第248話 その条件を呑みましょう!

 狂った様に絶叫し、肩で息をする神王ネルヴィア様。

 うん、滅多に見れる光景じゃありませんね、多分。

 レアな光景を見る事ができてラッキー! 何か得した気分です!!


「フォルクレス殿! アフィリス達もじゃ! 主ら知っていて、わざと黙っておったな!?」


「言いがかりです、神王ネルヴィア様。

 我々アニクスの神一同は、ルーちゃんについての報告をフォルクレス先輩に一任しておりました。

 全てはフォルクレス先輩の怠慢による物です!」


 うっわ、全部の罪をフォルクレスに擦りつけるとは!

 アフィリス、存外やりますね。

 まぁ、あの顔を見るに、いつも揶揄われている仕返しと言った所でしょうけど。


「まぁまぁ、そんなに怒らないで。

 素敵なサプライズだったでしょう?」


「……エネトス」


 イラつきを堪えた様な笑みで青筋を浮かべたネルヴィア様が、ポツリと呟く。

 これは、かなり怒ってますね。


「承知いたしました。

 ルーミエル嬢、先程言っていたフォルクレス殿のお酒の秘蔵コレクションの事を詳しく教えて頂けますか?」


「え? はい、別に構いませんけど」


「ちょっ! ルーミエル君っ!?」


 とは言え、口で説明するのは面倒ですね。

 結構巧妙に隠されてますし……魔水晶を使った情報媒体を渡すとしましょう。


「どうぞ、これの中に詳しい情報が入ってます」


「ありがとうございます。

 この埋め合わせは後日、必ずさせて頂きますね」


 おぉ〜、イケメンだ!

 エネトスさんは神々の中でも、さぞかし女神達にモテモテでしょうね。


「ルーミエル君っー!!」


「……フッ」


 悲壮な顔で、悲壮な叫びを上げるフォルクレス。

 鼻で笑ってやったら、綺麗に膝から崩れ落ちましたね……ここまで悲しむとは。


 拉致られた事に対するちょっとした意趣返しだったのですが。

 う〜ん、仕方ありませんね、後で差し入れでもプレゼントするとしましょう。


「では、僕の力量も証明できたので、帰るとしましょう……はい、到着です」


 指を鳴らすと、次の瞬間には統一神城の謁見の間。

 ふっふっふ! 決まりました! これはかなりカッコいい!!


「お嬢様、お疲れ様です」


「ありがとうございます!」


 出しっぱなしだったお気に入りのクッションに腰かけると同時に、差し出されるメルヴィー特製のココア。

 ココアには疲労回復の効果もあるらしいですし、流石はメルヴィー、気が利きますね。


「ふぅ〜、しかし……一体何の騒ぎですか?」


 謁見の間に戻って来てみれば、沢山の人で一杯。

 衛兵さんに、騎士みたいな人、何か貴族っぽい人も居ますね。


「主が原因じゃ!」


「えっ?」


 嘘でしょう?

 僕何かやらかしましたっけ……う〜ん、全く思い当たる節がありません。


「とは言え、何を壊しても大丈夫と言ったのは妾だからな。

 主が責任を……感じとらんか……はぁ、全く」


 まぁ、取り敢えずは怒られる事は無さそうなので、オーケーですね。


「皆、騒がせて悪かったな。

 下がってくれ」


 ネルヴィア様の言葉に答えると、謁見の間にいた人々が一斉にこの場から消え去る。

 転移ですか、流石は神ですね。


「さてと、ネルヴィア様。

 僕の……僕達の力量を認めて頂けたのなら、統一神界学園の話、無かった事に出来ませんか?」


「ふむ……ルーミエルは何故、妾達に神能を見せてまで学園に行くのを嫌がるのだ?」


 僕の一挙一動を見逃さまいとする鋭い視線。

 流石は神々を統べる神王ですね、一筋縄ではいきませんか。


「ふ〜、仕方ありませんね。

 こうなったら腹を割って話しましょう。

 何故、統一神界学園に行きたくないのか……それは、ぶっちゃけ面倒だからです!!」


「……それだけか?」


 逆にこれ以外にどの様な理由が必要なんでしょうか?

 行く必要があるならまだしも、僕が学園に行っても時間の無駄ですからね。


「ルーミエル君は、怠惰だからね」


「ふふん!」


 その通り! 怠惰……最高の褒め言葉です!!


「しかしなぁ……ルーミエルには学園に通って正式に神として登録をして欲しいのだが……」


「登録するのは構いませんよ。

 学園に行かずに登録だけって出来ないんですか?」


 我ながらナイスアイデアです!

 これなら何の問題も無く、双方の条件もクリアです!


「昔は可能じゃったのだが。

 ヴィスデロビアの一件以降、不用意な登録は危険と言う意見が出てな。

 今は学園を卒業しないと神として登録は出来んのだ」


 くっ、ここに来てもヴィスデロビアが邪魔をしますか。

 ヴィスデロビア、許すまじ!


「どうしたものか……」


「それなら私にいい案がありますよ。

 ネルヴィア様、少し耳を……」


 困った様子で呟くネルヴィア様に、フォルクレスが何やら耳打ちをする。

 当然、内容は遮断されて聞けませんか。


「本当に、そんな手でいけるのか?」


「間違いありませんよ。

 ルーミエル君の嗜好は熟知していますので」


 先程、エネトスさんに秘蔵コレクションのデータを渡した事への報復ですか。

 しかし、所詮はチョロ神ことフォルクレスの入れ知恵! 僕には通用しない!!


「ではルーミエルよ、交渉じゃ」


 交渉ですか……良いでしょう! 受けてたってやります!!


「主が学園に通うのなら特待生は確実。

 必要最低限の行事等な出席せねばならんが、授業等も免除が可能になる」


 なる程、学園に籍だけ置いてくれと言う事ですか。

 とは言え、その必要最低限の行事と言うのがネックですね。


「そして……主が学園に通うのならば、この統一神界にある全スイーツ店のVIPカードをやろう」


「なっ!? そ、それはどう言う……!」


「当然、料金はこちらが持つので無料!

 更には、予約困難な超人気店でも最優先で予約が取れる特別特権付きじゃっ!!」


「ほ、本当ですかっ!?

 くっ、しかし……この程度の賄賂に屈するわけには……」


「手強いな。

 ならば! 全スイーツ店では無く、全ての飲食店の特権をくれてやろう!!」


「ぐぅっ!」


 ま、まさかこれ程、恐ろしい奥の手を隠し持っていたとは!

 でも、公正公平である僕が、賄賂に屈する訳には……


「し、仕方ありませんね。

 皆んなと一緒に来て良くて、自由にアニクスと行き来できるなら、その条件を呑みましょう!」

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