ですよ。ぶっちゃけ僕より隠密行動は慣れている感じしましたしね」
まだ少し納得していないようだったが、エリーは諦めたようだ。
木幕はレミから彼女の力を聞いて知っている。
隠密の能力があるとは思っていなかったので少し心配だったが、ウォンマッドがああ言うのだから実力はあるのだろう。
今この状況では、使える味方はどんどん使っていきたい。
既に負けている状況なのだから、ここだけでも強気に行かなければならないだろう。
作戦を成功させれば、少しでも優位に立てる。
敵兵力は今分散しているし、後方の援軍が来るのにも時間はかかるだろう。
ウォンマッド斥候兵を数名配置しておき、作戦終了後の動きを警戒しておいてもらえれば、こちらが対処するだけの時間も作ることができる。
「決行は明日。それまでに下町にある物資を移動させる」
「敵が攻めてきたら迎え撃つんですか?」
「いや、物資を持って撤退する。ルーエン王国まで逃げることができれば、兵力も補充できるし物資もある。今度は兵器や弓も使えるはずだ。迎え撃つのはそこだな」
「うむ。幸いリーズレナ王国やミルセル王国近いからの。援軍もすぐに来てくれるじゃろ」
作戦を要約すると、こうなる。
まず四人がローデン要塞にある物資を使い物にならなくさせる。
その方法は四人に任せることにした。
これが成功したあと、今度は敵の動きを見て行動を決定することになる。
敵が撤退する場合、即座にローデン要塞を取り戻す。
こちらは望みが薄いかもしれない。
敵が攻めてきた場合は、物資をすべて持って撤退を開始する。
魔王軍は物資を求めて山を下りてくるはずだ。
下町の物資をすべて回収して移動させておけば、彼らは一番近い国のルーエン王国を襲うことになるだろう。
それとローデン要塞と下町の住民たちは、すべてルーエン王国が引き受けるそうなので、そこは安心していいとの事。
作戦を聞いたティアーノが、確認として木幕に問う。
「本当に上手くいくの?」
「リトルに聞いてくれ」
「え? 僕?」
全員がリトルに目線を向ける。
何を隠そう、彼がこの作戦を導き出してくれた張本人なのだ。
どうやら彼は、長年魔族領に近いローデン要塞の下町で薬師をしていたので、魔物の特徴の多くを覚えており、知識が豊富であった。
特殊な魔物も多いので、魔物の毒や傷に侵された治療方法を覚えるのに自然と魔物の知識が増えていったらしい。
リトルは少し難しそうな顔をしながら、説明をしてくれた。
「まず……魔族領には人間が食べられるようなものがほとんど育たないんだ。これはさっきも説明したけど、魔物は魔力があれば生きていけるし、魔族は魔物の肉を食べれば生きていける。でも、それは魔族領の中での話。魔族領の外に出れば何かを食べて魔力を回復させなければならない。だから長距離を移動するのには、大量の物資が必要なんだ」
薬を調合しながら、話を続ける。
ゴリゴリという音がやけに耳につく。
「十万の兵が生きていけるだけの物資を、今から奪っていかなければならない。こちらは数で負けているけど、物資の面では圧倒的に勝っている。魔王軍がローデン要塞を始めに攻め落としたのも、多くの物資がここには届けられていることを知っていたからだろうね」
そこで隣にあった薪を焚火に追加する。
「でも、物資が燃やされたらどうなる? 敵は焦る。下町にすぐに攻め込み、物資の確保を優先するはず……」
できや薬を紙袋に丁寧に包み、また違う薬草を選ぶ。
薬草のすべての葉っぱを手で千切り、茎だけが残った。
それを全員に見せる。
「この戦いで魔王軍が勝利する条件は、ここで僕たちの兵力を壊滅させることじゃない。物資を奪い続けて戦争を続けることだよ」
ここで物資をすべて持ち去ってしまえば、魔王軍は大きな行動をしてくるに違いない。
その理由は再度物資を強奪する事。
であればその目的の物を奪わせなければいい。
これが分かっていれば、相手に最高の嫌がらせができる。
「まー……、長いこと魔族の情報なんて入ってこなかったし、こちらの情報不足が今回の敗因だと思ってもいいだろうねー……。向こうに物資の余裕がないってことを知っていれば、もう少しうまく立ち回れたんじゃない? バネップさん」
「……この話を聞いた時にも思ったが、お前は本当に一介の薬師か?」
「いやだなぁー。どこにでもいる普通の薬師ですよっ」
にへっと笑ったリトルの顔は、焚火の明かりに照らされて少しだけ不気味だった。
だが彼の話を聞いて、ティアーノは納得したらしい。
「兎にも角にも、作戦開始は明日の夜だ。それまでに撤退の準備を進める」
誰もがバネップの決定に、頷いたのだった。
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