第四話
何も起こらなかった。だから、きっと、大丈夫、そうわたしたちは結論付けた。それでも、不安でソフト関連を担当していたナツとフユだけを残してわたしたちは一旦、帰ることになった。
「ねぇ、ハル。本当に大丈夫、かな?」
「……」
「ハル?聞いてる?」
「想像以上にヤバいかもしれない」
ハルの方を見ると、顔が真っ青だった。
ハルはわたしに今では誰でも持っているAI搭載の携帯、AIフォンを見せてきた。
画面に写し出されているのは地図アプリ。けれど、現在地はフランスのパリになっている。GPSだけでなく、周辺の情報から1ミリの誤差もなく表示されているはずの地図アプリに。
「どういう、こと?」
「さっきのウイルス。きっと、あれが世界中に広まってしまった、と考えるのが……。ごめん、何もできないかもしれないけど、俺も何とかして戻る」
ハルは来た道を戻っていってしまった。
周囲を見れば、信号はぐちゃぐちゃになっていて、AIによる自動走行の車も至るところで事故を起こし始めていた。
わたしも何もできない。それでも、戻ろうとしたら、AIフォンが鳴り出した。見ると、お兄ちゃんからの電話。不思議に思いながら出ると、
『ははははは、お前ら、シキを起動させたな?お前らのせいで世界は大混乱だ』
「え?お兄ちゃん?何か、知ってるの?」
『あぁ。知ってるさ。何しろ、シキにウイルスを感染させたのはこの俺だからな』
「どういうこと?何で、お兄ちゃんが?」
『あれは本来、俺が考えたものだ。それをお前らが盗んだんだろうが!だから、その罰だよ!』
「違う!わたしたちはそんなつもりはなかった!だから、研究成果だって発表しなかったし、だから、お兄ちゃん達が……」
『黙れ。その上から目線がムカつくんだよ。自分達はこんな素晴らしいものを作りました。でも、その成果だけは差し上げます。どうぞ、受け取ってください、ってか?ふざけんなよ!そんなお情けなんて俺はいらねぇんだよ!あれを考えるのに何年かかったと思う?それを、お前らは少し聞いただけで追い抜きやがって。だから、作ったんだよ。AIに特化したウイルスを。AI自身に進化させて、拡散させるウイルスをな!』
わたしは何も言えなくなってしまった。
確かに、わたしたちはお兄ちゃんの研究を聞いて、それでシキを作った。でも、それはお兄ちゃんのためになるって思ったからで……。
『もう完全に手遅れ、だな。世界は崩壊する!俺の作ったウイルス、
「わたしは、諦めない!シキも、この世界も!」
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