7.34.爆破


 眼前に迫ってきていた二隻の船が、真横に付けようとしている。

 速度も落としているので、こちらも落とす。

 これからが本当の戦いだ。


 だが、まともにやり合うのは一隻のみと決めていた。

 では残りのもう一隻はどうするというのか。

 そんなことは決まっている。


 ラックルが一番得意な戦い方で、派手に勝利を飾る。


 敵船が近づいてきたと同時に、ラックルは舵を切った。

 向かってきていた一隻の敵船はその反応に首を傾げたが、彼らは乗っ取られている事を知らない。

 とは言え真っすぐにこちらに向かってきている事から、何かあったのだと察することができるだろう。

 もしそうでなかったとしても、味方同士の船でぶつかるのは良くない。

 すぐさま回避行動を起こそうとしたが、時すでに遅し。

 もう船首が敵船のよこっぱらを引っ掻いた。


 速度を落としていた為回避行動もできず、同じく速度を落としていたこちら側も、ぶつかって勢いをほとんど失った。

 ゆっくりと横腹を引っ掻き合う。


「準備、完了!」


 ラックルは船内にあったランタンを、マストの上から甲板に投げ落とす。

 バリンッと割れた瞬間、予め塗られてあった油に引火して船内へと火が走って行く。

 最後に到着する場所は、火薬庫だ。


 ラックルは片手に持っていたロープを両手で握り込む。

 高いマストから飛び降りて、海の方目がけて振り子のように飛んでいった。

 その先にあったのはニーナ号。

 だが若干距離が足りないかなと、苦笑いしながら手を伸ばす。


「風よ、我が前に姿を現し、荒れ給え! トルネイド!」


 突如吹いてきた風に、体が乗せられる。

 落ちていた体が持ち上がって、ニーナ号の甲板に放り投げだされた。

 少し乱暴ではあったが、これで海に落ちなくて済んだとほっとする。


「もーちょっと丁寧にしなよー!」

「ハッ、贅沢言うんじゃねぇよ」


 魔法を使ってラックルを助けたデルゲンは、すぐに残っている敵船へと目をやった。

 後数秒で接敵する。


 そして、後方から爆発音が聞こえた。

 爆発は先ほどラックルが乗っていた船から起った。

 二度三度の爆発で、船の横腹を引っ掻き合っていた二隻の船が破壊されていく。


 爆発によって海が大きくうねる。

 そのうねりを利用して、砲門が若干下を向く寸前に砲撃の号令を出した。


「撃てええ!!」

「撃てええ!!」


 号令を船内に伝達する号令が響き渡った瞬間、右舷の砲門全門が火を噴いた。

 だが相手も負けることなく同じく砲撃を開始する。


 ニーナ号は硬いとは言っても、さすがにこれだけの砲撃には耐えることができない。

 威力の乗った大砲の玉を受け止めれるような船は今存在していないのだ。

 故に、双方の船内は荒れに荒れまくっていた。


 木材がはじけ飛び、大砲すらもがひっくり返される。

 砲弾には様々な種類があって、チェーン付きの砲弾も撃ち込まれてきた。

 それに数名の団員が吹き飛ばされて絶命する。

 何人かは海に叩き落されている様だ。


 だがこちらも負けてはいられない。

 若干下向きで撃ち込んだその砲弾は、着水している船底に命中する。

 それが数十発だ。

 勿論甲板に設置されている大砲は、船内にいる者たちへと火を噴いている。


 しかし、今の攻撃で敵船の浸水は異常なまでに速い。

 それに気付きはするが、間に合いはしないだろう。

 段々と修理に回って行く者たちが多くなっていったのか、砲撃の手が緩んでいく。

 こちらもそれ相応の痛手をこうむってはいたが、戦えない程ではない。


 次第に沈んでいく敵船を見て、彼らの士気は上がっていく。

 更に攻撃を撃ち込んでダメ押しを加えていった。


 敵船は、完全に沈んだようで船体を傾けていく。

 それを確認した時、ニーナ号からは歓声が上がった。


『おおおおおお!!』

「はー、疲れたなぁおい」


 流石に一隻で三隻を相手にするのは荷が重かった。

 あそこで爆破させておかなければ、被害はもっと出ていただろうし、なんなら勝てたかも怪しい状況だっただろう。


「もうこんな経験はこりごりだべ……」


 石動はどっかりと甲板に座ってため息をついた。

 今までの戦場とは違う戦場。

 慣れていないということもあるのだろうが、もう一度同じことをしようとは思えなかった。

 そこで石動に同意する。


 しかし、彼らの船上での動きは恐ろしい程に速い。

 訓練されつくした兵士の様である。

 自らの死に鈍感な集団というのは、敵に回したくないものだ。

 加えて誰しもが嬉々としてこの戦場に喜びを感じていたように思える。


 無茶なことを平気でやり、その荒々しさもが彼らの存在を掲げあげる象徴にもなっているような気さえした。

 海賊というのは、なかなか侮れないものだ。

 ただの蛮族と思っていた時もあったが、これでは考えを改めざるを得なくなる。


「良い兵士たちだな」

「だろう? 自慢の子分共さ! さー、奴らの積み荷を引き上げるぞー!」

『おおー!!』


 また海賊たちはいそいそと準備を始める。

 アテーゲ領に到着するのはもう少し先になりそうだ。

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