第262話 合格発表ですねっ!

「お……さい。

 お嬢……きて……い」


 んぅ……何やら遠くで声が聞こえますね。

 でも今の心地良さに比べたらさほど気にもなりませんし……ふふ、この心地良さに身を任せるとしましょう。


「お嬢様、起きて下さい!」


「むふぁあ〜」


 あれ? さっきまで草原で日向ぼっこしていたはずなのに。

 何故メルヴィーにノアとシアが目の前に?


 あっ! そうか、分かりました!

 日向ぼっこのあまりの心地良さに、寝落ちしてしまったのです。

 つまり! これは夢っ!!


「おやしゅみですぅ〜」


 夢の中でも微睡んで眠りにつけるなんて! なんて素晴らしい夢なのでしょうか!!

 ふっふっふ、夢の中ですらゴロゴロしちゃうと、夜にスイーツを食べる時と同様の罪悪感を感じますね。

 まぁ当然、堪能させて頂きますけどねっ!!


「ね、寝ぼけていらっしゃるお嬢様……はぁ、はぁ」


「メルヴィー様っ!?」


「シア、私はもうダメかも知れません」


「落ち着いて下さい!」


「メルヴィ様、分かります!

 もうキュンキュンが止まりませんっ!!」


「お姉様までっ!?

 もう! お2人ともしっかりして下さい!!」


「むぅ〜、騒がしいですぅ……」


 せっかく夢の中で微睡んでいたのに、これは一体どう言う了見でしょうか?

 恐らくは現実世界で、またフォルクレスが邪魔しているのでしょう。


 エネトスさんにお酒のコレクションを没収され。

 メルヴィーの報告で入試での所業が伝えられ。

 僕を泣かせた罰でのお仕置きが更に大幅に強化されて執行されたとは言え、こんな仕打ちはあんまりですっ!!


「お嬢様! お2人を何とかして下さい!」


「やだ! 夢の中でも寝るんですっ!!」


「「ぐはぁっ!?」」


 布団に潜るとぬくぬくです!

 外で何やら騒いでますけど……夢ですし、心配する必要もないでしょう。

 さぁ、夢の中で寝ると言う、まだ知らぬ扉の先へ!


「お2人とも! お嬢様が天使の如く可愛いのは当然の事じゃないですか!

 しかし、ここは心を鬼にして寝ぼけていらっしゃるお嬢様を起こさなければならないんです!

 しっかりして下さい! お嬢様にだらし無いと思われますよっ!!」


 あっ、静かになった。

 ふむふむ、程よい睡魔に身を任せる……素晴らしきかな!


「コホン、起きて下さい。

 もう朝ですよ、お嬢様」


「では私とシアはお嬢様の朝支度の用意を」


「2人とも頼みましたよ、お嬢様は私に任せて下さい。

 お嬢様、朝ですよ、起きて下さい!」


「むぅ〜、やです!」


 夢の中で寝ると言う未知の領域に挑戦するのです!

 フォルクレスの邪魔になんて絶対に負けません!

 必殺、布団フィルターですっ! ふっ、これで僕の挑戦を阻む者は誰もいな……


「では、失礼します……」


 バサァッという音と共に唐突に到来する、想像を絶する光と肌寒さ。

 こ、これはまさかっ! 嫌です! そんなの絶対に認めませんっ!!


「うぅ〜」


「くっ……そんな恋しげに手を伸ばしてもダメです。

 起きて下さい、お嬢様」


 布団がっ! 布団がぁっ!!

 焼けるぅ……窓から差し込む日光に焼かれてしまうっ!


「ぼ、僕は屈しませんよっ!」


 くっ、この程度の妨害でフォルクレスになんて負けません!

 絶対に新しい未知の領域に挑戦するのです!


「全く、寝ぼけていらっしゃるお嬢様も危うく天に召される程に愛らしいですが。

 流石にそろそろ心配なので起きて下さい」


 無慈悲にも布団を剥ぎ取られて、ベッドの上で丸まる僕の抵抗虚しく。

 ヒョイっと僕を抱き上げたメルヴィーと視線が合う。


「僕は外でお昼寝していて、ここは夢の中ですよ?

 夢の中で寝ぼけていても、実際には寝ているので寝ぼけてはいないのです!」


 どうですか、この完璧な理論武装は!

 ふっふっふ! 僕を論破出来るならやってみるが良いっ!!


「まぁ! お嬢様、ここは夢の中ではありません。

 お嬢様が外でお昼寝と言う方が夢で、お嬢様は現在寝起きで寝ぼけていらっしゃるのです」


 ギュッとメルヴィーに抱きしめられ、耳元で告げられる衝撃の言葉。

 い、いや、これはフォルクレスの策略ですね!

 だってここが夢じゃないのなら、痛覚無効を解除して抓ったら痛いのだから……


「痛い……」


 うっとりとした眼差しで微笑むメルヴィー、ノア、シアの3人。

 急速に意識が明快になって……


「あ、あの……おはようございます……」


 は、恥ずかしいぃ!

 まさか本当に寝ぼけてしまっていたなんてっ! うぅ、顔が熱いです。


「「「おはようございます、お嬢様」」」


 3人の眼差しから逃げる様に目を瞑っていると、朝の挨拶と共にメルヴィーに頭を撫でられる。

 不思議ですね、メルヴィーもですけど。

 眷属家族である皆んなに撫でられると非常に安心して落ち着きます。


「お嬢様、お茶をどうぞ」


 ノアに差し出されたお茶を飲んで一息。

 うん、これで落ち着きました。


「では朝支度をさせて頂きますね」


 メルヴィーがそう言うや否や、鮮やかに寝巻きのネグリジェを脱がされ。

 動きやすく着心地の良いワンピースを着せられて、髪も梳かされる。


 この間、僅か数分。

 僕が返事をする間も無く展開される早業! まさに匠の業です!!


「さぁ参りましょう。

 皆様、リビングでお待ちです」


「ん? 何かあったのですか?」


「はい。

 統一神界学園からお嬢様宛に書類が届きました」


 入試から帰ってきて怠惰に過ごす事、1週間。

 遂に、入試の合格発表ですねっ!

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