第210話 嫌がらせです!!

「6発ですか……意外と持った方ですね」


 視線の先でバラバラになって崩れ去る魔教団本部を守っていた結界。

 光り輝く膜に罅が広がり崩落する、何処か神秘的にすら見える光景。


「迷宮……大神の魔力を利用しているだけはあります。

 なかなかの強度でした」


「今頃、魔教団本部を含め、魔教団の全ての拠点で大混乱でしょう」


 いつになく過激なアヴァリス。

 まぁ、当然ですね。

 ノアとシアの件で最も深い怒りを抱いているのは、アヴァリスでしょうし。


「お嬢様」


 オルグイユが控えめになのは、そんなアヴァリスの心情を理解していから。

 オルグイユだけで無く、他の皆んなも怒りを湛えた苦々しく顔を歪める。


「「皆様……」」


 そんな皆んなを見てノアとシアも泣きそうに顔を歪める。

 いつもとは打って変わった様な重たいく、沈んだ空気が舞い降りる。


 これは良くない傾向ですね。

 な、何とかして皆んなのこの重たい空気を如何にかしなければっ!!

 取り敢えず、ノアとシアから……


 ばふっ


「「えっ?」」


 見事に2人の声が重なりましたね。

 満を持して、勇気を振り絞って2人の尻尾に飛びついた甲斐はありました。


「皆んな暗いですよ?」


「「お嬢様……」」


 確かに油断は禁物ですけど、こんなに暗かったらいつも通りの力が出せません。

 怒りは判断力を破らせる。

 いつも通りが一番です! とは言え……


「ぐへへ……もふもふ、ふわもふー!!」


「「「「……」」」」


 モフモフな尻尾が6本、2人で12本。

 ぐふふ、ここは地上の楽園です!!


「「お嬢様……」」


「はっ!? な、何でもないですよ?」


 こ、これはマズイ! 非常にマズイです!!

 さっきまでの暗い空気は何処へやら、皆んながジト目を向けてきます。


「ぼ、僕はノアとシアのモフモフ尻尾になんて夢中になってませんからね!!」


 ここは一気に捲し立てて誤魔化すしかありませんね。


「だって、今は戦闘中ですし。

 他の場所では他の皆んなも頑張ってますし。

 えっと、油断はダメと言うか……兎に角、僕は真剣です!!」


 ど、どうでしょうか?

 皆んなの様子は……優しげな眼差しで浮かべる微笑み。

 どうやら何とか誤魔化せた様ですね。

 危なかった。もう少しで僕の威厳が地の底まで落ちるところでした。


「ふふん! いつも通りが一番ですからね!!」


「ふふふ、承知致しました」


 メルヴィーに頭を撫でられる。

 威厳を出す為に胸を張っていたのに、これでは少し格好がつきませんが……嫌な気はしませんね。


「じゃあ、嫌がらせを再開するとしましょう!」


 はい、ちゅどーん。

 結界が砕け散った魔教団本部に、7発目の神の杖が降り注ぐ。


 まぁ尤も、この程度では超越者たるリーリスは当然。

 到達者であるハスルートにも何のダメージも与えられ無いでしょう。


 これは2人を誘き出す為のモノであって、嫌がらせでしかありません。

 尤も、一兵卒達にとっては堪ったもんじゃ無いでしょうけど。


 際限なく降り注ぐ神の杖が、魔教団の施設を吹き飛ばし破壊する。

 地面は抉れ、至る所で炎が上がる、その様はまさに地獄絵図。


 リズムよく鳴り響く轟音、しかし……突如として魔教団本部の上空に闇が広がる。

 降り注ぐ神の杖は、音も無く漆黒の闇に飲み込まれて消滅する。


 魔教団本部上空。

 黒い膜の下に浮かぶ2人の影。

 天に片手を翳して漆黒の膜を展開する少年と……


「やっと、出てきましたか」


 ハスルートの隣に浮かぶ妖艶な美女、リーリスは油断の無い鋭い視線で睨み付ける。

 しかし、その額に青筋を浮かべ、こめかみをピクピクと動かしながら……

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