7.38.チームワーク
残りの敵は十二名。
後方にいた魔法使いがいなくなったのは、レミとスゥにとってはありがたかった。
魔法使いとの戦いはほとんど行っていないので、少し不安だったのだ。
だが今はテディアンが支援してくれる。
これだけで非常に心強い。
前へと駆けだしたレミは、薙刀を脇構えにして突っ走る。
相手も同じように走ってきているので、タイミングを計らなければならない。
敵の数も一人で立ち回るにしては多いため、連続しての攻撃と受け流しが求められる。
「でああああ!」
「ほっ」
大上段からの攻撃を半身で回避する。
それにより、体の形が長物を思いっきり振るうのに適した体勢を作り出してくれた。
ぐっと柄を握り込み、半回転して左から薙刀を大きく薙ぐ。
肩から手首を使ったその攻撃は大きな遠心力を乗せ、敵の頭をかち割った。
容赦のないその攻撃に若干身を強張らせた敵たちは、一瞬動きを止めてしまう。
だがそれは悪手だ。
テディアンの魔法によって強制的に吹き飛ばされる。
「風よ、吹け!!」
「短略詠唱!?」
一つの風の塊が、ドンッと二名の魔法使いを吹き飛ばす。
これで完全に遠距離からの攻撃をしてくる敵はいなくなった。
その威力はなかなかのもので、一番遠くの壁にぶつかるまで吹き飛ばされる。
短略詠唱。
魔法というものは、使いたい属性をまず初めに口にしてから指示を出すという方法が一般的である。
だがこの短い詠唱は、相当な魔力コントロールを習得していなければ使えない。
一小節のみで、それ相応の魔力を魔法に込めるのだ。
簡単にできるような物ではない。
話を聞いたことはあっても見たことはなかったレミは、驚いてしまった。
「楽勝ね~」
「普通に強いじゃないですかテディアンさん!」
「でっしょー! もっと褒めてもいいのよ~」
「はい、では集中してください」
「はーい……」
テディアンは軽く叱られてから、指を軽く振りまわす。
「風よ、巻け!」
「風よ、鎮まれ」
遠くにいた黒い梟に攻撃をしようと思ったテディアンだったが、その魔法はかき消されてしまった。
予想外の阻害に驚いて敵を凝視してみると、一人の黒外套を羽織った人物が片手をこちらに向けている。
どうや他あの人物が魔法を打ち消したらしい。
「ちぇ、同じ短略詠唱かぁ……。やっぱり黒い梟は強いね。じゃ、まず先にこっち片付けますか」
「そうしましょう。スゥ!」
「っ!」
呼ばれたスゥは、小太刀を片手で持って周囲を疾走する。
小柄であるということもあり、その速度は速い。
そのまま敵に近づいて軽い傷をつけて行く。
一人の男がスゥを目で捉える。
こちらに向かってきているタイミングを見計らって剣を振るうが、スゥはそれを飛び越えながら相手の肩を斬った。
「ぐっ!」
「っ」
軽い身のこなしは、相手を翻弄するのに一役買っているらしい。
その間にレミが前に出て、一人一人を確実に仕留めて行く。
流れを切らないように、連続して薙刀を振るう。
下段から切り上げ、敵の剣を弾き飛ばす。
そこから弧を描いて横から薙ぎ、腹部を切り裂いたと同時に横から迫ってきていた人物に目を向けて狙いを定め、同じように薙ぐ。
「火よ、飛べ!!」
後方から襲い掛かろうとしていた敵を、テディアンが始末する。
そのテディアンを狙おうと剣を持って走ってきている男性を、スゥがその足を斬って転倒させた。
最後に飛び上がってのしかかり、相手の喉を突き刺す。
まだ力のないスゥは突きでなければ相手を仕留めることができないのだ。
だが、木幕から教わった型もしっかりと応用させている。
随分形は変わっているが、先ほど男性の足を斬ったやり方は葉我流剣術の木枯しと似ているのだ。
飛び上がっているので型としては一瞬で終わっているが。
あっという間に数人が倒れて、残された者は狼狽している。
明らかに逃げようという選択肢が頭の中に浮かび上がっているとは思うのだが、誰もがそうはしない。
恐らくあの黒外套の人物に圧を掛けられているのだ。
逃げても待っているのは死だけ。
それをテディアンは分かっていた。
冒険者ギルドでも精々中の下くらいの実力の彼らでは、自分たちには勝てないだろう。
オーラを見てみればそれはよく分かる。
先ほどまで立っていたフルアーマーの三人も、怯えて手が出せない状況だ。
とりあえずこの場での勝負はついた。
後は彼らがどう動くかによる。
薙刀の基本姿勢を取ったレミの隣に、スゥがやってきた。
真っすぐに構えた切っ先を相手へと向ける。
子供と女に翻弄され、数名が既に倒れた。
残りは八名しかいない。
「テディアンさーん。貴方だったら一発でこいつら倒せるでしょう?」
「そうだけどー、やっぱり貴方たちの実力みたいじゃなーい? てかその武器でよくそこまで動けるわね……スゥちゃんもよくそれで大男倒せるわよね……」
「っ!」
レミはともかくとして、スゥは器用だ。
それにまだ成長できる。
いずれは日本刀をしっかりと使いこなせるようになるだろう。
と言うか、魔法使いがいるだけで戦闘が非常に楽だった。
自分も魔法を使えたらいいなと思うが、使えるのは生活魔法程度なので戦闘の役には一切立たないだろう。
暇になったら少しでも戦闘に使える魔法を教えてもらおうかと、レミは考えた。
「ど、どうするんですか……」
「強すぎんだろ……俺はまだ死にたくないぞ……」
「に、逃げますか?」
「どうやって逃げるんだよ……! あいつらが見てんだぞ……!」
「でも……」
金を貰った以上、働かないわけにはいかない。
だが、この依頼はそれには見合わないものだ。
そう考えた一人の男性が、踵を返して脱兎の如く逃げ出した。
ようやく逃げ出したかと思ってほっとしたレミだったが、その男性の首は簡単に斬り飛ばされる。
一体何が起こったのか一瞬理解できなかったが、屋根の上から黒外套の人物が一人、また魔法を放ったらしい。
水系の魔法である。
「え?」
疑問を口にしたレミに、テディアンが説明をしてくれた。
「黒い梟はね、存在を知られた者を生きては帰さないんだよ」
「え……じゃあ……」
「だから先にあっちを倒したかったんだけどね……。これじゃこいつら倒さないと駄目みたい。あいつらもこいつらが死ぬの待ってるんだよ。自分たちが動かなければそれはそれでいいからね」
残りの七人が、死んだ男性を見て恐怖し構えを取った。
生きて帰るには、三人を倒すしかない。
死を覚悟した者たちが生に縋りつく時は、いつだって危険である。
剣の柄を強く握った状態のまま、彼らはこちらに足を踏み込んだ。
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