第186話 き、気まずいです!!

「とは言え、魔教団だった貴方達をナイトメアに迎える訳にはいきません。

 ですので正確には僕達の陣営に鞍替えしませんか? ってお誘いです」


 何せナイトメアにはリーナとミーナを筆頭に魔教団に捕われ、モルモットにされていた過去を持つ者もそれなりにいますし。

 それに、彼らにはやって貰いたい事があります。


「貴方達にやって貰いたいのは、アレサレム王国の建て直し。

 知っての通り、アレサレム王国は国王をはじめ多数の魔教団員が失脚ししました。

 また、魔教団で無くとも権力者の腐敗が蔓延している状態です」


 まぁ悲しい事にこれは権力を持った者の宿命とも言えるでしょう。

 貴族が悪いのでは無く、人間と言う生き物は権力を握ると腐敗するものです。


 現代日本の政治家然り。

 地球の人間史で見ても、その昔ギリシアで強勢を誇ったアテネも結局は衆愚政治によって滅びました。


 権力を持ちながら、弱者の事を考える事ができて自分は二の次。

 そんな聖人君主とも言える者なんてほんの一握りだけです。

 ですがそんな社会が間違っているとも思いません。


 権力欲が。

 名声と栄誉が。

 他者よりも上に立ちたいと言う虚栄心が。

 巨万の富を手にしたいと言う欲望が。

 そう言ったものがあるからこそ人間は発展を続けるのですから。


 故に、人々は平等を謳う社会主義や共産主義を否定して破綻を迎え。

 逆に平等を謳いながらもその実、競争を原理とする資本主義は発展を遂げた。


 だかこそ、元魔教団であろうと、敵であろうと相応の仕事をするのであれば相応の報酬を用意しなければなりません。

 力で無理矢理働かせる事も出来ますが、そうすればいつか必ず破綻しますし、そんなブラックは僕の美学に反しますからね。


「まぁ、当然無条件でとは言いません。

 貴方達の身分の保証はしますし、要職に就く事も可能です」


「しかし、我らは捕虜」


「だからなんだと言うのです?

 敵だろうが、魔教団だろうが、仕事に対する報酬はあって然るべきです。

 無論、その実力があるかどうかは貴方達次第ですけど」


「甘いですね。

 我が裏切る可能性も十分に御座いますぞ」


「その時はその時です。

 仮に将来、貴方達が僕に敵対するのであればその時は容赦せずに潰すだけです」


「ならば、すでに敵対している我らを取り込もうとなさるのは何故です?」


「そうですね……まず、今回僕が魔教団を潰すと決めたのは、魔教団が行なっている実験が勘に触ったからです」


「ならば」


「言ったでしょう、僕は心を覗けると。

 貴方達が魔教団の実験には加わっていない事は知っています。

 それに優秀な人材を遊ばせておくのは勿体ないですからね」


 ここまで言っても、ヴァヌスさんの顔は優れない。

 他の2人も難しい顔をしてますし、どうしてでしょうか?

 結構な好条件だと思うのですが……


「貴女様程の御方にそう言って頂けるのは光栄に存じます。

 ですが儂はそのお話、お断りさせて頂きます。

 しかし、この2人は儂の様な老耄とは違い、若く才覚に溢れておりますれば、この2人は……」


「いえ、我らもヴァヌス殿と同じ道を歩ませて頂きたい」


「グレリオル殿の言う通りです、ヴァヌス殿」


「お主ら……」


 僕は一体何を見せられてるんでしょう?

 しかし、優秀な人材である彼らを易々と逃す訳にはいきません!

 ここからが、僕の引き抜きとしての腕の見せ所って訳ですねっ!!


「理由を聞いても?」


「我らは軍の指揮官。

 その我らだけが敵に寝返り、生き残っては死んでいった兵達に顔向け出来ません」


 キリッとした覚悟を決めた顔で断言するヴァヌスさん。

 うん、まぁ……これは僕が悪かったですね。


「あ、あの……覚悟を決めるところ悪いんですけど。

 当然貴方達の率いていた人達は生きてますよ?」


「「「……へ?」」」


「い、いや、生きてると言いますか、生き返らせたと言いますか……

 あっ! 勿論、魔教団の実験や非人道的な行為に手を染めて居なかった人だけですけど」


「「「……」」」


 き、気まずいです!!

 ポカンと口を開けてこっちを見つめないで下さいっ!!


 いや、確かに先に説明しなかった僕も悪いですけど。

 それは名前じゃ無くて軍団長って言ってる時点で察して欲しいかったです。


 だって、さっき言った様に魔教団を潰すのは、彼らの行いが許せなかったからですし。

 魔教団ってだけで一括りにして皆殺し何て、する訳ないじゃないですか!

 ヴァヌスさん達の様な、アレサレム王国や魔教団によって滅亡させられた国の人達だっていますし。


「えっと……それで僕の提案、吞んでくれますか?」

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