第81話 まじカッケェーです!

「な、何しやがったテメェっ!?」


 あまりの惨状に、唖然としていた勇者A君が悲鳴の様な叫びを上げる。

 その目には恐怖が浮かんでますし。

 まぁ、自殺願望でもない限り、コレで帰ってくれるでしょう。


「さぁ、私の気が変わらない内に消えなさい」


 微笑を浮かべながらも、確かな瞳に殺気を灯すコレール。

 3人がいる場所から、出口までの地面が隆起し、3つの直線道が出来上がる。


 勇者トリオは、ヒイッ!

 と小さな悲鳴をあげると、我先にと扉に向かって走って行き……


「貴様ら、絶対に後悔するぞ! 覚えてろよっ!!」


 扉の前で走りながら肩越しに振り向き、正に小物臭あふれる負け惜しみを言い放ち、出て行ってしまいました。


 ふむ、外で待ち伏せ等はせずに本当に逃げて行った様ですね。

 一応、神眼を使って確認したので間違いありません。


「あれが勇者じゃ、世も末だな」


「確かに、リュグズールの言う通りです。

 アレが今代の勇者ならば、始末した方が良いのかもしれません」


「うん、あんな奴ら、殺すべき」


 呆れた様なリュグズールにアヴァリスが微笑みを浮かべ、フェルまでもがそんな事を言い出しました。

 あの優しいアヴァリスが、こんな物騒なことを言うとは……激おこですね。


「いいえ、アヴァリス様。

 あの程度の屑など、殺す価値すらありません」


「あの様な穢らわしい発情したオーク共には触れたくもありませんね」


 意外ですね。

 メルヴィーとオルグイユなら、真っ先に勇者トリオを抹殺しようとすると思ったのですが。


 けどまぁ、あの目は気持ち悪かったですしね。

 それにしても、勇者トリオからオークトリオに格下げとは……


「僕としては、程よい雑魚感があって面白かったと思いますよ?」


 以前、冒険者ギルドに行った時はコレールが早々に潰してしまいましたからね。

 まぁ確かにキモかったですし、ウザかったですけど……僕としては大満足です。


「皆んな結構ボロクソに言うよね……」


 エンヴィーが1人そう言って苦笑いを浮かべてるけど……

 今回のは、オークトリオが悪いので、何とも言えませんね。


 まぁでも、あの3人の事は、もうどうでもいいです。

 そんな事よりも今は……


「あの……コレ、どうするのですか?」


 目の前に広がるこの惨状!

 地面は抉れ、壁は吹き飛び、かなり酷い事になってます。

 このホテルを貸し切っていて良かったと心底思ってますよっ!?


「先程は、我々の不手際で不愉快なお思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」


 メルヴィーに抱っこされたまま、あたふたしてると。

 支配人さんが、頭を下げてきました。


 やめて欲しいです。

 どちらかと言うと、僕の方が頭を下げて謝りたいです。

 まぁ、ただでさえ人見知りなのに、こんな惨状……怖くて、まともに話せる気がしませんけど。


「可憐なお嬢様。

 貴女様がご心配する必要は、どこにもございません。

 本来ならば、あのような不躾な輩に対処するのは我々の仕事。

 それが出来なかった、我々の不手際です」


 僕を安心させる様に微笑みかけてくれる支配人さん。

 なんて、出来た人なのでしょうか!

 普通、大事なホテルをこんなにされたら激怒すると思うのですが。


「確かに、支配人の仰る事は正しい。

 ですが、このホテルを壊してしまった事もまた事実です」


 真っ直ぐ支配人さんと向き合うコレール。

 ここはコレールに任せるとしましょう。


「実は、我々はリーヴ商会の者なのですが。

 支配人、我々に買われてみませんか?」


 唐突にそんな事を切り出したコレール。

 ちょっとビックリしました。

 いきなりこんな事を言われて、支配人さんも困って……


「ふむ、あのリーヴ商会の」


 無いようですね。

 それどころか、さっきまでの優しい表情が一変。

 鋭い目つきになって、いかにも仕事モードって感じですね。


「フェーニルでトップの、このホテルの支配人に知って頂けているとは、光栄です」


「ご謙遜を。

 僅か一月程でその名を轟かせ。

 今やネルウァクス帝国で圧倒的な人気を誇る、大商会の噂を知らぬ者などこのフェーニルでも探す方が難しいでしょう」


 僕の知らぬ間に、まさかそれ程までに大きな商会になっていたとは……


「しかし、何故そのような大商会が私共を?

 その手腕があればこのフェーニルで、大きな成功を収めるのも容易いと思いますが?」


「我々にはいくつかの秘密があります。

 その1つに我々が運搬・移動手段として転移魔法陣を使っていますが、その為には拠点があった方がやりやすいのです」


「転移魔法陣ですか……しかしそのような重大な秘密を私などに明かして良かったのですか?

 私がこの事を国に報告すれば、フェーニルはあらゆる手を使って手に入れようとするでしょう。

 そうなれば、いずれは帝国や周辺各国に伝わりどうなるかわかりませんよ?」


「私が貴方は信用に足る人物だと判断したまでの事。

 もしあなた方をこの事を国に話しても私の目がその程度だっただけです。

 それに、我々がその気になれば周辺各国など恐れるに足りません」


 淀みなく断言したコレールに支配人さんが目を見開きますが。

 さっきの光景を思い出して納得したのか、すぐに鋭い顔に戻りました。


 まぁ確かに、周辺各国が転移魔法陣を手に入れようと迫ってきてもナイトメア本部に逃げればいいのでどうとでもなりますからね。


「……はっはっは!面白い。

 いいでしょう、我々はあなた方リーヴ商会に買われましょう!」


 ジッと、真偽に探るようにコレールを睨むように見ていた支配人さんが楽しそうに笑い出しました。

 そして、ニヤリと実に商売人らしい笑みを浮かべて手を差し出しました。


「我々の秘密は、転移魔法陣如き比ではありません。

 どうぞお楽しみにしていて下さい」


 それに対し、コレールもまた笑みを浮かべて、差し出された手を握りました。

 なんか知りませんけど、ホテルを買収して拠点をゲットしてしまいました。



 一言だけ言えるのは……

 コレール、スゲェーまじカッケェーです!

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