第177話 『その日、体験してもらった』

「走ったって……ええっ!? じょ、冗談でしょ? 確かに走れば短縮出来るかもしれないけど、あの距離をこの時間で走破するなんて不可能よ!」

「本当だよー。まあでも、信じられない気持ちも、分からないでもないわ。私の本気のスピードは誰にも見せたことがないし」

「誰にもって、アリシア姉様にも?」

「うん」


 本気目に走ったのなんて、この世界に来た頃くらいだ。

 あれだってレベルが1の頃だったし、ちょっと力を込めて走ってみたくらいだもん。ピシャーチャとの戦闘の時でも、走り回りはしたけれど様子を見ながらだったし、その他の戦いの時も、立ち回っている。

 私が活躍してるからって、見てもらえないのは悲しいもの。


「でも、だからってこのクリア時間は……」

「信じられない?」

「……ええ」

「私の事が大好きでも?」

「それは関係……ううん、そういう問題じゃなくて。どれだけ素早くても限度ってものがあるでしょ!」

「他の皆もそう思う?」


 ダンジョンには入ったことのあるクラスの皆だけでなく、アリスちゃんやアリシアまでもが遠慮がちに頷いた。

 ちなみにママとリリちゃんはダンジョンの長さをよくわかっていない分、困惑気味だけど納得してる感じがするわ。まあシラユキちゃんだし、みたいな。

 そして同じく未経験であるはずの初等部の子達は、ダンジョンの中を知らないまでも、今までのレコードとの差に驚きを取り越してキャイキャイ騒いでいる。カワイらしいわね。


「アリシアにまで信じてもらえないのはショックね」

「申し訳ありません、お嬢様。自分より早く動ける人を見たことがない為、想像が出来ないのです。他の皆さんも似たような理由かと」

「なるほど。大丈夫よ、泣いたりしないから」

『ほっ』


 ………………。


 今、一体何人が胸を撫で下ろしたのだろう。ちょっと、片手じゃ収まらない人数が居たような気がしてならないわ。


 別の意味で泣いちゃうかも。


「それじゃ、仕方がないわね。何人かには私の速度を体験してもらいましょうか。それなら、私の記録も理解してもらえるでしょうし」

「速度の体験、ですか?」

「そ。全員を一度には出来ないから1人ずつ体験してもらうことになるわ。けれど、時間に余裕がないから何人かに絞る必要があるわね。だからそうね、アリシアとソフィー、それからアリスちゃんは連れて行くとして。出来ればもう1人……ダンジョンを一度経験していて、それでいて私に対して……」


 クラスメイト達を見回していると、1人条件に合致する子が目に留まる。

 ……うん、が良いわね。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「シラユキちゃん。言われるままについてきたけど、私なんかで良かったわけ? 貴女と仲の良い子は他にも居たじゃん。ココナちゃんとか、アリエンヌ嬢とかさー」


 短く切り揃えられた髪を弄りながら、面倒臭そうに彼女は言う。私と2人っきりでも、いつもと態度を変えない姿には好感が持てるわね。


「んー、仲が良すぎる子達を優先的に連れていっても、結局身内で完結してしまうじゃない。それだと、皆を呼んでまで記録を更新した意味がないわ。だから、ある程度私との関係が深くなくて、それなりに発言力もある子が良かったの。そういう意味では、誰にでもドライな態度を変えず、それでいて実力が認められているテトラちゃんがベストだったのよ」

「ドライじゃないよ。そんなに興味がないだけ」

「それがドライだと思うけどなぁ……」


 Sクラスの子達は全員、敬称は別にしても名前を呼び合うくらいには仲良くなった。そんな中で女子生徒から向けられる視線は3種類に分けられる。

 1つは、私と深い関係を結んだ事からくる親愛や愛情。

 1つは、婚約者や彼氏を持っていて、恋愛感情には発展しないけれどそれに近しい感情や尊敬からくる物。

 そして最後に、友情は育んでいるけれど、私からは一歩距離を置いている物。


 彼女、テトラ・アバスティンも、その距離を置いてる人物の1人だ。というか彼女の場合、クラスの全員に対してそんな感じだ。公爵令嬢のソフィーに対しても、王族であるグレンやジーノに対しても。

 彼女を一言で表すなら、無気力だ。声に抑揚もなければ、口から出てくるのは全て本音。まるで考えてから喋るのすら面倒くさがっているかのようにも思える。

 そんな彼女は、最初こそ色んな人が気にかけて、声をかけてみたらしいけど、彼女は一向に変わる事なく初等部の頃からずっとこんな感じらしい。

 そんな彼女に腹を立てたのか、どこぞのお馬鹿が決闘を申し込んだりしたことがあるようだけど……。において重要人物である彼女が弱いわけもなく、当然のように返り討ち。

 逆に相手から賭けの対象を搾り取ったようだった。


 本来であればそんな危なっかしいことをする子は、ソフィーやグレン達が放っておかないと思うんだけど、そんな無気力な彼女は困ったことに、他国からやってきているご令嬢でもあるのだ。国賓である彼女をどう扱えばいいかわからず……。結局誰も深入り出来ずに今に至ると言う。

 普通に考えて、他国の令嬢が危険な目に遭えばそれだけで問題になると思うけど、彼女の場合、力量的にその心配はされていないらしい。そういう意味ではシラユキちゃんと一緒ね!


 そんなテトラちゃんは、シラユキちゃんに惚れてない人物でもあるのだ。


「そう言う意味なら、あの王子のどっちかでも良かったんじゃない?」

「男を抱えて走りたくはないわ」

「わかる。てか、やっぱり抱えられるんだ? なら余計に、貴女のファンの子達に嫉妬されそう」

「それはごめんね。けど、テトラちゃんも実際気になってるからついて来てくれたんでしょ?」

「ま、ね。……とりあえず私が選ばれた理由は納得したわ。それで、何をすれば良いの? こうしてお喋りしているだけで、時間は進んでいるけど」

「簡単よ。わたしがダンジョンをクリアするから、どんな感じだったかの感想を皆に言ってくれれば良いわ。テトラちゃんなら虚飾なく語ってくれると思うし」

「それくらいなら」

「じゃあ今から準備するから、その間お喋りしましょ。テトラちゃんとは普段お話ししないし」

「いいよ。私も貴女に興味があったし」


 テトラちゃんに防御用の魔法を掛けていく。

 魔法と言っても、この世界にあるのは攻撃用の魔法だけじゃない。自分や他人を強化したりするバフ魔法。相手を弱体化させるデバフ魔法だってある。まあこの学園が主要としているのは攻撃魔法だから、そんなに日の目は浴びていないみたいだけど。


「昨日の戦い、見たよ。凄かった」

「ありがとっ」

「最後の人も強かったね」

「そうね。あのクラスの腕前を持つ人間は珍しいわね」

「うん。パパと同じくらい強い男の人なんて初めて見た」


 テトラちゃんのお父さんか。あの人もこの世界基準で言えば強者の部類よね。


「あの人ならパパも認めてくれそうだけど、彼は玉の輿には興味なさそう」

「そうねー」

「でもシラユキちゃんはもっと凄かった。見ているだけだったのに、凄く滾った」

「ふふ。楽しんでくれて何よりよ」


 よし、防塵と防刃、耐衝撃の魔法はセット完了。あとは呼吸用に、空気の操作魔法をっと。


「シラユキちゃんが男の子だったらな。私も婚約候補に名乗り出たのに」

「おろ?」


 もしかして表に出さないだけで、割と好感度高い!?


「彼女達は未来に繋ぐための血筋や力よりも、愛情を優先した。それは素晴らしいことだし憧れもあるよ。けど……私には真似出来ない。結局、子を成せなければ意味がないもの」

「テトラちゃんの国は、同性婚が認められていないんだったっけ?」

「ええ。でも、反対派も少ないのよ。どんなに個の力が大きくなっても、力の継承が出来なければ1代限り。それでは国は強くならないもの」


 遺伝システムかぁ。


「そういう意味では、この国は寛大ね。……シラユキちゃんはこの国の人じゃないからハッキリ言っちゃうけど、優先する対象を誤ったせいでこの国の国力は非常に低い。他国と戦争が起きていないのも、魔法という目に見えない力を恐れてるだけで、舐められていると思うなー」


 確かにこの国は、戦闘能力を数値として算出すれば割と低めにある。魔法を主軸にしているとはいえ、魔法はあのザマだし。魔法に関しては他所も似たようなものだけど、強い前衛職のNPCは他国にも沢山いる。まぁミカちゃんクラスとなると数えるほどだけど……。

 それでもマシなレベルの人達が他国に多いのは、きっと遺伝システムが正常に機能しているせいなんでしょうね。逆にこの国は、遺伝システムの恩恵にあまりあやかれていない。その理由は同性婚を認めているのと、複数の妻を娶る人が少ないせいらしいわ。歴史の授業で習ったもの。

 ソフィーのお父さんであるダンディーな公爵様も、亡くなった奥様に操を立てているから、これ以上の子は望めないし男児もいないから後継の問題も起きている。そんな家が、公爵家だけでなくて国のあちこちで起きているんだとか。

 結局のところ、複数の妻を娶る事を推奨しているとは言え、絶対遵守まではしていないのがこの国の甘いところなのかもしれないわね。


 それが原因で国力が落ちているのは事実だけれど、戦争が起きない理由もそれかと言われると、少し違うように思う。だって、この国を囲うように広がっている国々は、戦争をしてまで奪うような飢えを感じていないんだもの。というかどの国も自国にダンジョンを抱えているから、余計な戦力を注ぎ込む余地がないとも言うわね。


 それよりも外には、困った国があるにはあるけども。


 というか逆に、我が物顔で女の子に乱暴して手篭めにしようと画策してるお馬鹿連中の方が、国を強くしていくには必要なのかもしれないわね。

 けど、そんなの間違ってる。認めたくないし、認められないわ。


 さて、そんな事を考えている間に準備完了!

 空気の流れを操作する魔法を構築っと。


「でもそれも、今代だけはその限りではなさそうね」

「うん?」

「だってシラユキちゃんがいるもの」

「あー……。私、この国で軍人になるつもりはないわよ」

「そうなんだ?」

「でも直接戦わない代わりに、この国にいる人たち全員を強くするつもりではあるわ。衛兵や騎士、一般人に至るまでね。ダンジョンに入っているのもその下準備だし。魔法は私ほどではないにしろ、誰にでも使えるようにしたいし、武器や防具なんかの生産に関してもそう。もっと高ランクの物を一般的に作れるようにしていくわ。ああ、今から楽しみ」

「……それって、シラユキちゃんが軍を率いるよりヤバそうね。でもいいの? 私にそんなことを教えて」

「別に困らないけど」


 別に強くするのは、この国だけに止めるつもりはないし。


「ふうん? つくづく不思議な人だね、シラユキちゃんって」

「それってつまり、カワイイって事?」

「うんうん、可愛いと思うよ」

「えへー」


 テトラちゃんは棒読みでそう言った。けど、その言葉に嘘の感情は含まれていなかった。

 それがまた嬉しくて、つい顔が緩んじゃう。なのでつい、テトラちゃんを抱きしめる勢いで抱え上げた。


 お姫様抱っこで。


「……もしかして、この格好で運ばれるの?」

「うん」

「いや、普通、背負うとかじゃない? 両手塞がると危ないと思うけど」

「大丈夫よ、出てくるのは雑魚だけだもん。それじゃ、しっかり掴まっててね、ゴールまで走り抜けるから!」

「うわっ!?」


 砂埃を残して、その場から2人の姿が掻き消えた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 !?


 い、今すれ違ったのってゴブリン、だよね!? 私も一瞬しか見えなかったけど、相手も私たちが速すぎてこちらの存在に気づけてなかったみたい!

 次にすれ違ったコボルトは私達の残り香でキョロキョロしてるし、飛び越えられたウルフの群れは、中途半端に見えている分目を回しているし、スライムは速度が違いすぎて動けているかさえ分からない。


 すごい。

 本当に私達、文字通り全てを置き去りにしてボス部屋にまで辿り着いちゃった。走り出してから、本当に1分も掛かっていなくない?


 その上何処か、シラユキちゃんの走り方にはまだ余力を残している様にも見えた。走っている間、風を切る音がビュンビュン吹き荒れる中、その風も私までは届いていなかったし、これも魔法? 

 抱える私に気遣ってこの速度が出せるなんて。本当に桁外れなのね。

 そう思っていると、彼女は唇を尖らせながら悪態を吐き始めた。


「むー。この扉がネックなのよねぇ。どんなに急いできても、この扉が開くのに10秒近く持っていかれちゃうんだもの」

「そんな事を気にしているのはシラユキちゃんくらいだと思う。普通はこの時間を使って、息を整えたり最終チェックをする物だから」

「そんなの、扉が開いてからでも出来るわよ。こいつら近付くまで動かないじゃない」

「……確かにそうだね」


 そうして現れたのはハイ・ゴブリン。

 ここのボスは出現するボスもランダムだけど、ゴブリンに関しては更にランダムで出てくる連中が変わる。

 その中でも一際強い個体だけど……シラユキちゃんの障害にすらなれないでしょうね。


「それで、この格好のまま戦う気? あ、もしくは魔法で倒しちゃうとか」

「何でも倒せるけど、今回はタイムアタックと同じ要領で倒すわ。ちゃんと見ててね!」


 そう言ってシラユキちゃんは、瞬く間にゴブリンに近付き、相手が構える前に蹴りを繰り出した。あまりの勢いに、ハイ・ゴブリンの首が消し飛ぶ。

 気の弱い子なら卒倒しかねない場面だったけど、ハイ・ゴブリンは迷宮の魔物らしく塵になって消えていき、代わりに宝箱と出口の魔法陣が出現した。


「はい、これにてシラユキちゃんの速度体験コースは終了ー! どうだったかな?」

「楽しかった。これを商売にしても、余裕でお金が取れそうなくらい」

「そんなに? ……でも、他の子達には悪いけど、あんまり時間は取れそうにないなぁ。やることいっぱいあるもん」


 シラユキちゃんは慣れた手付き……いや。足捌きで宝箱を蹴り開け、中身をマジックバッグに放り込む


「そう、残念だね」


 そうして、私達の10分にも満たないダンジョン攻略が幕を閉じた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「8分か。お喋りしてたしこんなもんよね」

「それでも十分速いよ。それじゃあね、シラユキちゃん」

「うん、またねー」


 テトラちゃんはてくてくとクラスの子達がいる所へと歩いて行く。

 なんだか、クラスメイトだけじゃなくて観客が増えてるわね。

 2年生も3年生も、騎士科や調合学科や教師達まで。多様な人たちで溢れかえってるわ。


 まあ、陛下達の記録が塗り替えられたんだし、観客が集まるのも当然か。


 うんうんと頷いているうちに、テトラちゃんは待ち構えていたクラスメイト達に飲み込まれていた。

 「ちゃんと走ってた」「入口でのお喋りに7分」と言ったテトラちゃんの感想に皆が反応しているのが見て取れた。

 そして誰かが、どうやって連れて行ってもらったのかとの問いに、テトラちゃんはドヤ顔ダブルピースで「お姫様抱っこ」と答えて皆それぞれが楽しげな反応をしていた。んふふ、皆カワイイわね。


「シ、シラユキ」

「わかってる。ソフィーにもしてあげるから」

「う、うん……」

「それじゃ、タイムアタックが控えてるしアリシアから行ってみよっか」

「いえ、私とお母様は先にタイムアタックを済ませてこようかと思います。それくらい余裕があるようですし」

「そう? じゃあ行ってらっしゃい」

「はい、行って参ります」

「ママも頑張って!」

「うん、ママ頑張るわね」


 アリシアとママを、応援するためにも思いっきり抱きしめると、2人も抱きしめ返してくれる。


「シラユキちゃん、もう1度確認だけど、アイテムは無視していいのね」

「うん。なんなら雑魚も無視出来るならして良いよ。なんて言ったってタイムアタックだもん」

「分かったわ」


 そしてアリシア、ママの順でダンジョンに入るのを見送り、ソフィーと2人でダンジョンに入った。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 結論から言うと、ソフィーとは昨晩するはずだった分を取り返すかのように終始イチャイチャして、2人っきりの時間を堪能した。

 ソフィーって、誰も見ていないと積極的になるのね。

 シラユキちゃん覚えた!


 えへへ、今度2人でデートする約束もしちゃった。

 2人で手を繋ぎながら出るとアリシアが待ち構えていた。


 アリシアの記録は4分29秒。少しウルフ地帯で手こずったくらいで、あとは全部無視して駆け抜けられたみたいね。


「長大な道を駆け抜けるのは、思っていた以上に気持ちがよかったです」


 アリシアが嬉しそうで何より。


 そして次はアリスちゃんをと思ったけど、アリスちゃん曰くアリシアを先にとのことだったので、アリシアと入ることに。

 アリシアは私にお姫様抱っこされている現実が恥ずかしいらしく、終始顔を真っ赤にさせていたけど、俯いたりせずちゃんと周りを見ながら自分との動きの違いを堪能していたわ。私も運びながらの走破は3回目だから、アリシアに負担をかけることなく動けたと思う。


 そうしてダンジョンを出ると、今度はママが待っていてくれた。

 どうやら記録も良かったらしく、11分31秒だったとか。ママは、シラユキちゃん印の一級品装備があるとは言え、アリシアと比べればステータスはかなり低い。そんな中でもこのタイムで走り切ったんだから、素直にすごいと思うわ。

 ママも相当嬉しかったのか、顔が緩みっぱなしで可愛いわ。でも何か走破した感想以上に嬉しい事があったような顔ね。宝箱から何か出たのかしら?


 まあそれは後で聞くとして、ママが出て来た時は観客達も沸いたらしい。

 シラユキちゃんやアリシアという、見た目からでもわかる強くてカワイイ子じゃなくて、見た感じ弱そうな、小ちゃくてカワイイママがこのタイムを叩き出したことが原因だろう。

 これでママも凄いってことを認知出来たでしょうね。ふふん!


 あ、そうだ。まだ興奮冷めやらぬ彼らには、一応言っておかないといけないわね。


「皆、1つ気をつけて欲しいことがあるわ。私やアリシアだけでなく、こーんなにカワイイママが達成出来たことで、もしかしたら自分でも。なんて思っちゃう子が居ないとも限らないからね。ここにいる3人は外で魔物との単独戦闘をこなした経験があるわ。だから敵の攻撃を避け、追撃を避けつつ前へと走れたの。そして危ないと判断すれば駆け抜けたりせず倒したりしてね。だからそうね、ウルフが最大の5体出てきても戦えると思う人以外は、このレギュレーションでの挑戦はしないように!」

「そうね、ウルフは一度に相手にすると危険だものね」

「ちなみにママ、今回ウルフは最大何体出てきた?」

「何回か出てきたけど、5体出てきた事もあったわ。けど、1度の攻撃で全て倒せると楽しいわね」


 気楽にそう言ってのけるママに、観客達が息を呑んでいた。

 ママには、弓で使える扇状に広がる範囲攻撃の技を教えてある。前方に敵が湧くダンジョンにはうってつけの技だろう。


「という訳で、これくらい出来ないと挑戦するだけ無謀ということだから気を付けてね。どうしてもというなら先生に許可をもらうこと。……学園長先生、そういう事で周知しておいてください」

「ほっほ、分かりました。すぐさま伝達しましょう」


 いつのまにか、教師達の中に学園長先生までもが観客に加わっていたので要件を伝えておく。うん、これで危険はないでしょ。


「それじゃ、最後にアリスちゃん行こっか」

「……いえ、私ではなくリーリエ母様にお譲りしたいです」

「アリスちゃん?」

「リーリエ母様、初めてのダンジョンにたった1人で挑まれるなんて、不安もあったと思います。シラユキ姉様が大丈夫と伝えても凄い挑戦だった事には変わりません。なので、リーリエ母様には頑張ったご褒美をあげた方がいいと思うんです。それに、私はいつでも行けますし、それに今日は……私の番ですから」


 そう言ってアリスちゃんは真っ赤になりながら縮こまった。

 もしかして、今晩のことを言ってる? んもう、カワイイわねっ!!


 どうやらアリスちゃんは権利をママに譲りたいらしいし、確かに頑張ったママに何もお返し出来ないのは辛いわね。残り時間的にも1人分しか余裕がないけど、こんなカワイイ事を言われて断るはずないじゃない。

 出来れば2人同時に……と行きたい所だけど、いくら2人の身体が小ちゃくても2人同時は物理的に無理ね。シラユキちゃんも女の子だもん。体格的に、ね。

 お膝に2人同時に乗せるくらいはなんとか出来なくもないけど、抱えて移動するとなると……。おぶったとしても、負担をかける事にはなるだろうし、快適に体験してもらえなきゃ意味がないわ。


 ここは涙を飲んで、ママだけを連れて行きましょ。


「アリスちゃんの気持ち、受け取ったわ。それじゃママ、行きましょ」

「ええ。アリスちゃん、ありがとう」

「はい、行ってらっしゃいませ!」


『アリスちゃんは良い子ね!』

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