第216話 悲痛な叫びです……

「お帰りなさいませ、お嬢様」


「ただ今戻りました!」


 どうやら座標のズレも無かった様で、一安心です。

 演算はしていましたが、結果を見るまで不安は拭えないですからね。


「それにしても……」


 礼を以って、出迎えてくれたコレール達。

 そんな皆んなの前には、何故か戦場には似つかわしく無いソファーとテーブルのティーセット。


「これは、どう言う状況ですか?」


 このあまりの光景に、リーリスとハスルートも唖然としちゃってますよ!


「お嬢様、こちらにケーキをご用意致しました」


「えっ! 食べます、食べますっ!!」


 ふんっ! 何が戦場には似つかわしく無いですか。

 ケーキは正義、美味しいは正義なのですっ!!

 メルヴィーも止めない様ですし、腹が減っては何とやらと言いますし……決定ですね!


 何処ぞの戦国武将達風に言えば、例え戦場だろうが、目の前に敵がいようが、神を脅そうが。

 そこにケーキがあるのなら、食べて見せようケーキさんっ!!


「では、お嬢様は私の膝の上に」


「あれ? そう言えば、オルグイユは……何やってるんですかアレ?」


 ソファーに居ないと思ったら、何故か四つん這いに……

 周囲の地面が陥没してクレーターみたいになってますし、一体どうしたのでしょうか?


「お気遣い無く、いつもの……」


「ルーミエル様っ!!」


 コレールの言葉を遮って声を上げたオルグイユが、瞬時に僕の前に現れる。

 そして縋り付く様にメルヴィーの膝に座る僕に抱きつき……


「ルーミエル様のお声がっ! それに匂いもっ!!

 ぐふふ、ルーミエル様ぁぁ〜」


 こ、怖いですね。

 流石にこれはちょっと狂気を感じます。

 まぁでも、怪我も無さそうですし、全員無事そうで安心です!


「よしよし、心配をかけました」


 幼女に縋り付き、慰める様に頭を撫でられる美女……シュールです。

 いつもは凛々しくて、カッコいいのに……


「お嬢様、どうぞ」


「メルヴィー様のお茶には劣りますが……」


 スッとテーブルに置かれたケーキとお茶。

 流石は、仕事が早い。


「ありがとうございます!

 ノアとシアが入れてくれたお茶も僕は好きですよ!」


「「ありがとうございます」」


 息ピッタリ、流石は双子ですね。


「エル、吾が食べさせて、あげる」


 僕の……正確にはメルヴィーの隣に移動し、フェルがフォークで掬って差し出すケーキを、遠慮無く一口。


「美味しい!!」


 やっぱり、リーリスの世界で食べたケーキよりも数段美味しいですね。

 流石は我がリーヴ商会が誇る一品です。


「それでお嬢、どんな場所だったんだ?」


「私も、興味あります」


 おぉっ! リュグズールにアヴァリス、よくぞ聞いてくれました!!


「実はですね……」


「貴方達、常識を知らないの!?

 私を嘗めるのも、いい加減にしろって言ってるのよっ!!」


「何ですか、煩いですね。

 人の話を遮るなんて、常識がなってないんじゃ無いでしょうか?

 突然叫ぶとかヒステリーですか?

 そんなんだから、お嫁に行けないんですよ」


「なっ!?」


 驚愕に目を見開き、侮辱された事で徐々に顔を赤く染め上げるリーリス。


「うわぁ〜、お嬢が何時に無く毒舌だぜ」


 仕方ありません。

 だって、僕はリーリスに怒っているのですから!

 ノアとシアの仇は僕が討ちます!! 別に死んでませんけど。


「仕方ありません、エンヴィー、グラトニー。

 お嬢様がお菓子をお召し上がりなさっている間、当初の予定通り、貴方達であの2人の相手をしていて下さい」


「「そんなぁっ!!」」


 下された無情なコレールの司令。

 ちゃっかりソファーに座り、ケーキに手を伸ばしていた2人の悲痛な叫びが響き渡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る