第132話 カッコ悪いですっ!!

「ふぅ、流石に疲れましたね」


 何せ、今日一日で世界を丸ごと1つ創造。

 世界樹を転移させて、その事に気づかれないように超広範囲に幻覚を見せ続ける。

 それに加えて今やっている、世界樹の修復に掌握……


 我ながら、よく働きましたね。

 1週間……いや、1ヶ月はごろごろしても許される労働強度です!!


「お疲れ様でした。

 お休みになられますか?」


「そうしたいですけど……取り敢えず、あの子達の事が先決です。

 世界樹の修復と掌握も終わりましたし、帰るとしましょう」


 今現在、僕たちがいるのは攻め入る前と同様に鎖国国家エルラシルの上空。

 八大迷宮・大地の試練でもある世界樹を掌握して眠っている大神を起こす為に本部ではなく、この場に戻って来た訳です。


 尤も、それも一瞬で終わったので傍から見れば僕たちが突然現れた様にしか見えないでしょうけど。

 と言うか、そもそも誰も見ていないでしょうけどね。


「かしこまりました。

 では、お嬢様はこちらへ」


 そう言うや否や、メルヴィーによって抱き抱えられてしまいました。

 なんと言う早技っ! 他の皆んなが一切反応できないとは……


 てか、今のは絶対に狙ってましたね。

 今は満足そうな微笑みを浮かべてますけど……思い返してみれば、僕が翼を消した瞬間に目が鋭くなってた気がします。


 あれは、獲物を狙う捕食者の目です!

 今の何気ない会話の間に繰り広げられた応酬の数々、まさに戦いと呼ぶに相応しいやり取り。


 僕が『帰る』と口にした瞬間にオルグイユ、アヴァリス、リュグズールが互いに視線で牽制し。

 時には魔力を発して威嚇し合う。


 常人には……いや、達人であっても気付く事すらできない程に高度な応酬。

 しかし、初動の速さが違いすぎました。


 世界樹の掌握を済ませて、僕が翼を消した瞬間からの狙い澄ました神速の一手。

 ……メルヴィー、恐るべしですっ!!


「では、僭越ながら私が転移させて頂きます」


「よろしくお願いします」


 やっぱり転移って言ったらコレールですよね。

 もう既にメルヴィーに抱っこされちゃってますし、ここはコレールに任せるとしましょう。


 あれ? これって結構マズイ状況なんじゃ……

 今から捕まっていた子達の所に行く訳ですけど、今の僕はメルヴィーに抱っこされて……


 マズイですっ! これは非常にマズイ事になりましたっ!!

 捕まっていた状況から助け出してくれた謎の組織のボス。

 そんな人物が見た目相応に抱っこなんてされた状態で現れたりしたら……カッコ悪いですっ!!


「待っ……」


 コレールの転移魔法の発動を感知…くっ、間に合いませんっ!!

 転移魔法が発動されてからその効力が出るまでのロスタイムは0コンマ数秒以下、人間の認識速度を遥かに超えた刹那の時間。


 しかしっ!

 その時間であってもなんとかして見せます。

 しなければならないのですっ!!


 〝殲滅ノ神〟の思考加速で百万倍までに思考を加速し、さらに並列思考で思考能力を向上!

 ふっふっふ! 世界が止まって見えますよっ!!












 僕の目の前には綺麗に並べられた椅子に座らされている捕まっていた子達の姿。

 そして、僕はメルヴィーの腕の中。


 ふっ、これが挫折と言うもの。

 世の中、どうにもならない事の方が多いのです。

 だって、無理にあの状態から脱すれば、メルヴィーが悲しみそうですし……


 抱っこされているから何だと言うのです!

 笑いたければ笑うが良い。

 後でちょっとお腹を壊すかも知れませんが、それについては当局は一切関与していないと言い張りましょう!!


「では早速ですが、これからの事について説明を始めます」


 仕事モードになればこの状況も恥ずかしくない!

 ポーカーフェイスを極め、悟りの極致には至った僕は無表情で簡潔にそう告げました。

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