6.23.救出
冷たい感触を地肌に受け、目を覚ました。
ぼーっとする頭でなんでこんな所にいるのかと思考を巡らせる。
だがすぐに思い出し、逆にもう一度目を閉じて寝たふりをした。
自分は逃走に失敗して掴まった。
スゥは何処にいるのだろうと思い、薄目を開けて周囲を見える範囲で確認する。
動いていなければ何かされることはない。
今ので勘づかれているかもしれないが、そう言った音は聞こえない。
どうやら近くに監視している人物はいないようだ。
ここは牢屋の様だということが分かった。
目に見える範囲に兵士はいない。
集中して音を聞いてみるが、物音は一切聞こえない。
どうやらここには自分しかいないようだ。
ゆっくりと目を開けて、寝たまま首を動かしてみる。
目で確認してみても敵の姿は見受けられない。
すると、腕に何かが当たった。
「! スゥちゃん……!」
すぐに抱きかかえて体を確認してみる。
傷もないので乱暴をされたということはなさそうだ。
その事にほっとして、荷物を確認する。
やはりと言うべきか、荷物は全て没収されていた。
それに酷い悲しみを覚える。
形見でもある津之江の薙刀が今手元にないというだけで、寂しくなった。
レミはようやく、木幕が自分の持っている武器に対する異常なまでの愛情が理解できたような気がした。
そして次に込み上げてくるのは怒りだ。
こんな小さな子供までも巻き添えにして、あの兵士たちは一体何がしたいのだろうか。
スゥの武器も取り上げられている。
あれも沖田川たちが残してくれた大切な一振りだ。
どうあってもあれを取り返さなければならない。
しかし、武器もない状態での脱出は困難を極める。
ここはレミたちを監禁した兵士たちの本拠地だと思うので、下手なことはできない。
牢に入れられているだけで手枷をされていないのが唯一の救いだ。
何か使えそうな物がないかと探してみるが、ここは牢屋。
脱出に使えそうな物など落ちているはずがない。
ドォン……。
小さな揺れと共に、砂ぼこりが落ちてくる。
それから何度も同じ音が聞こえ、地面が揺れた。
「っ? っ!?」
「起きた? ちょっとここで待ってようね……」
「……っ」
一体この揺れは何なのだろうか。
これだけ大地を揺るがす存在とは一体何なのだろうと考えると、少しだけ怖くなる。
レミはスゥを抱きかかえ、そのまま待機した。
兵士たちは恐らくこの騒動で外に駆り出されている。
だから見張りも何もいないのだろうと、レミは少しだけ安心した。
ギャンッ!!
ゴトゴトゴトトトトト……。
鉄が何か固いものにぶつかった音がした後、この牢屋の階段から一人の兵士の死体が落ちてくる。
レミはぎょっとしてスゥの目を塞ぐ。
それから何度かの斬撃が繰り返されたようで、悲鳴が上がった。
次にゆっくりと誰かが降りてくる。
足が見えた。
それだけで、レミは力が抜けたように安心した。
「ここにおったか」
「……師匠~……」
「泣くな……。また鍛えなおすから覚悟しておけ」
「はいぃ……」
木幕は鯉口を斬る。
葉の刃を南京錠に集中させて鍵を破壊した。
扉を開けたレミは、スゥと一緒に外に出る。
その瞬間、木幕がレミに向かって何かの袋を投げ渡した。
慌てて受け取ってみると、それは持っていたはずの魔法袋だ。
「もう失くすなよ」
「は、はい! で、でも師匠! スゥちゃんの武器が……」
「なに……? では探すとしよう」
一緒に入っているかとも思ったが、中にはレミの持ち物しか入っていなかった。
だが金だけはしっかりと抜き取られている。
これも後で探しておかなければならないだろう。
しかし上で何か騒動が起きている。
スゥの武器を探す時間はおろか、ここから脱出することができるのだろうか?
不安気にそう尋ねてみるが、木幕は自信満々に頷いて少し笑った。
「葛篭が暴れている。ウォンマッド斥候兵隊長も一緒だ。井戸の中に放り込まれたあいつな」
「え!? 裏切り行為では……?」
「どうやら密命を預かっていたらしい。葛篭が暴れるのと同時にこの屋敷を調べるそうだ」
「へ、へぇ……」
この人たち、完全に利用されている。
そうは思ったがとりあえず心の中で留めておくことにした。
だが味方が増えるのは嬉しいことだ。
脱出のチャンスも増えるかもしれない。
早々にスゥの武器を回収して、こんな所からはさっさとおさらばしなくては。
「で、お主はなぜ負けた」
「あぅ……ま、魔法で……体が痺れて動けなくなりました……」
「そうか。お主も何か奇術を操れるようにならねばな」
「私はせいぜい生活魔法しか使えませんよう!」
「っ?」
「スゥちゃんは……そう言えば何が使えるの……?」
「?」
レミの言っている事の意味が分からないのか、スゥは首を傾げただけで終わった。
これも後で調べておいた方がいい。
今まで使う素振りすら見せなかったので、気に留めることもなかった。
だがスゥに何か魔法の適性があればこれからの戦いに組み込むことができるだろう。
それを木幕が良しとするかは別として、自分の能力は把握していた方が良い。
師匠には隠れてこっそり確認しようと、レミはひそかに企てた。
「さて……何処にあるか……」
「あれは綺麗なものです。なのでここの家主が持っている可能性が高いですね」
「であれば、葛篭と合流だ。あいつはここの主に用があるらしい」
「今度は井戸だけじゃ済まなさそうですね……」
「無論。許しを請うたとしても、葛篭が許すことは絶対にないだろうな」
葛篭は本気で怒っていた。
その主犯格を捕まえるためなら自らの命も要らんと言いたげに、今は獣ノ尾太刀を振るっている。
まさに獣の如し。
眼前の獲物を狩らんばかりの眼差しで、前へ前へと突き進む。
本当に獣のような男だ。
熊よりももっと狂暴な何か。
彼の怒っている姿を見た木幕は、その姿を思い出してゾクリと身を震わせる。
やはり、戦ってみたい。
もう一度、葛篭と戦ってみたかった。
負けるだけの強敵であり、超えるべき相手。
強者に挑んで負けることになんの不満があるだろうか。
だがまだだ。
この一件を解決するまでは、まだ我慢しておこう。
木幕はそんな思いを胸に、不敵に笑った笑顔を真顔に戻して廊下を走っていった。
それに二人は続いていく。
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