4.25.黒い梟
真夜中。
風が強く吹きすさぶ中、黒いマントを羽織った人物が数人、スラム街へ向けて走っていた。
屋根を飛び越えながら走る者、地面を静かに走る者と様々だが、総勢十二人の集団が目的地を目指して突き進んでいる。
一人の人物が片手をバッと上げて立ち止まる。
それに続いて一定の間隔を取って走っていた仲間も同様に立ち止まった。
屋根を走っていた者はしゃがんで身を低く。
地面を走っていた者は通りすがりのスラムの住民を刺し殺しながら、自分たちの存在を露見させないように対策し、壁に張り付いて目的地を確認する。
孤児院。
あそこに厄介な敵がいると聞き、依頼をされた殺し屋集団。
黒い梟。
彼らはその中でも中の上当たりの実力を保持する者たちだ。
それが十二人。
敵は一人だと聞いているし、これだけ人数が居れば問題なく対処できる。
殺しであれば普通、出来る限り人出は少ない方が良い。
だが黒い梟は逆に人を増やし、見られる可能性がある者、見つけてしまった者を口留めしながら標的に接近する者たちだ。
それ故に誰も彼らの事を知らない。
知っているのは上流貴族や裏社会にいるごく一部。
彼らの用意周到な立ち回りを知る者は、これ程にまで完璧な殺し屋集団はいないと舌を巻くほどである。
とは言え、今回はスラム街であるからこのようなことができるのだ。
町中などでは流石に同じ動きは出来ないので、そうなった場合は黒い梟の中でも選りすぐりの者を選抜して殺しに向かわせる。
時と場合を選び、殺害方法を変えるのだ。
森やスラム街などと言った人が少ない場合はこの動きを実施する。
森であればその効果はとてつもない程の痛手を相手に負わせることができた。
なんせそう言う場合に限って兵士などが徘徊しているのだ。
守備を全て殺されれば、逃げることもままならないだろう。
立ち止まった黒い梟は、全員が耳を澄ませて中の様子を伺った。
静かに近づき、懐から暗器を取り出す。
全員が孤児院を囲んだことを確認すると、一斉に動き出した。
中に入り、標的を捜索する。
一階、二階、外全て探した。
その速度は速く、一分も経たないうちに全ての部屋を探し回ることができた。
だが……。
「いない……?」
報告では老人と子供、そしてシーラという女性がいるはずだ。
だがここには誰一人としていなかった。
おかしいとは思ったが、クレムは絶対にここにいると言っていたし、積まれた金からその意思を察することができた。
なので嘘を言っているわけではないという事は理解できる。
だがこの孤児院には誰もいなかった。
老人はともかく、子供もいないとなると、もしかするとこちらの動きがバレていた可能性がある。
そんな人物を放っておくことなどできない。
「お前は依頼主に報告をしてこい」
一人を指名してすぐに向かわせる。
ここにいた者たちの事を調べなければ。
誰から情報を貰ったのか、そしてシーラの行方も分からない。
こちらの味方だとは聞いていたが、行動を起こしていないし報告もないとなると裏切った可能性がある。
そいつも黒い梟の事をクレムから聞いている可能性があるので、同じ様に始末することを今この場で決定した。
しかし、ここにいた者は何処に行ったのだろうか。
スラム街の住人であれば、移動する場所の範囲は限られる。
調べ上げるのはそこまで難しくはないだろう。
「隊長~。いないじゃないですかぁ」
「逃げたみたいだな。探すぞ」
「ええ~~……。見つけたらもうやっちゃっていいっすかぁ?」
「駄目だ。しっかり報告しろ」
「はーい」
のんびりと返事をする女性に、隊長と呼ばれた男はビシッと指示をした。
もし手に余るような相手であれば次に活かすことができない。
情報をそこで断たれるのは、相手に情報を渡してしまうことになる。
それだけは避けて通らなければならない道だ。
数人いれば最悪一人は逃がすことができる陣形を維持している。
勝手な行動をされてそれが意味をなさなければ困るのだ。
だが敵は老人だというし、子供もいるはずだ。
移動できてもそこまで遠くには行っていないと思う。
「とりあえず戻るぞ」
「はぁい」
黒い梟は闇に溶ける様にして、孤児院を後にしたのだった。
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