9.7.火山からの妖


 赤く燃え盛る溶岩がドロドロと流れ、触れゆくものをすべて燃やしていく。

 遠くに見ていてもその熱気が肌に突き刺さるようだ。


 この辺に草木はない。

 あったとしても燃やされてしまうことだろう。

 白い岩や黒い岩が点々とする中で、麓の方には砂地があった。

 流れてくる溶岩のせいで水が熱され、その砂たちも相当な熱量を持っている。


 そこから手が生えた。


「ごぼっはぁ! うごっほげっは! ぜぇー…………。何の冗談だぁ……?」


 両手で砂を殴って体を無理やり脱出させる。

 体の中に入った砂を取り除くために上の服を脱いで裏返した。

 深い傷が二つあるのがやけに目に付く。


 砂を取り払った後、また服を着て一息つく。

 天然の温泉があるような気がするので探しに行こうかとも思ったが、今の状況を瞬時に理解して体を鳴らす。


「あぁ……。またここに来たわけかぁ……。てことはあいつらも生きてるなぁ……」


 何処にいるかは分からないが、西形と水瀬も復活しているだろう。

 あの空間にしばらくいて木幕の動向を見ていたが、まだ合流できていないということは何処かで彷徨っているはずだ。

 それを探して合流するのがいいか、それとも先に木幕と合流して後で探すのがいいか……。


「どっちがいいかなぁ……? にしても火山かぁ……。火砕流塵かさいりゅうじんを思い出すぅ……」


 あの刀も、このように火山の麓で見つけたものだった。

 今度は自分が出てくるとは思いもよらなかったが。


 ここは確かマークディナ王国の近くだったはずだ。

 西行と辻間がいた場所があるはずなので、まずはそこで足を調達しなければならない。

 今度は騙されることはしないぞと思いながら、山の方角と太陽の方角を見て進行方向を決める。


 すると、懐かしい影を見つけることができた。

 こんな幸運があるのかと思ったが、恐らくこれも仕組まれた事なのだろう。


「西形ぁ」

「え、あ? ゲッ! よりによって貴方ですか!」

「ああん?」

「いえ何でもないです!」


 槙田は見つけた西形と水瀬の元へと歩いていく。

 やはり生きていたことに安堵し、面倒事が一つ消えたということに喜んだ。

 これで後は木幕を探すだけとなる。


 歩み寄ると、水瀬が一度頭を下げた。


「お久しぶりです。まさか槙田さんだったとは」

「んん? なんか知ってるのかぁ……?」

「はい。私たちの復活条件です」

「むぅ、俺は知らんなぁ……。それはなんだ?」

「刀を折られている事が、私たちに共通することなのですよ」

「……なぁるほどなぁ……」


 最初からあの空間にいる槙田は、戦う彼らすべてを見ていた。

 思えば確かにそうだと、納得する。

 一番初めにやられたどうこうという問題ではなかったようだ。

 刀を折った張本人がその共通点を忘れるとは片腹痛い。


 復活の順番はどうあれ、槙田の知っている中で刀を折られたのはこの三名のみだ。

 あとはあの空間に捕らえられたままとなるだろう。


 そこで西形が少しおどおどとしながら槙田に問いかける。


「あのー、槙田さん。木幕さんがどこにいったか分かりませんか……?」

「知っているぞ」

「おお、よかった! いやはや、マークディナ王国へと行ったという情報は手に入れたのですが、そこからの行動が不明瞭でして……」

「まぁそれは仕方ないだろうぅ……。モルト山脈と言っていたぁ……。最終的に向かう目的地はぐらぐら王国らしぃ……」

「モルト山脈、ぐらぐら? グラルドラ王国かしら……」


 水瀬はそれを聞いて地図を取り出した。

 今いる現在地を指で指し、なぞるようにして二つの目的地に目星を付ける。


 文字は読むことができないが、地図を購入した時に読みだけを教えてもらったので、場所は分かる。

 彼女の記憶力は他の者とは一線を置く。

 あとはそれらしい地形を見つけて確認すれば、簡単に見つけることができた。


「ここですね……。馬車で二週間進むと村があるらしいです。そこから一ヵ月行くとグラルドラ王国につくみたいですね」

「木幕たちは今徒歩で向かっているぅ……。そのグラルドラ王国へ向かえばぁ……自ずと合流できるはずだぁ……」

「それは僥倖。ようやく合流できそうですね」

「というかぁ……」


 槙田はギョロっと西形を見る。

 びくりと肩を震わせて身構えた。


「お前の奇術で探せないのかぁ……?」

「いやいやいやいや! 当てずっぽうで行ったって意味ないでしょう!? それにこれ結構お腹すくんですから……」

「なんだ、飯処を襲っていたのはそれが所以か」

「いやなんで姉上の前でそれを貴方は──」

「愚弟??」

「もうしませんから!!!!」


 必死に抗議してはいるが、殴られないように距離を取る。

 その様子に槙田はげらげらと笑ったが、すぐに静かになって紅蓮焔に手を置いた。


「まぁ……奇術が使えるということは分かったぁ……」

「私も使えますよ。不明なことは多くありますが、今は木幕さんとの合流を急ぎましょう」

「だなぁ……。つーことは、馬車でも用意するかぁ……」

「あ、馬は僕が操れます」

「問題はなさそうだなぁ……」


 三人は一度マークディナ王国へと足を運ぶことにした。

 そこで馬と馬車を調達し、グラルドラ王国へと向かう予定だ。


 三人が木幕と合流できるようになるのは、もう少しだけ先の話である。

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