第58話 忘れてしまっていました

 商会の要となる魔水晶を作成した翌日。

 遂に商会の本店となる店をお屋敷の敷地内に建てようと、皆んなと一緒に帝都のお屋敷に転移しました。


 そして、そこからは圧巻の一言に尽きます。

 フェルが徐ろに手をかざすと、巨大な森林が出来上がり。

 その僅か数瞬の間にアヴァリスが地面を整え。

 次の瞬間にはオルグイユによってその森林の木々が消え去り、木材へと加工される……


 常人では何が起こったのか理解出来ない光景。

 しかし、神獣と呼ばれるコレール達の力を持ってすれば造作もない事なのです。


 因みに、僕も手伝おうとしたのに……何故かコレールが収納魔法から取り出したソファーに座らされてしまいました。


「あの、僕も何が手伝いますよ?」


 お店となる建物を作る。

 昨日のうちに設計図は書き上げたので、あとは組み立てるだけ。


 魔法を使って建造物を建てるなんて地球では絶対に経験出来ないです。

 一時期、ジオラマにハマった僕が、こんな面白そうな事やりたくない訳無いじゃないですか!


「いえ、お嬢様がその様な雑事をする必要はございません」


「ええ、コレール殿の言う通りですよ。

 もし仮にルーミエルお嬢様がお怪我でもなされたらと考えると私、夜も眠れません」


 お菓子をテーブルに並べていたコレールの無慈悲な言葉が僕の希望を打ち砕く。


 アヴァリスさえもが、ソファーに座っていた僕をヒョイっと膝の上に乗せて、微笑みを浮かべる。

 そして、優しく包み込む様に背後から抱き締められてしまいました。


「ぼ、僕の出番が……」


 その間にもフェル、オルグイユ、リュグズールの3名により凄まじい勢いでお店が建てられて行く。


 最初こそどうにかしてコレール、アヴァリス包囲網を突破しようと試みたものの……1分も経たないうちに諦めました。

 アヴァリスのもふもふ尻尾に包まれてその光景を眺めていましたけど何か?




 フェル、オルグイユ、リュグズールの3名により、設計図通り完璧に恙無くお店は完成しました。


 店舗と云う事もあって、商会本部であるお屋敷よりは小さいですが。

 それでも十分な広さを誇っています。


 屋敷と言っても過言では無い程立派な建物。

 店舗自体は3階建で、内装は白を基調とし、地面は純白の大理石タイルが埋められています。


 外見は普通の木材ですが。

 何とこの木材となった木にはフェルの加護がされており、魔法や物理に対する耐性がかなり高い。


 どれぐらい高いかと云うと。

 オリハルコンの宝剣でも擦り傷を付けれるかどうか。

 最早、異次元レベルです。


 そして、そんな店舗から奥のお屋敷に通じる通路も新たに増築されてしまいました。

 そんな建築物をたった3人で、それも10分もかからない内に……


 途中からアヴァリスの尻尾に夢中になってはいたけど、このスピードには驚きを隠せません。

 しかし、これをやったのがフェル達であると考えると妙に納得出来てしまうんですよね。


「お疲れ様でした。

 まさか、こんなに短時間で出来てしまうなんて、流石ですね!」


 一仕事終えたフェル達3名。

 汗一つかいていない……本当に流石ですね。


「お褒めに預かり光栄です」


「おうよ! こんくらい大した事ねえって」


 リュグズールはいつもの様に晴れやかな笑みで答えてくれたのですが。

 オルグイユは何故か恍惚とした表情を浮かべています?


「むぅ、アヴァリス。

 吾のいない間に……強敵」


 僕を膝に乗せているアヴァリスに対して対抗心を静かに燃やす。

 平和ですね。


「では、中を見て回るとしましょう!」


 店舗の一階部分はお店になっていて、食品・消耗品を中心に、武具や洋服なども取り扱っていくつもりです。

 まぁ、武具は違う支店を出した時になりそうですけど。


 二階は、従業員の休憩室や、在庫の管理などをする場所。

 三階は、事務や応接室、店長室など。


 店舗を皆んなで見て回り、最上階である三階にいた時……何やら外が騒がしくなって来ました。


「どうかしたのでしょうか?」


「私が確認して参ります」


 そう言って、コレールが一階に降りて行ってしまいました。


「う〜ん、取り敢えず僕達も行ってみる事にしましょう」


 階段を降り、大通りなら面した全面がショーウィンドウになっている一階に行くと。

 コレールと何やら話している騎士風の人物の姿。


「どうしたのですか?」


「それが、此方の帝国騎士団のお方が立ち入り調査をさせて欲しいとの事です」


 立ち入り調査、ですか。


「お店を荒らさない事。

 奥のお屋敷には入らずこの店舗のみでしたら結構ですよ」


「わかりました」


 僕がそう言うと、コレールと話していた騎士がムッとした顔になりました。

 まぁ、新星冒険者として名高いコレールがいるからか何も言う事も反論はありませんでしたけど。


「それにしても、こんな多勢で一体どうしたのでしょうか?」


 お店の前に集まった総勢100名程度の騎士達を一瞥し一人そうごちる。

 そして、この時僕は大変な事を忘れてしまっていたのです……


「申し訳ない。

 この場所で一瞬ですが強大な魔力反応が感知されまして。

 恐らくは間違いだと思うのですが、なにぶん、神獣の事があるので……」


 僕の疑問に対し、騎士の方が申し訳なさそうにそう教えてくれました。

 そう、常識という大変な事を忘れてしまっていたのです。

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