第39話 昇格しました!!

 さて、あれから1週間経って現在。

 冒険者ギルドに向かって歩いている訳ですが、転移で行かないのには勿論理由があります。


 第1として転移でギルドに行けば目立つ事が確実だから。

 まぁ1番の理由はコレールに『歩いて行きましょう』っていい笑顔で微笑んで来たからです。


 別に歩く事自体は健康に良いので構いませんけど。

 微笑むコレールを前に嫌と言う勇気は僕にはありませんでした……


 ふふふ、けどまぁ、この1週間はとても有意義な時間を過ごす事が出来ました!

 ホテルから一歩も出ず、ずっと引きこもっていた訳ですからね!!


 尤も、ヒキニートの僕からしてみれば、これが通常ですけど、。

 それに、ただ引きこもっていた訳ではありません。


 コレールに八つ当たりしてしまった事もしっかりと謝罪しましたし。

 ホテルに内接されていた図書館を用いて、のこの世界の勉強。

 新聞とかで僕が追放されてからの情勢を調べたり。


 新しい魔法〝星天魔法〟の調整、ステータスの調整と年齢などの謎に対する推察など、やる事はそれなりにありましたが……


 ヒキニートにして、ゲーマーとしての一面を持つ僕からしてみれば、まさに至福のひと時だったと言えるでしょう。


「これで、それなりの資金が貯まると良いのですが」


「人間にとって、火竜はかなりの価値があります。

 あの数であれば、十分な大金になる筈ですよ」


「そうなのですか?

 やっぱり腐ってもドラゴンって訳ですか……っと、着きましたね」


 この火竜の買取額だけで、商会を立ち上げることが可能なだけの資金が、集まってくれたら嬉しいのですが。

 まぁ、そう思い通りに上手く行かないのが世の常ですけど……


 ギルド内に踏み入ると同時にギルド内にいた冒険者達の視線が集中します。

 そんな熱い視線を向けられても、困るんですけど……。


 う〜ん、やっぱり前回の事が原因でしょうか?

 流石にギルドマスターと揉め事を起こしたのは不味かったですか。


 ヒキニートを極めた、超絶人見知りの僕にはこの視線は辛いですね。

 よし、コレールの陰に隠れておくとしましょう。


 スッと、コレールの後ろに回ると……見えるのはコレールの腰。

 今の僕の視線はコレールの腰よりも少し上程度……今更ですが、ちょっとショックです。


「お待ちしておりました、コレールさん、ルーミエルちゃん」


「1週間ぶりですね、エメルさん」


 周囲の視線と想定外の精神ダメージを受けて少し俯いていると、エメルさんが出迎えてくれました。

 流石ですねコレール、この状況下で普通に受け答えできるとは……


「こんにちは、エメルさん」


 どうですかっ! いつもよりも流暢なこの挨拶!!

 ふっ! どうやら僕は自分でも気付かない内に、日に日に成長していた様です。


 まぁ、まだ直視は出来ませんけど。

 この調子でいけば、人見知りと言う名の強敵に打ち勝ち克服する事も可能でしょう!


「……」


 あれ? どうしたのでしょうか?

 エメルさんだけで無く、他の冒険者さん達も呆けた様な顔をしてこっちを凝視しています。


「お嬢様、危険です」


 突然コレールがそんな事を言って、周囲の視線を遮る様に僕の前に立ちました。

 何が危険なのかはわかりませんが、これは非常にありがたい。

 少しずつ人見知りを克服しているとは言え、流石にあれだけ注目を浴びるのは無理です。


「では、応接室までお越し頂いてもよろしいですか?」


 どうやら正気を取り戻したらしいエメルさんにコレールが肯定の言葉を返す。

 そして、最早お馴染みと言っても良い応接室にやって来ました。


 周囲の視線と言う試練を乗り越えたのです!!

 尤も、周りの視線に耐えきれずに、俯きながらコレールの服の裾を握って着いて行っただけですけど。


「はぁ〜い、どうぞルーミエルちゃん」


 応接室のソファーに座って一息ついていると、前回途中で食べ損ねたケーキをエメルさんが持って来てくれました。


 それから僕がどうなったかは言うまでもないでしょう……勿論、激戦を繰り広げましたとも!


「さて、コレールさんとルーミエルちゃんのお2人に納品して頂いきました火竜総計208体ですが、買取が完了しております。

 内訳ですが、依頼の一体に29体を加えた30体を依頼主であるクーミラ伯爵様。

 ギルドと帝国が50体ずつ、大賢者様が残りの78体を買い取られました」


 うーん、個人で国やギルド以上の数を買い取るとは……大賢者って名前に負けない凄さですね。


「クーミラ伯爵様が依頼報酬の金貨200枚に加えて、一体につき金貨200枚。

 ギルドとしましては火竜の状態を考慮して一体につき金貨250枚。

 帝国が一体につき金貨200枚、そして大賢者様が一体につき金貨300枚。

 総計、金貨にして51900枚になります」


 因みに、この世界での通貨は下から順に銅貨・銀貨・金貨・白金貨の5種類。

 銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚となっています。


 銅貨が日本円にして十円、銀貨が千円、金貨が十万円、白金貨が何と一千万円と言った具合ですね。


 そして今回の金貨51900枚。

 これって、かなり儲かったのでは無いでしょうか?


 白金貨にして519枚、日本円で51億9000万円になりますからね。

 まぁそれなりの金額と見て良いでしょう。


「これは冒険者ギルドが誇っていた一回の買取記録を大きく塗り替えましたよ」


 ちょっと興奮気味に話すエメルさん。

 最近、クールビューティのはずのエメルさんのイメージが少し崩れて来ましたね。


 う〜ん、この世界の一般市民の4人家族が一月金貨2枚で十分生活できる事を考えれば、この反応が普通なのでしょうか?


 地球にいた時に、このくらいの金額は扱っていたのでイマイチわかりません。

 まぁこれだけ資金があれば商会を作る事は可能でしょう。

 それよりも今は、このケーキとの激戦の方が重要です!


「わかりました。

 ありがとうございます」


「いえ、我々の方こそ貴重な竜種の素材を沢山確保出来ましたので、お礼を申し上げます。

 ではすぐに、お金を用意しますので少々お待ちください」


 エメルさんが手元にあった鈴を鳴らすと、カートを押した職員さんが入って来ました。


「では、こちらがお支払額の白金貨519枚になります。

 ご確認下さい」


 ケーキを食べながらチラッとカートに積まれた貨幣の山を解析すると、確かに白金貨519枚と出ました。


「確かに白金貨で519枚、確認しました」


「これ程の大金です。

 ギルドの口座に預金する事をお勧めしますが、如何なさいますか?」


「遠慮しておきます。

 私は空間魔法を使えるので、誰かにスラれる事はありませんので」


 コレールがそう言うや否や、カートの上にあった白金貨の山が消え去りました。


「流石ですね。

 実はもう1つお話がありまして、ルーミエルちゃんのBランク昇格という話なのですが」


「お嬢様のランクですか……如何なさいますかお嬢様?」


 コレールにそう聞かれたので、ケーキを食べがらコクンと頷く。

 これで僕もBランク冒険者……素晴らしいですねっ!!


「今回は火竜の討伐と大賢者様の推薦もあり、昇格試験は免除となります。

 ではルーミエルちゃん、ギルドカードを提示して貰えますか?」


 何故か生暖かい目で微笑むエメルさんに再びコクンと頷き、〝無限収納〟からギルドカードを机の上に取り出しました。


「では少し待っていて下さいね」


 カートを押して来た職員さんと共に、応接室を出て行ってしまいました。

 これはマズイ事になりました。


 このままではケーキを全種類食べるのは僕の身体的にも時間的にも無理そうです。

 非常に残念です……また今度ケーキ屋さんを探してみるとしましょう。


「お待たせ致しました。

 こちらがミスリル等級、Bランクの冒険者カードになります」


「モグモグ……ありがとう、ございます」


 よし、ちゃんとお礼も言えました!

 それにこれでBランクに昇格しました!! コレールに少し追いつきましたね。


 Bランク冒険者になったこの余韻に浸りたいところですが、今はそれよりもケーキです!


 エメルさんから受け取ったギルドカードを間髪入れずに収納。

 その後、食べかけであったケーキを食べ切った僕達は冒険者ギルドを後にしました。


「では、コレール! これから商業ギルドに向かいますよっ!」


「かしこまりました、お嬢様」


 さて、これでやっと僕の商会を作れそうですね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る