第363話 流石です!!

「ちぃっ! くそっ! またしても取り逃すなんて……」


 まだまだ全力じゃなかったのに! ヴィスデロビアに鼻血を出させてないのにっ!!


「ルーミエル……我が儘を言っている幼子にしか見えんぞ?」


「えっ?」


 た、確かにこの何とも言えない気持ちを消化するために地面を蹴り付けて地団駄を踏んでましたけど……

 地面が割れない様に手加減もしてましたし、我が儘を言ってる子供っぽく見えるなんて事は無い! ハズです……多分、きっと……


「くっ、撫で回したい……!!」


「自信がなくて翼も一緒にしょんぼりと俯いて……抱き締めたい……」


「うん、大丈夫です。

 僕はかっこよくて立派な先生! 子供っぽく見えるハズがありません!

 ネルヴィア様の思い違いですね、そうに違いありません」


 よ、よし、取り敢えず落ち着くのです!

 何故か左右からネルヴィア様と、いつの間にか現れたメルヴィーに撫でられてますけど……今は冷静になる事が優先です!!

 ひっひっふぅ、ひっひっふぅ……


「えっと……うん、これはカオスだね」


「あっ、フォルクレス! ちゃんとやるべき事をやりましたか?」


「えっ、そ、それはね? あはは……そんな事より、これはどう言う状況なのかな?」


 あからさまに話題を逸らそうとしてますね……まぁ、良いです。

 詳細は後でコレールに聞くとしましょう。


「実はですね……またしても……またしてもヴィスデロビアに逃げられたのです!!

 むぅ! 次こそはあの気障な笑みを浮かべた顔を鼻血が出るまで殴ってやります!!」


「そ、そうなんだ。

 それで……ネルヴィア様とメルヴィー君は何をしてるのかな?」


「見て分からんのか? ルーミエルを愛でておるのじゃ」


「僭越ながら落ち込まれていらっしゃるお嬢様を慰めて差し上げようかと」


「ははは、そう……」


「ルーミエル様っ!!」


 フォルクレスの声を遮って姿を現す、吸血鬼の始祖にして金髪の美女。


「オルグイユ!」


「あぁ! ルーミエル様! ご無事でなりよりですっ!!

 はっ!? お怪我は! お怪我はありませんか!?」


「大丈夫です!

 ただ……まだ鼻血を出させて無いのに、ヴィスデロビアに逃げられてしまいました……」


「っ!! あぁ……そんなに悲しまないで下さい。

 あの程度の者なんて、いつでも始末できるではありませんか!」


「いつでもってね……」


「何か?」


「あ、あはは……いえ、何でもありません」


 おぉ、笑って誤魔化そうとしたフォルクレスがオルグイユの視線の前に屈服した!!

 僕もこの凄い眼力を見習わなければ!


「エルっ!」


 この声はっ……!


「フェル!」


「吾、頑張った。

 敵の、魔皇神? とか言うやつ、倒した」


 こ、これは!!

 つるぺたな胸を張って、誇らしげにVサインを決めるフェル……


「フェル、偉いです! 流石です!!」


「ん! 当然!」


 もう一杯ナデナデしちゃいます!


「フェル様と一緒に戯れるお嬢様……尊いっ!!」


「確かに、確かにメルヴィーの言う通りだけど……私もお嬢様に撫でてもらいたい!!」


「はぁ……やっぱり、こうなったか」


「まぁ、いつもの事だしな」


 何やら恍惚とした表情で呟いているメルヴィーとオルグイユを見てフォルクレスがため息をついていますが……そんな事よりも!


「リュグズール!」


「よっ! お嬢、怪我はねぇか?」


「ありませんよ?」


 むぅ、何故皆んなしてそんなに僕が怪我をしているか聞いてくるのでしょうか?


「それで……」


 何でクロエさんがリュグズールの後ろに隠れる様にして、チラチラとこっちを見て来ているのでしょうか?


「ん? あぁ、敵に逃げられてな。

 お嬢に合わせる顔がないって、隠れてんだよ」


 な、なるほど。

 でもそれを言うと、僕なんて魔皇神どころか敵の首魁であるヴィスデロビアに逃げられたんですけど……むぅ、一体どうすれば……


「何も気にする必要はありません!

 だって僕なんて、首魁であるヴィスデロビアに逃げられましたし……」


「っ! ルーミエルはよく頑張った。

 もしルーミエルを責める奴がいれば、私が凍らせる」


 な、何故かわかりませんが、元気が出た様ですね。


「ほ、程々にお願いします?」


 フェルと一緒になって燃やすとか、凍らせるとか物騒な事を言ってますけど……まぁ元気になったからよしとしましょう!!


「お嬢様、よろしいでしょうか?」


「コレール! はい、報告をお願いします」


「かしこまりました。

 つきましては、各々の情報を統制するために会議の場をご用意しております」


 パチン、とコレールが指を鳴らすと同時に神秘的かつ重厚感ある転移門が現れる。

 もう既に会議までセッティング済とは……さすコレですっ!!

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