10.23.ライア率いるライルマイン孤高衆
ライルマイン要塞の城壁に辿り着いた西形とスゥ。
勿論スゥはおもいっきり西形の足を蹴っ飛ばす。
「ごめんて!」
「っー!!」
「はいはいごめんね! とりあえず地面操って城壁の下に穴開けてもらって良いかな!?」
「っ!」
「んぐっほぁ!?」
スゥは力強く地面を踏みつけた瞬間、地面から太い柱が西形の腹部と突く。
予想以上に飛び出した土の柱は、西形をぶら下げたまま制止した。
フンッとそっぽを向いたスゥは、西形を無視して城壁を見る。
四千の兵士が脱出できるだけの大きさの穴を開けたいところだが、城壁が崩れてしまっては意味がない。
何ヵ所かに穴を空けて移動してもらっておいた方がよさそうだ。
騒ぎも大きくなってきたし、移動する準備ができた人から出てもらうことにする。
スゥは地面から獣ノ尾太刀を出現させて柄を握る。
そして地面を足でトントンと叩いて地面を動かした。
ゴゴゴゴッと地面が脈動し、地面が道を形成していく。
馬車もあったのでそれが通れるだけの穴を作り、なだらかな坂道を完成させた。
よし、と頷いて西形を呼ぶ。
「っ~」
「……いやこれ、結構痛い。え、あ? できたの? 早いね? てか下ろしてくれない?」
「っ」
「ふげっ!」
スゥが柱を軽く叩くと、それは瞬く間に崩れ去った。
腹を地面に強かに打ち付けた西形は、痛みに耐えるようにしてゴロゴロと転がっている。
そこでライアやウォンマッドがやってきた。
既に多くの兵士たちがスゥの空けた穴に気が付いており、馬車は荷物を運び出している。
状況の把握が意外と早い。
後ろから兵士が迫ってきているので、構っていられないのだとは思うが、今回はそれがいい方向に向かっているようだ。
「おお! これなら!」
「よし、ライア君」
「はい、急ぎましょうか!」
そう言ってライアは孤高軍全員を指揮して、ライルマイン要塞からの脱出を急がせる。
同じくウォンマッド斥候兵も行動し、荷運びなどを手伝って行った。
一つの入り口だけではなく、数箇所の入り口があったのが幸いして、ほとんどの荷物は滞りなく城の外へと出すことができた。
綿密に計画をしていたこともあって、その行動もやはり早い。
兵士たちがこちらに集まるより早く、孤高軍は外へと出ることができた。
「止まれー!! 貴様ら止まるのだー!!」
「はっはっはっは! だーれが止まるものか! その為に準備してたんだからなぁ!」
「孤高軍! 貴様らぁー!!」
「よぉし、スゥ! 行くよ!」
「っ!」
今までのうっ憤を晴らしたライアは、スゥを抱きかかえて作られた道を疾走する。
足からは雷がバチバチと弾けている。
三秒で外へと走って脱出したライアは、スゥに再度指示を出した。
「スゥ! 閉じてくれ!」
「っ!」
ライアの腕から飛び降りたスゥは、地面からまた獣ノ尾太刀を取り出して柄を握った。
地面が波打ってすぐに元通りになってしまう。
壁の奥からは罵声やら何やらが聞こえてくるが、孤高軍はしてやったりといった様子で歓声を上げた。
すると近くにいた者たちが、ライアとスゥの周りに集まってくる。
「坊ちゃんすげぇな! マジで助かったぜ!」
「っ!?」
「やーったぜぇー! ライア様! これで進めますね!」
「ああ! よぉーし! 阻止される前に進軍するぞ! 進軍しながら隊列を編成させろ! お前たちならできるはずだ! それとこの子は女の子だ!!」
『『『『えっ!?』』』』
「っーー!!」
それに一番驚くのかと、西形は小さく笑った。
さて、だがこれでこちらの役割は終了した。
しかし何か忘れている事があるような気がしてならない。
「あ!! 馬車忘れてた!!」
「あっ」
エリーもようやくここに到着して、その事を思い出した。
一台くれないだろうかと、ダメもとでライアに聞いてみることにする。
「ライアさん、馬車を一つ頂いてもいいかな……?」
「いいですよ」
「意外と軽かった」
一台の馬車を確保することができて、とりあえずホッとする。
あとは木幕たちがこちらに来てくれたら問題はないのだが……。
今何処にいるのだろう。
馬車の準備をしてもらっている間に、彼らを探してみる。
あの目立つ馬車だ。
すぐに見つけることができるだろうと思っていたのだが、むしろ向こうからこちらへとやってきているようだった。
周囲に叫び声がこだまする。
「槙田ぁ! 勝手に走らせるでない!!」
「どうせばれるのだぁ……。こいつらの目に触れさせておいた方が後が楽だぞぉ……?」
「はぁー……」
それもそうだがと考えるが、勝手な行動は控えて欲しいところだ。
槙田は遠くから西形が馬車を準備していた所を目撃しているので、すぐに馬車のロープを斬って西形の場所へと閻婆を向かわせる。
それによって近くにいた孤高軍は警戒をするが、その背中に乗っている人間を見て困惑していた。
「ああー! ああー! 大丈夫ですよ皆さーん! あの人僕の仲間なのでー!」
「西形ぁ……新しい縄を寄越せぇ……」
「はいはい……」
西形が彼らに軽い説明をして、警戒を解いてもらう。
大人しい魔物をみて、何故手懐けているのだろうかと新たな疑問が浮上した。
何者なのだろうかとも思うだろう。
槙田はロープを閻婆に取りつけていく。
閻婆は準備が整うまで欠伸をしながら待っていた。
「うわぁ……」
「木幕さんたちと同じ人って、大体こんな感じなんですかねぇ……」
「知らないよ……」
槙田と西形を見ていたライアとウォンマッドは、嘆息してその様子を眺めていた。
どういう思考回路を持てば、魔物を従えようなどという発想に至るのだろうか。
「すまんな」
「え、あ!! 総大将!!」
「え!? 貴方が!? うっそ!!?」
「久しいな、ライア。それとウォンマッドだったか?」
壊れかけの馬車から降りてきた木幕一行は、挨拶だけする為にライアの元まで歩いてきた。
そういえばウォンマッドは自分がこの孤高軍の総大将だということは知らなかったはずだ。
あの時はまだ小さな団体でしかなかったのだから、それも仕方がないだろう。
教える気もなかったのだから。
驚いた様子で木幕を凝視する二人。
彼らは兵を指揮する侍大将だ。
もう少し威厳を持ってもらいたいと、木幕は手を一度だけ打ち鳴らす。
「「わっ」」
「二人とも、感謝する。魔王軍侵攻開始まで、もう時間がない。ローデン要塞へは辿り着くことはできるだろうな?」
「……はい! 勿論ですよ総大将! 予想以上に時間を浪費しましたが、その分準備もできました! ローデン要塞への補給物資も万全です!」
「僕たちの機動力をなめないでほしい。開戦の前に周囲の地形や敵情視察もすべてやってのけるつもりだよ」
「頼もしい限りだ。兵力は?」
「孤高軍四千!」
「ウォンマッド斥候兵二百」
「うむ、十分だ」
隣から閻婆が叫ぶ声が聞こえた。
どうやらもう準備が整ったらしい。
レミやスゥ、水瀬やエリーは既に馬車へと乗り込んでおり、木幕が来るのを待っている。
待たせては悪いなと思い、木幕は二人の肩を掴んだ。
「ライア率いるライルマイン孤高衆、ウォンマッド斥候兵。共に戦えることを楽しみにしている」
「必ずや! ご期待に沿えて見せましょう!」
「僕たちは失敗しないさ」
彼らの自信ありげな表情を見届けた後、木幕は馬車へと乗り込む。
それを確認した槙田は、声をかけてきた。
「もういいのかぁ……?」
「構わん。お主のせいで大騒ぎだ」
「はっは、まぁそういう時もあるぅ……。いけ、閻婆」
「ギャワアアアア!」
ダンダンッと音を立てて走っていく閻婆を見届ける。
その速度は異様に速い。
彼らはああしてこの場に姿を現したのかと、その場にいた者たち全員が納得した。
「よし、僕らも行こうか」
「分かりました! ライルマイン孤高衆! 進軍せよ!!」
大きな掛け声と共に、彼らはローデン要塞へと足を運ぶ。
その声が先を急ぐ木幕たち一行の背を、押してくれていたように感じられた。
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