第194話 幼女神の試練 〝決着〟

 到達者。

 それはレベル1000と言う1つの頂き到達し、覚醒した存在。

 到達者は半神、現人神と呼ぶに相応しい存在。


 そんな到達者にも当然、保有するスキルの相性、練度、ステータスと言った個人差は存在する。

 遥か昔に到達者となったハスルートと、つい最近その領域に至った十剣達とでは確かな力の差が存在する……しかし……


「クソッ!!」


 ハスルートは現在、劣勢に立たされていた。

 幾ら力の差が有ろうと、それは個人レベルでの話。

 12人もの到達者を前にして苦戦を強いられるのは当然の成り行きだった。


「潰れろっ!!」


 ハスルートの怒声と共に大量の柱が敵を押し潰さんと凄まじい速度で蠢き飛来する。

 常人でも……英雄と呼ばれるのに様な存在であっても抗う事は許されず、大都市すらも数十秒もあれば更地に変える。

 しかしして、その攻撃は……


「〝虹纏〟雨閃」


 ゆっくりと虚空に向かって振り吹かれたユリウスの一刀。

 それだけでユリウスに迫る幾多もの柱が細切れになって地面に落ちる。


「舞え、天剣」


 身体の前で剣を構えるアスティーナの背後に出現し浮かぶは44本の剣。

 帝国の剣姫は剣と舞い、迫り来る全ての柱を斬り刻む。


「衝破一閃」


 それは神速の抜刀。

 一瞬にして振り抜かれたノッガーの一刀から発せられるは破滅の衝撃。

 その衝撃波はアダマンタイトとオリハルコンの合金すらも粉砕する。


「六剣域」


 四ノ剣・アレンを取り囲む様に地面に刺された六本の刀剣。

 それは彼の領域。

 全方位から迫り来る柱の一つは剣で裂き、一つは蹴りで、拳で粉砕する。


「万化の太刀」


 五ノ剣・エルフィー、彼女のは全ての剣を模倣する。

 一太刀目は細切れに、二太刀目は切り刻み、三太刀目は粉砕する。


「炎剣」


 ネロの一振りは周囲に灼熱の空間を作り出す。

 その圧倒的な熱量に向かい来る合金の柱でさえも沸き立ち溶ける。


「氷剣」


 イヴの一振りは全てを凍てつかせる空間を形成する。

 全ての柱は瞬時に凍りつき、幻想的なオブジェクトと化して動きを止める。


「神速の太刀」


 戦場にあって七ノ剣・フィールは悠々と歩みを進める。

 彼女がその手に携えた剣を鞘に納めると同時に、殺到する全ての柱が崩れ去る。


「鬼剣」


 九ノ剣・エルガー、彼が払うは身の丈程もある巨大な大剣。

 それは圧倒的な暴力。

 一振りで迫り来る柱を打ち砕き、返す刃で再び砕く。


「皆さん必殺技とか羨ましいな……」


 十ノ剣・クレスはそんな事を呟きながら柱を躱して斬り刻み、受け流して斬り飛ばす。

 彼は神童、故に足の運び、身体の使い方、剣の振り方など全てを卒なくこなす。


 ハスルートの攻撃は十剣達には届かない。

 そして、そんな光景を眺める2人もまた……


「フォッホッホ、若い者は元気じゃのぉ」


「えぇ本当に、あの歳であの才覚とは末恐ろしいばかりです」


 そんな世間話でもするかの様な言葉を交わす2人。

 そんな2人にも当然大量の柱が迫り来る。


 大賢者と呼ばれるグラウスはその杖で地面を一度コツンと叩く。

 そして地面に大量に展開される魔法陣。


消滅デリート


 魔法陣から放たれる白き光は迫り来る柱を文字通り、この世から消し去った。


「お見事です。

 では、私も……領域」


 僅かに腰を落とし目を瞑って呟かれるその言葉。

 それと同時に、彼から発せられるは魔力が薄い膜を形成する。


「〝飛剣〟円斬!」


 360度、全ての柱が走り抜ける斬撃によって両断され、地面に崩れ落ちた。


「全員が到達者なんて、ふざけるなよっ!」


 全員に攻撃を防がれたハスルートは癇癪を起こした様に喚きながら、黒い魔力弾を乱射する。


「無駄です。

 確かに一対一であれば貴方に敗北していたでしょう。

 しかし、我々に貴方は決して勝てない」


 飛来する魔弾を弾きながらユリウスは歩みを進める。


「ナイトメアと言う組織は貴方達の想像を遥かに超える組織です。

 何せその構成員の殆どが私達よりも強い到達者なのですから」


「……は?」


「貴方に……貴方達、魔教団に勝ち目は無い」


「貴様、何を馬鹿げた事を……構成員の殆どが到達者?

 そんな事があり得るはずが無いだろっ!!」


「貴方達は負けたのです。

 いや、この戦いが始まる前から既に負けていたのです。

 あのお方達を、ルーミエル様達を敵に回した瞬間に」


「僕達が、この僕が負けた?

 あのお方達? ルーミエル様達? フフ、フハハハッ!!

 僕は到達者だぞ! 僕が貴様ら程度の雑魚に負けるハズがないんだ!!」


 ハスルートは血走った目で狂った様な笑みを浮かべ……自身の腕を自らの心臓に突き立てた。

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