7.31.何故か知っている
レミは考えていた。
どうすれば襲撃を返り討ちにできるかどうかを。
スゥの説明から一日が経った朝、奴隷商から派遣されてきた人物がこちらに来ることを見越して待ち伏せをしていたのだが、まったく来る気配がなかった。
それはそれで別にいいのだが、恐らくは戦力を集めているのだろう。
となればこちらも何か手を打っておかなければならなくなる。
幸い、向こう側には今石動がここに居ないということを知らない。
相手が何をしてこようがターゲットはいないので無駄足にはなるだろうが、それで鍛冶場を壊されてしまったら大問題だ。
であれば他の鍛冶場を使えばいいとは思っていたのだが、石動はそもそもここの人間ではない。
なので普通の鍛冶場で見ないような道具や設備も何個か自作している。
これを壊されてしまえば、刀の製作にまた時間を有してしまうことになるだろう。
そのため、この鍛冶場だけは何としてでも守らなければならなかった。
しかし、そこでまたレミの頭を悩ませる問題が浮上する。
圧倒的戦力不足。
相手がヤバイ奴らだということは、スゥの説明で知っている。
時間が経てば経つにつれて戦力は増えていくだろう。
それがどんな雑魚でも数が揃えば強大な戦力になる。
数の暴力は恐ろしいものだ。
この人数では偵察もすることができないので、やはり困ったと頭を悩ませる。
今からでも領主に直談判をしに行ってみるか?
だがそれですぐに動いてくれるか分からない。
加えて今日中に会えるかどうかも怪しいのだ。
あまり期待はできないだろう。
今回の黒幕は分かっている。
そしてその人物が雇っているであろう黒外套の二人は要注意。
更に奴隷商との繋がりがある。
しかしそれは金で購入しているものだと思うので、商売相手としての関係だけしかないだろう。
問題視しなければならないの黒外套二人だ。
明らかに強い雰囲気だったと聞いているし、今朝追加の話で女の方に襲われたとも教えてもらった。
よく生きて帰ってきてくれたと心底安心したものだ。
これからは離れないで欲しいと、念を入れて言っておいた。
道具はその辺に沢山あるので、罠でも張ってみようかとレミは考える。
村育ちなので、動物を狩る為の罠の張り方は覚えていた。
とは言え人に向けて使うのは初めてだ。
どうしたものかなと考えていると、少し離れた場所から足音が聞こえてきた。
今日はやけに遅かったなと思いながら、薙刀を手に取ってそちらを向いてみる。
すると、昨晩出会ったテディアンが歩いていた。
「……え?」
「あ! 見ーつけた! 置いて行くなんてひどいじゃないのよー!」
「……ここに来た理由を教えてください」
「へ? 理由?」
これは、レミにとっては聞かなければならなかったことだ。
そう言うのも、ここに来る者は大体が敵である。
それ故に彼女も指示されてここに来たのではないかと勘繰ったのだ。
返答次第では、敵になることになる。
薙刀を持つ手に力が入る。
「持ってきたのよ情報を。貴方たち今マズい状況なんでしょう?」
「え?」
「ああ、警戒しないでね~。私は味方だから。ちょっと個人的に恨みのある奴がこれに絡んでる可能性があってね。だから手伝っちゃう!」
「きな臭い……」
「失礼ね!」
恐らく誰が聞いても同じ反応をするぞと、レミは心なのかでつぶやいた。
逆にそれで納得できる人がいるのだろうか。
「ていうかどうやってここまで?」
「貴方たちのオーラを辿ったのよ。大きいオーラだったから良く分かったわ」
「あ、あれ嘘じゃなかったんですね」
「貴方と会話して嘘ついたことないわよ私!」
「失礼しましたー」
一応彼女は味方らしい。
どこでそう言った情報を手に入れて来たかは定かではないが、何も知らない状況より、彼女の話を聞いて対策を練った方が良いだろう。
信じるかどうかは、まず内容を聞いてみてから考えることにする。
テディアンはレミの近くで座る。
レミもまずは話を聞いてみないと判断ができないので、同じ様に座って耳を傾けることにした。
「じゃ、なんか知ってること教えてください」
「貴方たちは何処まで知ってるの?」
「石動さんに頼まれた依頼が偽物で、それを企てたのは三人の人物。多分その内の一人が本当の黒幕で、残りの二人が雇われた傭兵的な人物だと思っています」
「なるほどね。概ね正解よ」
「ていうかテディアンさんは何処でこの情報を?」
「黒外套の黒い梟……。あれが私の狙っている敵よ。それがこのアテーゲ領で海賊とグルになって何かをしているっていう話を聞きつけたの」
「海賊……」
海賊という単語を聞いて、レミは少し不安になる。
木幕と石動が向かった場所にも海賊がいるはずだ。
となれば、そこに居る人物たちが今回の作戦を企てたのではないだろうか。
それに黒い梟と言えば、ルーエン王国で夜襲を仕掛けてきた奴らのことだ。
暗殺集団だということはなんとなく分かっていた事だが、あれがまた来ているとなると厄介かもしれない。
前回のは弱い奴らばかりの烏合の衆だったが、今回は明らかに強い人物がいるとスゥが言っていたのだ。
敵が思った以上に強かった。
では、どうしてすぐに強硬手段に出なかったのだろうか。
石動には勝てないと思っていた?
それともまた何か別の理由があるのだろうか。
「ああ、それ?」
「え、知ってるんですか?」
「うん。あいつら自分たちの鍛冶場持ってないからね」
「……え、それだけ?」
「それだけ」
理由は意外としょうもないことなんだなと、なんだか気が抜けたレミであった。
しかし何にせよ、仲間が一人増えるのはありがたい。
他に誰かいないかを聞いてみる。
「居ない」
「ええ……」
「だって私嫌われ者だもーん。パーティーには貢献してたはずなんだけどね。だから一人が多いのよ」
「今頃そのパーティーどうなってるんですか?」
「さぁ。私を追い出した奴らが戻ってきてくれって言ってきたこともあったけど、全部蹴ったわ。裏切りって一度や二度じゃ終わらないから」
「へ、へぇ~……」
なんにせよ、新たな仲間は増えそうにない。
こうなったらギルドか何かに頼もうかと思ったが、それは止められた。
どうやら黒い梟はその辺の情報には敏感らしく、集めた途端に何か策を打ってくる可能性もあるらしい。
余計な死体を増やしたくないのであれば、何もしないことを進められた。
だがそれでは負けることは目に見えている。
「どうするって言うんですか……」
「そこで私の出番! 遠隔サポート罠術なんでもござれ~」
「不安だ」
「っ」
「失礼ね! っていつの間に!?」
やはり不安は拭えないレミとスゥであった。
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