第117話:ルール説明時、美咲は
先ほど放送部の副部長の子が言っていた例の場所ことスタート地点から5㎞離れた場所にいる私と彩乃はどこから持ってきたんだかと呆れるほど大きいモニターの前に集まり自分の彼氏もしくは現在良い感じの関係を築けている相手が各クラスの代表選手として紹介されると歓声等の声を上げる女子達の少し後ろでその両方を眺めているというか………
(なんでこの子はワザとみんなの後ろでモニターを見ているだけでなくこんなに強気というか、絶対王者感を出しちゃってるのさ。確かに一之瀬君が彼氏ならそういうオーラを出しても全く問題ないというか、逆にそれくらいしておかないと変な虫が寄ってくるのかもしれないけど…それに巻き込まれてるこっちの気持ちも少しは考えてくれないかなぁ⁉)
という私の心の声を聞いて煽りにきたんですかと問いたくなる程さっきまでの選手紹介とは明らかに違うテンションで
『ここまで紹介してきた選手の皆さん中々魅力的で彼女さんがいなければ今すぐにでも自分がアタックしに行きたいほどの男子ばかりでしたが……そんな中でも今私が一番気になっているだけでなく女子の間で密かに注目を集めているが謎が多すぎる男 の子にして今大会最後の参加選手こと、一之瀬陽太く~ん♪』
そう言った瞬間放送部の子の声色や表情、延いてはモニターの向こう側にいる一部の女子達が黄色い声を上げ始めたことが大変気に障ったらしく一斉にこちらを睨むかのように振り向いてきたのだが
「………………」
(無視⁉ まさかのガン無視⁉ こんなことでこの子が一々恐縮とかするわけないことは最初から分かってはいたけれど、普通少しくらい反応するでしょ! するでしょっていうか余裕の笑みでもなんでもいいんで取り敢えずリアクション取ってくれませんかね‼)
という私の心の声をまた聞かれていたかのようなタイミングで今度は彩乃が『無視=相手にしていない証拠』みたいなことを言い出したりはしなかっ………
(あれ? もしかしてそういった意味も込めて現在進行形で無視してたり?)
『彼の容姿が良いのは言わずもがな、髪を染めたり何かアクセサリーを着けるなどのオシャレアイテムを一切使わないどころかヘアワックスすら着けていないだけではなく自分から初期装備である制服のブレザーとネクタイを放棄し、その代わりに羽織っている市販のカーディガン一枚と独自で編み出したと思われる制服着崩しコーデ&彼が日頃纏う雰囲気のみで真面目な人感とチャラい人感の両方を出し続けているモデル顔負けの一之瀬君ですが、それはジャージ姿でも尚健在‼』
『というか市販の半袖白ジャージとテニスウェアーの半ズボンの下に黒のヒートテックを上下ともに着ているこの格好……もしかしなくても部活の時にのみにしているという噂の激レア陽太君じゃないですか‼ しかも今回の参加選手の足元を見てみると揃いも揃っていかにも今日の為に買いましたみたいな新品ピッカピカの例のピンクの靴を履いているにも関わらず一人だけ部活でのランニング時に履いているであろうことが分かる普通のランニングシューズ』
『流石は去年のシャトルランで学年一位になっただけではなく中身もイケメンなよーたくん♡ ということで取り敢えず私に会員初のよーたくんのことをよーくんと呼ぶ権利をください、会長‼』
(最近女子の間で一之瀬君のファンクラブができたらしいっていう噂は聞いたことがあるけれど……えっ、本当にあるの? というかハッキリと明言していないとはいえそれがあることがほぼ確実であるにも関わらず隣にいる彩乃がずっと黙ってるとかおかしくない?)
そんなことを思った私はモニターから彼女の方へと視線を移そうとした瞬間先ほどまでの上機嫌さはどこへやら
『ぅん゛っーーー、せっかく人が全校生徒の前でよーたくんの素晴らしさを話してるっていうのにさっきから何回も何回も私のスマホに電話を掛けてきて! 全部無視してる時点で出れない状況にあることくらい誰にでも分かるでしょうに‼』
そう言った後一応みんなに断りを入れてから自分のスマホの画面を見た瞬間、これまた先ほどまでのイライラはどこへやら。今度はどこか嬉しそうな、それでいて少し脅えているような感じで
『電話に出るのが遅くなってしまいすいません、○○です』
(この喋り方的に相手は部活か何かの先輩からだった…としたら嬉しそうにする意味が分からな―――)
「お疲れさま」
(って、さっきから大人しいと思ったら彩乃も誰かに電話を掛けてたからなのね。電話の相手が誰だか知らないけど電話に出るタイミングも含めてナイス過ぎる! 中々それに相手が出なかったのか声のトーンが……結構本気で怒ってる感じだけど、取り敢えずよくやったよ、うん‼)
『そんな畏れ多いお言葉…私などにはまだ早すぎます』
「………まあそれはいいとして、確かに私は○○にひーくんの件に関しての許可を出したけど、それと一緒に『うちで一番大切なあのルールは絶対に守ること』って言ったよね?」
(ははは……たまたま、だよね?)
『この場であのルールに関することを喋って万が一の場合があってはいけませんので私の口からは言えませんが、ちゃんと覚えています』
「まあそれもモニター越しに見た感じでとはいえ私の予想通りかなり集中しているみたいだからひーくんの耳には何も聞こえていない&○○を含めほとんどの子達からしたら部活中の彼の姿は超レアだろうし、あそこまで盛り上がりたくなる気持ちは分からなくもないけれど明日香以外の人がよーくん呼びをしようとするとか…ちょっと調子に乗りすぎたんじゃない?」
『………その場のノリで言ってしまったこととはいえ今冷静になって思い出してみると呼び方の件に関しては仰る通り調子に乗りすぎでしたし、よーたくんに私達のことがバレてしまう可能性があるにも関わらず皆さん満場一致で許可を下さったにも関わらず私が勝手に暴走したせいで……』
現在進行形で薄々気付き始めていることについて現実逃避をしたいというのが本音なのだが、流石に全校生徒の前で公開お説教のようなことをされている子をこれ以上放っておくのも可哀想なので○○さんの電話相手であろう人物に注意しようかと思った瞬間
「はいはい、ちゃんと反省したのならそれでよし。自分でお説教しておいてなんだけど一々そんなに落ち込まない。あと○○の仕事はこれからが本番なんだから早くさっきまでのテンションに戻って頑張りなさい」
(はぁー、ここまで二人の会話がかみ合っているのにたまたまなわけがないんですよねー。んーと、ここまでの情報を元に考察するに噂で聞いたことがある一之瀬君のファンクラブは実在しており、この子がその件に関して何も文句を言わない時点で恐らくそこの会長がちゃんと彼女である彩乃に許可を取っ―――)
『はっ、はい! ありがとうございます、会長‼』
(………会長⁉)
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