第5話 まさかの群れでした

 八大迷宮が一角、深淵の試練の第101階層。


 世界最大規模を誇る八大迷宮の裏ステージに強制追放。

 しかも、一度裏ステージに足を踏み入れると上層階に繋がる通路に自動で結界が張られ、攻略以外に脱出する方法が無いと言う超絶鬼畜モード。


 光も無く、元来人が生きていける環境では無いこの場所で俺は今……12匹のワンちゃんに囲まれている真っ最中です。


 ワンちゃんと言っても地球のそれとは似ても似つかない存在。

 グルルゥゥと、低い声で唸り、その顔には赤く爛々と輝く瞳が2対。

 そして何より体長2メートル超えと言う凄まじいスペックのワンちゃんなのです。


 そう、今俺はさっきホーリーで頭を消し飛ばした、魔物と同じ魔物に取り囲まれています。


 なんとあの犬は群れで活動しているようで。

 またまた群れを離れていたアイツを殺した事で、この群れに目をつけられたみたいです。


 今にも飛びかかって来そうな雰囲気の魔物達が殺到してこないのは、コイツらの仲間を殺ったホーリーを警戒しての事でしょう。

 しかし、この状態は俺にとってかなり……と言うか、絶体絶命のピンチです。


 ホーリーの威力は確かに高いし魔力消費も一万程度と大したコストでも無い。

 しかし、そんなホーリーにも欠点がある。

 それは対単体用の攻撃手段だと言う事。


 敵が一体のみの場合には絶大な効果を発揮するだろう。

 しかし今回のように一対多の場合には大きな戦果を挙げることは叶わない。


 数匹を殺したところで、魔物を全滅させるよりも俺が食い殺される方が確実に早いのですから。


 先の戦いでレベルもかなり上がりましたが、現状のステータスで魔物達に敵うかは判らない……

 相手のステータスを見ることが出来るスキルを取った方が良さそうですね。


 まぁ、その様なスキルが存在するのかは不明ですが。

 恐らくは存在するでしょう、ラノベでは定番の能力ですしね。


 おっと、こんな事を悠長に考えている場合ではありませんでした。

 俺の今のステータスで、この危機的状況を打破するのは難しいですが……どうにかしなければ死ぬだけです。


「グヴォォヴ」


 そんな唸り声と共に群れの中の1匹が、尻尾を鞭の様にしならせ俺に叩きつける動きを見せる。

 考え事をしていた俺はその対応に一瞬遅れた。


 その直径30センチ程度の太さを誇る尻尾が直撃する前に、腕を差し込んでガードするのが精一杯。

 その衝撃で片腕がバキュリとイヤな音がし、30メートルくらい吹き飛ばされ、背後にあった岩に叩きつけられてやっと止まった。


「かはっ!」


 一気に肺の空気が押し出されて、思わず咽せ返る。

 さっきのレベルアップがなければ確実に死んでいただろう威力の一撃。


 点滅する視界でどうにか、敵を睨む。

 絶望的な事に尻尾をぶつけてきたのは、ただの様子見のようですね。


 奴らの全力はこんなものでは無いという事ですか。

 今の俺では、手も足も出ない様なステータスをあの犬1匹1匹が持っているのは確実ですね。


 そして、その様子見の攻撃を受けて満身創痍になっている俺を見て犬どもの目に余裕が宿る。


 今までは仲間を殺されたところを目撃し、警戒していた。

 しかし、様子見の攻撃で死にそうな俺を見て先程のは偶然だった、とでも思ったのだろう。


「くっくっく」


 こんな絶望的な状態にありながら俺は何故か笑って、いや嗤っていた。


「ハハハ、いいぞクソ犬ども、その目だ。

 その目が命取りになる、くっくっく」


 突然嗤い出した俺に対し、特に警戒した様子も無く。

 群れでその輪を小さくし近づいてくる。

 恐らく過去にここに追放された者が死に際に笑った事でもあったのだろう。

 その動きに迷いは無く、手慣れた様子が窺える。


「くっくっく、死ね」


 そう言って俺は魔法を発動させる。

 発動する魔法はさっきと同じ光魔法LV10のホーリー。

 ただし今回はさっきとは比べ物にならないほどの魔力でだ。


 確かにホーリーはこの状況では通用しない。

 しかし、それはホーリーが敵に通じないわけでは無い。

 敵が全方向から来るのなら、こちらも全方向に放てばいいだけだ。


 俺を中心とした犬どもを含む範囲内をドーム状に光で満たすイメージでホーリーを発動させる。


 俺が〝世界地図〟の権能を使って指定した俺を中心とした半径50メートルを、放たれた光が数秒をかけて覆い尽くす。


 そして光が広かった時と同じように俺から徐々に光が消え本来の闇が戻ってくる。

 そして全ての光が消えた時、そこには何も残ってはいなかった。

 発動者である俺以外は……


 さっきまで俺の事を取り囲んでいた犬型魔物の群れも。

 俺の背後にあった岩も、何もかもが消滅していた。


 そして、凄まじい疲労感が襲ってくる。

 思わず膝をついた直後、脳内にアナウンスが流れる。


【レベルが上がりました。

 LV116→LV345

 スキル「滅光魔法」を獲得しました!】


 瞬間、今の疲労感が嘘のように消失した。

 そして体が力で満たされる。


 かなりレベルが上がりましたが。

 1匹だけの一度目に比べて今回は12匹も殺したと言うのに、レベルの上昇率は約倍程度。

 上昇率はかなり落ちましたね。

 やはりレベルが上がるにつれ、レベルアップに必要な経験値数が多くなるようですね。


 早くステータスを確認したいが、それよりも前にまず完全に潰された腕を治癒する必要がある。

 何故かというと戦闘が終わったからか、脳内麻薬が切れて信じられない程の激痛が押し寄せて来ているからです。


「神聖魔法・聖なる癒し」


 光魔法がLV10になった事で発現した上位属性の神聖魔法LV1の聖なる癒しを自らに発動。

 すると完全に潰されていた腕がみるみる元に戻っていき、痛みも嘘のように引いていきました。


 腕を治そうと結構な魔力を注ぎ込んだし、流石は上位属性と言ったところでしょうか。

 しかしまさか、LV1でここまでの効果を発揮するとは思ってもいませんでした。


【「神聖魔法」のレベルが上がりました!】


 その効果に驚いていると、またもやアナウンスが聞こえました。

 どうやら、一回使っただけでスキルの熟練値を満たしてしまったようですね。


 一回使っただけでLVが上がるという事は、神聖魔法はかなりLVを上げやすい仕様になっているのでしょうか?


 ちなみに光魔法はLV10のホーリー以外は主に撹乱系や補助的な魔法ですが。

 上位属性の神聖魔法は回復系が主になっているようです。

 今の俺にとって回復手段は命綱になるのでありがたい限りです。


 そしてステータスを確認する前にもう1つする事があります。

 それはユニークスキル〝等価交換〟を使ってのスキル取得。


 理由としては、今回の戦闘で相手のステータスを見ることが出来るスキルが欲しいと思ったのと。

 一々、ステータスオープンなんて言うのは流石にイタイ。


(等価交換)


 念じると、すぐさまスキル表が浮かび上がる。

 その後スキルの中を探ると鑑定と言うスキルを発見した。

 何と、かの鑑定スキルはそこそこレアなスキルだそうで特殊スキルに該当していました。


 特殊スキルとは習得するのに何らかの条件が存在するスキルの事を言い。

 ユニークスキル程ではないが特殊スキルを持っている者は非常に少ない。


 俺の〝等価交換〟では買う事が出来るモノしか表示される事はない。

 そして上位スキルとユニークスキルなどの特殊なものは一度見なければ買う事が出来ない。

 しかし、今ここに鑑定が特殊スキルとして表示されているのは何故なのか?


 それはつまり、この世界に来てから鑑定を目撃していると言う事に他ならないのですが。

 そんなモノを見た覚えないですね。


 もしあの犬型魔物が鑑定を持っていたとしたら、戸惑う事なく俺に襲いかかって来ていたでしょうし……謎ですね。


 今、可能性として挙がるのは城で誰かに鑑定されたか、あるいはあのドラゴンが鑑定を使っていたかですが。

 前者なら俺が吸血鬼じゃないと訂正してくれなかったのが解せませんし。

 後者なら近くに獲物がいないのにも関わらず鑑定を使うのかと言う謎が残りますね。


 まぁもし前者の仮定が正解だとしたら、かなりムカつきますね。

 まぁ今この事を考えてもどうもならないですし、重要なのは鑑定スキルを買う事が出来ると言う点ですけど。


(ステータスオープン)



 名前:コウキ・イナミ

 種族:人間

 年齢:17歳

 レベル:345(116)

 二つ名:無し


 ステータス

 生命力:6800

 魔力 :203,900,000/205,000,000

 力  :7550

 敏捷 :7650

 体力 :7800


 スキル:「光魔法LV10」「神聖魔法LV2(up)」「滅光魔法(new)」「夜目」


 特殊スキル:「鑑定」


 ユニークスキル:「等価交換」「世界地図」「無限収納」


 称号:「転移者」



 魔物のステータスを見てないから何とも言えませんが、初期の頃と比べらた比較にならない程ステータスが高くなった。


 ちなみに今回獲得した滅光魔法と、買った鑑定スキルはLVが存在しないスキルのようですね。



 スキル・滅光魔法

 :光魔法LV10ホーリーに対する上位スキル。

 光魔法の上位属性・神聖魔法とは違い、ホーリーのみに対しての上位スキル。

 :ホーリーを自由自在に操る事が出来る。

 ただし形状によって魔力消費が異なる。


 特殊スキル・鑑定

 :草や魔物、人などの様々なステータスを見る事が出来るスキル。

 :隠蔽・偽装などのスキルで正確に見る事が出来ない場合がある。



 鑑定は、まぁ想像通りの権能。

 しかし、もう1つの滅光魔法がかなりエグい権能をしていますね。

 あのホーリーを自由自在に操る事が出来るだけでかなりの脅威と言えます。


 恐らくこの滅光魔法は魔法スキルなのでスキル欄に表示されているだけで、ユニークスキルと同等の強力なスキルでしょう。

 それだけこのスキルは強力です。


 しかし、その強力な滅光魔法でも、ここの魔物達にどこまで通用するかはわかりませんし、油断は禁物です。

 油断は死に直結しますからね。


 ここは安全な日本でも、守ってもらえる王城でも無い、強大な魔物達が蠢き牙を剥くダンジョン。

 それも八大迷宮の裏ステージなのですから。


 しかし、攻撃手段がホーリーだけとは、かなり心許ないですね。

 ここは魔力を犠牲にして全属性魔法スキルを買っておくべきでしょうか?


 しかし何度も言うが、ここは危険なダンジョンの中。

 そんな場所で物理的な武器も無く、ステータス的にも敵わない今、魔力を失うことは自殺行為に等しいですね……


 まぁ魔法スキルは何時でも買う事ができますし、魔力的に余裕がある時に少しずつ買って行くとしましょう。


「はぁ、早く地上に戻りたいですね……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る