第145話 派手な開戦

 帝国による鮮烈な宣戦布告から一夜明け、2つの砦の間にて、布陣を終えた双方の軍が向かい合っていた。


 17名の勇者率いる王国軍5万。

 対して、迎え撃つ帝国軍は僅かに1万。

 約5倍と言う圧倒的な数的優位を取られながらも、帝国軍に動揺は一切無い。


 寸分のブレなく隊列を組むその姿は、重厚な威圧感を放つ帝国軍。

 各国に黒い死神と恐れられる黒の軍服に身を包んだ帝国軍に王国軍の方がどよめき浮き足立つ。


 それは、昨日の宣戦布告の影響もあるだろう。

 しかし、最も大きな要因は帝国軍を率いて先頭に立つ2人の存在。


 飄々とした風貌の赤髪の青年と、軍服を完璧に着こなす薄い青髪の美女。

 2人が身につけているのは、それぞれの髪色と同じ赤と薄い青の特注の軍服。


 黒い死神と恐れられる帝国軍の軍服は、その通り名の通り黒を元にデザインされており。

 階級が上位の者であっても、多少の装飾はあっても基本デザインは変わらない。


 帝国軍に置いて特注の軍服着る事が出来るのは、頂点に立つ10人のみ。

 即ち、その軍服を身に纏うその2人こそ、帝国が誇る最高戦力たる十剣と言う事を意味する。


「いやー、面倒いなぁ。

 なんで俺っちが先陣を切らないとダメな訳? 俺っちまだ気分悪いんだけど……」


「文句を言わない!

 これは、我らに与えられた重大な任務なのですよ?

 それに、気分が悪いのは自業自得です」


 気だるげに片手でこめかみを抑えて項垂れるネロに、キッパリと断じる、七ノ剣・イヴ。

 十剣の中では、だらし無いネロをしっかり者のイヴが注意する、と言うお馴染みの光景だった。


「いや、気分悪いのはあのオッサン達のせいだからねっ!?」


「貴方も最後は調子に乗って飲んでいたでしょう?」


「そ、それは……」


 凍刃と言う2つ名に違わぬ冷たい目で睨まれ、思わずたじろぐネロ。

 天上の存在である十剣のたじろぐ姿に驚く帝国軍だが、王国軍の動揺は帝国軍の比ではなく。


 帝国十剣、それも2人が姿を見せると言う想定外の出来事。

 数的優位を利用した波状攻撃を仕掛けようとしていた王国軍だったが。

 第一波を率いる王国軍の司令官はミスを犯す。

 十剣への恐怖心と、ここで十剣を討ち取れれば……と言う功を焦る気持ちから。


『全軍、突撃』


 と言う大きなミスを。

 そして、司令官のその命令によって戦いの火蓋は切って落とされる。


「おっ? あれって突っ込んで来てる??」


「そのようですね」


 帝国軍の総数と同じ数である約1万もの軍勢が広範囲に渡って迫り来る。

 そんな状況下にあっても取り乱さず、2人の余裕が消える事は無い。


「いやー、やっぱ俺っちってツイてるっ!」


「貴方がツイているかどうかは別にどうでもいいですが、確かにこれで任務が果たしやすくなりましたね」


 ネロは戯けるように、イヴは上品に笑みを浮かべる。

 それと同時に迸る、凄まじいまでの魔力の奔流。

 そしてその魔力は2人の2つ名通りの現象となって牙を剥く。


 2人に与えられた任務。

 早朝、一ノ剣であるユリウスから伝えられたそれは、単純明快。


『開戦は、派手に行こう!』


 その任務を果たすにあたって、王国軍による全軍突撃は2人にとって好都合でしかなかった。


「忘却の炎に燃やされろ、燃え盛る世界プロミネンス!」


「氷結の前に砕けなさい、凍てつく世界アイスワールド!」


 一瞬にして王国兵は炎に包まれ、凍り付く。

 燃え盛る炎は灰すら残さず燃やし尽くし、凍てつく氷は全てを氷に包み込んで砕け散る。

 炎と氷が消えた時、そこには王国軍1万の姿は何処にも無かった。

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