第89話 流石に想定外です……

 あの決闘とすら呼べない一方的な蹂躙から1日。

 王宮からお呼び出しされた僕達は、再びフェーニル王宮の応接室のソファーにお世話になっています。

 まぁ、僕とフェルだけですけど。


 目の前には、国王イヴァルさんと先日は居なかった宰相さんがソファーに腰掛ける。

 そして何故か、昨日瀕死に追いやられた筈の騎士団長アレックさんが何食わぬ顔で2人の背後に控えています。


 まさか、アレだけやられて、たった1日で復活を果たすとは……

 肉体的にもそうですが、特に精神的なダメージをかなり受けたんじゃないかなと思っていましたが。

 はっ!? こ、これは、まさかっ!


「一言だけ言わせていただきますが、私は決してマゾではありません」


 お、おう……まさか、声に出す前に制されるとは。

 コレールもそうですが、エスパーじみていますね。

 やっぱり苦労人同士、通じる所があるのでしょうか?


「アレック、お前は何を言っているんだ?」


「いえ、いつもの経験から言っておかなければならない気がしたので」


 訳がわからんと、言った顔をするイヴァル王。

 やっぱり、アレックさんもコレールと同じ気質のようですね。


「ち、父上! 何故そんなに落ち着いていらっしゃるのですかっ!?

 貴様! どの様なイカサマをしたのか知らんが、あんなのは無しだからな!!」


 喚くのは、何故か今日もこの場にいる残念王子こと、フェーニル王国の第一王子の……フ、フーリト君です!


「煩いぞ、フリード」


 げふん、げふん! 第一王子のフリード君です!!

 不愉快だから目に入らない様にしていたのに……


 とは言え、彼の言っている事にも一理ある。

 まぁ、後半の部分は支離滅裂な事を言っていますが。


 僕達が始める商売によっては、大きな損失を被る事になるのに、ここまでの落ち着きようは異常ですね。


「ですが!」


「黙っていろ」


 ギロッとイヴァル王に睨まれて、残念王子が思わず黙り込みました。

 今の王様って感じで、カッコよかったです!

 僕も今度やってみましょう。


「さてと」


 イヴァル王は昨日会ってから初めて見る真剣な表情で僕達の方に向き直る。

 ふっ! 仕方ありませんね。

 こうなれば、僕も必殺・お仕事モードを見せてやりましょう!!


「ルーミエル嬢、そしてリーヴ商会の方々、まずは謝罪をさせて欲しい。

 本当に申し訳なかった」


 イヴァル王がそう言うと同時に、隣の宰相さん、そしてアレックさんの3人が一斉に深々と頭を下げました。


「なっ!?

 父上! 何故この様な獣風情を連れいている下賎な者共に謝罪など!?」


 まだ言いますか、この残念王子は。

 けど、確かに一国の王ともあろう者がこうも深く謝罪をするなんて意外ですね。


「謝罪ですか。

 ふむ、それはそこの者に関してですか?」


 カッコよく、残念王子を冷ややかな視線で一瞥して冷静に言葉を返すのは僕ではなくコレールです。

 何せ昨日はかなり頑張って働きましたからね、もう暫くは働きたくありません。


 ビバ、不労収入です!

 誰がお仕事モードなんて疲労するものですかっ!


「それもある、だがそれだけでは無い」


「話を聞きましょうか。

 頭は上げて頂いて結構です、そうされていては話しづらいので」


 コレールの言葉を受けて、漸く顔を上げるイヴァル王達。

 因みに、残念王子はコレールの魔法で拘束されて口を開けずに、むごむご言っています。


 ちょっと可哀想ですが、まぁ騒がれては話が進みませんし。

 これは、自業自得という事で放置させてもらいましょう。


「まず、先ほどの謝罪の意味だが。

 今言った様にフリードの無礼もあるが、貴殿らを試す様な真似をした事に対しての謝罪だ」


「続けて下さい」


「先日、城に3人の勇者がやって来てな。

 まぁ、俺の娘を寄越せとかぬかしやがったからすぐさま追い出したんだが」


「なるほど。

 あの程度でも一般人にしてみれば脅威となります。

 城を追い出された彼らの行動を見張らせていた訳ですか」


「その通りだ」


 ふむふむ、つまりはホテルにて勇者トリオと再会した場面を誰かに見られていたと言う事ですか。

 まぁ、確かに勇者トリオを退ける力を持つ存在があれば、国王として探りを入れようとするのは当然ですね。


「尤も、奴らをつけていた密偵は爆音を聞いた後すぐさま撤退したようだが」


 密偵がそれでいいのか、と思いますが。

 あの時、コレール達から発せられていた殺気を考えてば納得です。

 主君に情報を伝えられずに死んでしまっては意味が無いですからね。


 しかし、それではどうやってアレをやったのが僕達だと分かったのでしょうか?


「あのホテルに泊まっていたのが貴殿らだけだったお陰ですぐに特定出来た」


 ……確かに言われてみれば、あのホテルは僕たちが貸し切っていましたね。


「それは盲点でした。

 分かりました、それに対する謝罪は受け入れましょう。

 探りを入れるのは貴方の立場であれば、当然の事ですので」


「感謝する。

 それでだ、貴殿らに1つ提案があるのだが。

 このフェーニル王国を貴殿らの傘下に加えてはもらえないだろうか?」


 突然の爆弾発言に、残念王子が唸りながら極限まで目を見開く。

 この顔はちょっと面白いですね、ツボりそうです。


 とまぁ冗談はさておき。

 宰相さんも、アレックさんも覚悟を決めた顔をしていますし、どうやら事前に話を聞いていた様ですね。


 となると、あの2人を納得させるだけの何かがあったと言う事。

 何故イヴァル王がその様な結論に至ったのか、理由が気になりますね。


「理由を聞いても?」


「神獣にノワールと名乗る謎の人物。

 ネルウァクス帝国で起こった2つの騒動が理由だ」


 これは、流石に想定外です……

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