第84話 詐欺ですよ!

宰相補佐官のネーブルさんに案内されてやって来たのは、お城にある応接室。

応接室とはいっても、そこは流石は王城。

高級感は保ちつつ上品さを損なわない調度品の数々。


いかにもお金がかかっていそうな装飾を施されたテーブルにソファー、足が沈み込む様な柔らかく分厚い絨毯。


「流石は商人の聖地フェーニルの王城、なかなかにやりますね……」


これは認めなくてはならないでしょう。

素晴らしい! レベルだと。


「確かに素晴らしい……ですが! 勝ちましたね」


「おめでとうございます、お嬢様」


「ありがとうございます、コレール」


もうニヤニヤが止まりません。

意識して我慢しようとしても勝手に頬が緩みます。


世界中から商人が集まる商業の聖地。

商業と文化の中心地であるフェーニルの王城よりも整った本部を作り上げた僕達。

これがニヤけずにいられますか!?


「規模、質、防衛設備に及ぶまで、まさに完勝です」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




なんて言っていたのが数分前の事です。

ふむふむ、やはりフェーニル王国、侮りがたし。


ナイトメア本部や別荘には劣るものの、ここのソファーも非常に素晴らしい。

座って数分もすれば、うとうとしてきました。


「エル、こっち」


1人舟を漕いでいると、僕の隣に座っていたフェルがそう言って自身の膝をぽんぽんと叩きました。


ふわふわのソファーで睡魔が襲ってきているこの状況下にて、この誘惑。

あぁ……自然と身体が吸い込まれていきそうです……


「リーヴ商会の諸君、お待たせしたな」


バンっ、と扉が開け放たれて、開口一番。

そんなことを言って1人の青年が入ってきました。


危なかった…危うくフェルの膝枕の誘惑に屈するところでした。


「お、お待ち下さい、陛下!」


それに続いて白銀の甲冑に身を包んだ、どこか苦労人を匂わせるイケメン。

あっ、さっきの残念王子も一緒ですね。


となると、最初に入ってきたイケメンがフェーニルの現国王ですか。

思っていたよりもだいぶ、かなり若いですね。


「待たせてしまって申し訳ないな。

俺がフェーニル王国の国王、イヴァル・フォン・フェーニル。

一応先に言っておくがこう見えて、俺は二十代後半だからな」


僕たちの対面のソファーに腰を下ろし、軽い感じで自己紹介してきました。

そして衝撃の告白、なんとこの外見で二十代後半!?

クラスメイト達と同年代にしか見えません、こんなの詐欺ですよ!



「陛下、もっと国王としての威厳を」


「何かたいこと言ってんだ、ここは公の場じゃないし別にいいんだよ。

おっと、コイツは我がフェーニル王国の騎士団長を務めているアレック。

こっちはさっき会ったようだが、第一王子のフリードだ」


「フェーニル王国、総騎士団長を務めております、アレック・ファルメスと言います。

どうぞ、お見知り置きを」


おぉ、なんか国王といい、騎士団長といい、第一王子とは違って良い印象の人ですね。

これはちゃんとした商談が出来そうで安心しました。


「私はリーヴ商会の会長をしています、コレールと言います」


「なんだ、後ろの方達は紹介してくれないのか?」


「ええ、必要ないと判断いたしました」


おぉ〜開始早々、バチバチと火花を散らすコレールとイヴァル王!

これは見ていて退屈しなさそうですね。


「フッ、面白い。

アレックもそう殺気立つな」


「…失礼致ししました」


イヴァル王がそう言うと、腰の剣に手を掛けていた騎士団長さんが素直に殺気を収めて手を離しました。

まぁちょっと不満そうでしたけど……


「でだ、早速商談っといきたいところだが」


イヴァル王はそこで言葉を切ると、何故か僕の方をジッと見てきました。


「まぁ、確かにフリードが気にいるのも無理はないな」


僕が首を傾げていると、唐突にそんな事を言いだしました。

よかった、ちょっとだけこの人がロリコンじゃないかと思ってしまいました。


「どうだろう、そこのお嬢さんとフリードの婚約を結ばないか?」


イヴァル王がそんな事を言い出して、皆んなが殺気立つ中。

僕は思わぬについつい、笑みを浮かべてしまいました。

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