第12章 深淵の決戦編

第184話 哀れな同志

「す、凄いですね……」


 正面にある4つの巨大スクリーン。

 そこに映し出されるライブ映像を見て帝国十剣が十ノ剣、神童と呼ばれるクレスが呟く。


 それにしても……凄い、ですか。

 前々からもしや、とは思っていましたが、やはりそうでしたか。


「そうですよねっ!

 皆んな良かったですけど、特にコレールとエンヴィーが素晴らしいです!!」


 〝大海の底へと沈むがいい〟ってエンヴィーの決め台詞!

 あのシーンだけはいつも適当なエンヴィーがカッコ良く見えましたね。

 うん、後でエンヴィーには特大パフェを贈呈してあげるとしましょう。


 そしてコレールのあの演出っ!

 その意味に気付いたヴァヌスも然る事ながら、コレールの動作一つ一つがめちゃくちゃカッコいい!!


 あの視線を向けただけで敵を倒すって、覇○色ですかっ? 海賊王目指してるんですかっ!?

 もう、鳥肌が立ちましたね。

 今度、僕も絶対にやってみたいです!!


「はい!

 グラトニー様や狼獣軍団も凄まじかったですが、お2人は特に……」


 などと瞳をキラキラと輝かせるクレス君。

 確定、ですね……


「ふっ、どうやら合格の様ですね。

 僕は新たな一歩を踏み出した君を歓迎します!」


「え? は、はい、ありがとうございます?」


 神童クレス。

 同じ厨二を背負う同志! ふふふ、後でカッコいいポーズとか教えてあげなければっ!!


「ふふふ、クレスくん。

 ちょっと、お話があるのですが」


「え?」


「此処では皆様の邪魔になります。

 さぁ、こちらへ」


 新たな同志を得て歓喜に震えるルーミエルを他所に、クレスが見る者に恐怖を抱かせる様な微笑みを浮かべる吸血鬼に2人に拘束され、強制連行されて行く……


「ん? どうしたのでしょうか?」


「ごめんなさい、クレス。

 私では貴方を助ける事はでき無いのよ……」


 何故かオルグイユとメルヴィー、それに加えてアヴァリスの3人に拉致られたクレス。

 そんなクレスを哀れむ様に呟くアスティーナ。

 僕が妄想に浸っている間に一体何が?


 はっ!?

 も、もしかして、クレスって重大な持病があったりするのでしょうか?

 同志の危機、黙っている訳にはいきませんっ!!


「うん、多分、我が君が考えてる事は間違ってると思うな」


 そんな事を言いながら姿を現したのは、本日、素晴らしい活躍を見せたエンヴィー。

 しかし……残念ながらMVPは僅差でコレールですね。


「お疲れ様です。

 大丈夫、次もありますよ」


「なんか知ら無いけど、慰められてるんだけど!?

 やめてっ! そんな生暖かい目を向け無いでっ!!」


 まぁ確かに、敗者に同情の目を向けるのも失礼ですね。

 と言うか、こんな事をしている場合じゃありませんっ!

 クレスを……同志を救わなければっ!!


「はい、ちょっと待とうか!」


 背を向けた瞬間、背後からエンヴィーに抱き上げられました。

 いつもはメルヴィーやオルグイユ、アヴァリスにリュグズールと言った女性陣に抱っこされるので、何やら新鮮な感じがしますね。


「でも、急がないと……」


「大丈夫だって。

 多分、我が君が思ってる様な事にはなって無いと思うよ?

 アスティーナさん、クレス君は持病とか持ってたりし無いよね?」


「はい。

 クレスは幼い頃から魔力が高いお陰もあってか、風邪も引いた事が無いくらいです。

 ですので、心配せずとも大丈夫ですよ?」


「ほらね、何も問題ないでしょ?

 それに今、我が君が行っちゃうと逆にヤバイ事態になっちゃうからね」


「ヤバイ事態、ですか?」


 ヤバイ事態とはどう言う事でしょうか?

 エンヴィーとアスティーナは苦笑いを浮かべるだけで答えてくれませんし。

 リュグズールは面白そうに笑ってるだけで、教えてくれないし……


「お嬢様、少しお聞きしたい、事、が……」


 余程急いでいたのか、特別会議室に転移して戻って来たメルヴィーがこっちを見て硬直しました。

 あれ? なんか前にも似た様な事があったような……


「貴様、ついに….」


「ちょっ! 誤解だって!!

 我が君も何か言ってやってよ!」


 何かって言われても……そうだっ!


「エンヴィーが何も問題無いから大丈夫だって」


「ちょっ! 我が君、言い方っ!!」


 む、結構頑張ったのに。

 そもそも、口下手な僕に咄嗟に上手いこと話せる訳がないじゃ無いですかっ!


「違うからねっ! 今のはほんの言葉の綾で!!」


「黙りなさいっ!

 この下種めが! 貴様の死刑は既に決定事項です」


「む、死刑なんてそんな事をしたらダメですよ!

 家族なんですから、喧嘩する事はあっても仲良くしないと」


「お嬢様、こちらに幻のチーズと呼ばれるチーズを使用したチーズケーキがあるのですが」


 ま、幻のチーズを使った、チーズケーキ……


「如何なさいますか?」


「食べますっ!!」


 ふふふ、幻のチーズを使ったチーズケーキ。

 すなわち、幻のチーズケーキ!

 クレスも心配する必要は無さそうですし、存分に味わうとしましょうっ!!


「我が君っ!?」


「貴様の処刑場は向こうですよ」


「お、落ち着いて。

 さっきの団長さんにも言ったけど、平和的に行こう。

 話し合えばきっと分かり合えると思うんだ!」


「貴様の分かり合える事などありません、汚らわしい」


 いつもの事ながらメルヴィーってエンヴィーとグラトニー相手だと結構辛辣な事言いますね。

 けどまぁ喧嘩するほど仲がいいって言いますし……


「今日も平和ですね」


「そうだな。

 まぁ、一応魔教団との全面戦争中なんだけど」


 いつかの様に連行されて行ったエンヴィーを見送りつつ呟くと、リュグズールに楽しげに笑いながら頭を撫でられました。


 でも、確かにリュグズールの言う通りですね。

 もう既にある程度の趨勢は決したと言っても、まだ戦争中。

 平和とは言い難いし、油断は禁物ですね!









 それから暫く経った後。

 ルーミエルに厨二病と勘違いされ上に、超越者たる吸血鬼に2名に目を付けられた哀れな少年、クレスに支えられながらボロ雑巾と化したエンヴィーは……2人の哀れな同志は無事に帰還を果たすのだった……

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